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多くの企業が「ITイノベーション」や「デジタルトランスフォーメーション」といった変化を求めている。こうした取り組みに対し、組織改革、必要な人材、キャリア形成の面から「変革のノウハウ」を具体的に紹介する新著『
ソフトウェア・ファースト(日経BP)』を上梓した及川卓也氏。マイクロソフトやグーグルにて開発責任者を務めた及川氏が日本企業に指摘する「ソフトウェア内製化」が必要な理由とは。
ソフトウェア・ファーストに理想的な体制を考える前に
ビジネス+ITの読者の方はソフトウェアの重要性については理解されていると思います。そこで、ここではソフトウェア・ファーストに必要なIT活用の「手の内化※」で中心を担うことになるエンジニアリング組織のあり方について考えていきます。エンジニアリング組織はプロダクト開発・運用の主役になるだけでなく、事業サイドと正しい形で連携の取れる組織でなければなりません。
※手の内化......トヨタグループで使われている言葉で、80年代に発展したカーエレクトロニクス分野の関連機能をグループ内で内製化したことを「手の内化」と呼んでいたそうです。筆者なりに意訳すると、自社プロダクトの進化にかかわる重要な技術を自分たちが主導権を持って企画・開発し、事業上の武器にしていくことを「手の内化」と定義しています。
多くの産業がサービス化し、体験が価値を持つ現在、経営陣を含めITに詳しくない人たちがテクノロジーへの造詣を深めなければならないのですが、同時に技術者も変わっていく必要があります。
たとえば従来型の情報システム部門の中には、自分たち自身で「事業サイドの指示を実行するだけの下請けチーム」にしてしまっているケースが散見されます。また、エンジニアリング組織が適切に機能していないと、顧客満足度の最大化よりも技術的な実現性で意思決定をしてしまい、変革のボトルネックになってしまう懸念さえあります。
もしあなたの勤め先がこうした状況ならば、開発組織を整備する前に問題点を洗い出し、払拭しておかなければなりません。
開発を外部委託する問題点
最初に考えたいのは、現時点で多くの事業会社が行っている「システム開発の外部委託」問題です。社内に情報システム担当部があっても、その部署がソフトウェア・ファーストの実行部隊としてきちんとエンジニアリングを行っているとは限りません。まずはそこから考えてみましょう。
DXはもちろん、ITを活用した新規事業開発に取り組む際に、専任の開発部隊は必要でしょうか?
社内の基幹システム(コスト削減や効率化を重視する「
モード1」のシステムです)を保守・運用している情報システム部があるのだから、彼らを通じて付き合いのあるSIerやITベンダーに発注すれば、あえて社内に開発部隊を作る必要なんてないという考え方もできるでしょう。
しかし、筆者はDXの本質を「IT活用を手の内化すること」と定義し、できる限り開発を内製化するのが理想だと考えています。これはDXに限らず、あらゆる企業がソフトウェア・ファーストを実践する上で必要な一手となります。
ここで言う内製化とは、プロダクトの企画、開発、運用に至るまでを社内で行うことです。内製化する最大のメリットはスピードです。
現代のソフトウェア開発では反復(イテレーション)が基本になります。仮説検証サイクルと言ってもいいでしょう。
プロトタイプができたら、それを実際にターゲットユーザーに触ってもらい、結果を元に修正をかける。プロダクトを世に出した後も、ユーザーの反応を見ながら改善を加えていき、より使われるものに育てていく。この反復作業をスピーディーに行うのが肝になります。
なぜスピーディーなアップデートが必要なのか
今日、プロダクトの評価はすぐに広まります。ユーザーはTwitterなどのソーシャルメディアに使ってみた感想を投稿しますし、iPhoneのアップストアやAndroidのプレイストアのようなマーケットプレイスでは他ユーザーのレビューとコメントが見れます。ユーザーのフィードバックがすぐに得られる時代になったからこそ、ユーザーに使い続けてもらうための対応は迅速に行わなければなりません。
マーケットプレイスでのレビューのように、一度付いたネガティブなイメージを払拭するのは難しくなっているのです。
ユーザーからのフィードバックに対して迅速な対応ができないならば、むしろ時間をかけ、完成度の高いものを出すべきだという考え方もあるでしょう。とはいえ、変化の激しい現代において、完成度を高くする打ち手は実際に使われないと見えてこないというジレンマがあります。いずれにせよ、スピーディーに対応し続けるのはもはや宿命と考えなければならないのです。
このような状況下、プロダクトを開発する人が別の場所にいたり、別の企業に属していると、スピードが出ません。机を隣に並べていれば、すぐに相談して3日もあれば対応できることが、週や月単位の仕事になってしまうことも珍しいことではありません。たとえばECサイトにキャンペーン用の文言を1つ足すだけなのに、来週に持ち越されてしまってはせっかくの機会を逃してしまうでしょう。
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