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「次世代モビリティサービスの勝者は誰なのか」。PwCコンサルティングのパートナーでモビリティ・チーム総責任者を務める早瀬慶氏によると、モビリティは単なる移動手段ではなく、新たな社会や生活を創り出していくものになっていくという。そのため、公共交通もタクシーも、さらに不動産や小売業などさまざまな企業や公共機関が変革を迫られる。それに応えられたものだけに、勝者のチャンスが訪れるのだろう。本稿では、次世代モビリティサービスを検討する上で重要な点をまとめた。
移動最適化から街づくりに変わるモビリティの定義
モビリティの定義は、時代の変遷とともに変わっている(図1)。PwCコンサルティングによると、人が電車や車などを使って最適なルートで目的地に移動する手段から、「モノの所有から利用」という潮流とあいまって、多目的な移動手段をつなぐマルチモーダル(最適化)までを包含した概念になった。
さらに次世代モビリティとなると、単なる移動の最適化ではなく、都市計画やその持続的な運用の中心になる。移動の全体最適化から社会や生活といった街づくりを担うものに変化するとも言える。その次世代モビリティの勝者になるには、まずは「モビリティの定義の変容」を理解すること。もはや、主役は自動車産業ではなくなるのである。
モビリティサービスの進化はさまざまな産業に影響を及ぼす(図2)。製造業はモノづくりのみからの脱却が進む、小売業は移動型店舗などによる販売チャネル活用が進む、不動産業はモビリティサービスの付帯が不動産の1つの価値になる、などだ。しかも、こうした構造変革は産業単位ではなく、横串でとらえる必要もあるという。
収益源もモノからコトへと変わる(図3)。たとえば、電車や車の利用から、社会や市民の生活をより快適にするからになる。だが、「大成功事例」はほとんどないという。
「次世代モビリティ事業化」の難しさ
早瀬氏は「次世代モビリティ事業化の難しさ」についてポイントを3つ指摘した。
1つ目は、移動手段以外の収益モデルを構築する難しさだ。たとえば現在、ウーバーテクノロジーズのようなライドシェアを展開するスタートアップが獲得した顧客基盤を生かした周辺ビジネスの開拓に取り組んでいるが、主力の配車システムサービスの低収益を補う決定的なサービスを開発できていないという。
2つ目は「生活の流れを押さえた価値提供」を生み出す難しさだ。“コト”から収益を得るビジネスモデルを創り出すのは容易ではないだろう。
3つ目は、地球温暖化や交通渋滞、超高齢化など社会課題の解決を目的に設定する難しさだ。「取り組んでいる」と口先だけの企業は少なくない。
もちろん先駆的な事例はある。フィンランドのマーズグローバル(MaaSグローバル)が提供するスマホアプリ「Whim」は電車やバス、タクシー、レンタカーなどを使って目的地までの最適なルートを検索し、それらの予約から代金決済までを提供する公共サービスである。交通渋滞などによる環境悪化を解決する都市型サービスともいえる。
このほかにも、超高齢化に対応し、電車やバスなど公共交通を確保、維持する地方型など、地域や個別の課題を解決するモビリティサービスがある。
利用者の目的を明確にした企業が、勝者に近づくのだろう。
【次ページ】生業の再定義から生まれるモビリティサービス
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