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今まで50以上の事業立ち上げを経験してきた守屋 実氏、リクルートで新規事業開発の責任者を務め、企業内の新規事業開発に特化した支援企業を経営する麻生氏に
前編で聞いた、新規事業立ち上げの難しさと成功させるために重要な点について、後半ではさらに具体的にお話を聞いた。当然のように発生する新規事業だがどのようにすれば、「失敗してもいい環境」が作れるのか。
大企業は新規事業に向く組織構造になっていない
──前回のお話を伺うと銀の弾丸というか、どんな事業にも共通する「新規事業を成功に導くコツなどない」という認識を持った方がいいというお話でした。
守屋氏:「一個の明確な回答を求めない方がいい」ということです。新規事業を一生懸命生み出している中で、たまたま結果としてそれが正解だったというだけであって、最初からすべてプロトコルが決まっていて「これをやったらうまくいく」という方法なんてありません。
ただ、
前編でもお話ししたように、最低限必要なことはあります。大切なのは「普通にやれる環境をつくる」ことです。普通にとは、「社内ルールやこれまでの慣習、評価方法にとらわれずにあらゆる手段を検討できる」ことです。
個人で起業するとしたら「普通」なのに、組織の中で動くとそれが普通にならないのは、本業の組織のルールが邪魔になっている証拠です。
麻生氏:たとえば大企業の組織構造も「普通」にものごとが運べない理由の一つです。というのも、新規事業開発というのは「総合格闘技」だと思うんですね。あらゆる職能とあらゆる手法をすべて駆使することでやっと創造することができるという活動。それなのに、大企業では、組織構造上それぞれの「手法別の部門」に別々の役員が立っていたりします。
1つの会社の中にM&A、投資、アライアンス部門があって、それとは別にオープンイノベーション部があったり、さらに新規事業開発室まであったりします。その人たちは職能に縛られて仕事をしているから、「あらゆる手法」を駆使することができません。
でも、たとえば、動物病院向けの新規事業を立ち上げようと思ったら、自分でサービスを作りながら他のスタートアップとの提携も視野に入れ、最後は動物病院ごと買収する、なんてやり方を通して成功するものだと思います。大企業はそういうことができる組織構造にはなっていない。でも、そうした動き方こそ新規事業には重要です。
あらゆる手法を駆使するためにも、現代版“袖の下予算”が必要
──どんな構造ならスムーズに新規事業に取り組めるのでしょうか。
麻生氏:かつてソニーが現場からイノベーションを生み出していた時代は、研究者が上司の承認を取らずに勝手に使っていい「袖の下予算」が1人当たりかなりの金額あったと言われています。社員が音響系のことを極めたいと思ったら、勝手に投資してベンチャーと一緒にプロジェクトを進めるみたいなことが同時多発的に起こっていた。そういう風土の中から「ウォークマン」や「AIBO」が生まれたという話です。
今はそういうことが許されない時代になってきて、コーポレートガバナンスの名のもとに緻密な資金管理や情報開示が求められます。この時代に「袖の下予算」のようなことをやるためには、逆に「ここで使うお金は説明しませんよ」と先に言っておくことが必要です。そういう意味で僕は「特区」的なものがあるのは良いと思っています。
守屋氏:特区を作ってうまくいっているのがJR東日本ですよね。JR東日本がそれをできたのは、会社のトップがそういう意思決定をしたから。
麻生氏:本当に社長次第ですね。どれだけ業績が悪化しようと、「当社は毎年200億円をR&Dと新規事業に使いますがその用途は一切開示しません」と株主総会で言ってくれればいい。難しいとは思いますが、その投資枠について株主が「そうだね」と言ってくれさえすれば、その200億円が袖の下予算になって好き勝手できます。そういう投資とアカウンタビリティを腹をくくって経営者ができるかどうか。
──組織の中にいるとつい間違えないことを重視して、正解を求めがちになってしまいます。
守屋氏:失敗したらバツが付くからでしょうね。考えても考えても、やってもやってもうまくいかなくて、それでもずっと頑張っていると、時々うまくいく、というのが新規事業のデフォルトなんです。私自身が散々やった実感でもあります。
麻生氏:回数的には「千三つ」の話をしましたが、時間軸でいうと新規事業が成功するまでに、やはり10年はかかります。1つの企業がマザーズに上場するぐらいになるまで、どう考えても8年や10年はかかりますよね。しかもその1個を生むために、997回失敗しなければなりません。
今、大企業を支えている「この5年、あれのおかげで儲かったね」という事業は、多分15年前ぐらいに誰かが起こした新規事業です。その15年前にやった新規事業の裏側に、失敗した事業の山がうず高く積み上がっているはずです。
「熱量」「物量」「スピード感」のためにトップの意思決定を
──新規事業という4文字はキラキラして夢がありそうですが、甘くはないと。前提となる認識を改める必要がありそうです。
麻生氏:「新規事業をナメるな」ですね(笑)ただ、これは突き放しているのではなく、簡単にできる方法はないけれど、ものすごく泥臭くやりまくったら絶対できるということでもあるのです。だから「ちゃんと」やってほしい。1000回振ったら3回は当たるんですから。だから10年かけて1000回やってほしい。
そうすれば誰でも新規事業ができるから。僕は新規事業を進める人に「顧客のところに300回行け」とアドバイスするのですが、それと同じで、300回行くのは大変だけれど、「誰でも300回行きさえすればできる」のだから行ってほしいのです。
守屋氏:僕も年齢と同じ数だけずっと新規事業の“量稽古”をやって、ようやく2018年に2つの企業の上場に携わったわけですからね。そんなもんです。ただ、普通にやればいいだけだと思いますが、普通が難しい。「それはそうだよな」ということが、大企業になったら「それはそうだよな。じゃ、そうしよう」とならないだけなんです。
【次ページ】JR東日本、リクルートという大企業が新規事業で成功できている理由
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