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「ぶつからないクルマ」のキャッチコピーで認知度を高め、ユーザーの関心を集めることに成功した衝突被害軽減ブレーキは、その他の機能も含めた自動ブレーキとして搭載車両を拡大させている。さらに、日欧の自動車市場で販売されるクルマに自動ブレーキの装着が“義務化”されることになった。これにより、運転支援システムの普及はさらに進むことになるのか。それによって社会はどう変わっていくのか。日本の自動車業界がまた経済を活性化できるきっかけになるかもしれない。
国際的な枠組み作りが進むクルマの性能基準
クルマの生産地は、今や市場規模やニーズ、税制などに合わせて選択されている。販売がグローバルなだけでなく、生産体制もグローバルなものとなった。
各国の性能基準が異なると、開発や生産のコストが上昇するだけでなく、品質にも影響を及ぼしかねない。そこでUN-ECE(国連欧州経済委員会)の下部組織である自動車基準調和世界フォーラム(WP29)は、クルマの品質や安全基準などを統一して、効率良く質の高いクルマを生産できる枠組み作りを行っている。
UN-ECEはこれまで自動ブレーキの制度を作ってきた委員会で、日本は副議長として、議長国の英国とともに参加40カ国の意見を集め、制度の策定に携わってきた。そして先ごろ、乗用車と小型商用車については「自動ブレーキの装備を義務化する」ことに参加国が合意したのである。
ちなみに自動運転に関しては、日本は英国と共同の議長国である。国土交通省や研究機関、メーカーが連携して、制度の策定のため各国の開発状況などの把握から草案作り、キーパーソンへの働きかけを行っている。
自動ブレーキ義務化で何が起こる?
さて、話を自動ブレーキに戻そう。すでに乗用車では7割の装着率までになった自動ブレーキが装着義務化となると、どういうことが起こるだろうか。
スケールメリットから、カメラやレーザーセンサーなどの納入価格は下がるため、これまでより生産コストは引き下げられるはずだ。全体としては車両の平均価格は上昇するものの、装備自体は割安になる。これはユーザーにとってはありがたいことだろう。
自動ブレーキ装着車の普及率が高まれば、交通事故は大きく減らせるはずだ。クルマの衝突安全性が高まったことで、交通事故による死者は3532人(2018年)とピーク時の1/5近くまで減少しているが、実は交通事故件数そのものは依然として多い。ピークは平成16年の95万件だが、現在は50万件を下回る程度。これらも自動ブレーキが義務化となれば、さらに削減効果が出てくるはずだ。
このようにドライバーの守護神とも言える自動ブレーキであるが、デメリットもないわけではない。
自動ブレーキに潜むデメリットとは
自動ブレーキは、TVCFの影響もあり、あたかも「クルマが勝手に判断して急ブレーキをかけて衝突を防いでくれる」といったイメージを抱いてしまうドライバーが、購入ユーザーのおよそ半数を占めているというデータがある。
実際にはTVCFの最後に一瞬表示している通り、作動には一定の条件がある。しかも、各センサーそれぞれのしきい値(作動条件となる数値)が複雑に組み合わされることで作動を判断するため、同じような状況下でも自動ブレーキが作動する場合としない場合がある。
これが事故責任の所在などで争われ、裁判に発展するケースも考えられる。日本では自動車メーカーとユーザーが交通事故の責任を争うことはまれだが、米国では珍しいことではない。
さらに言えば、同じ「自動ブレーキ」に思えても、実際には作動の対象となる物体の種類にも、車種により差がある。
トヨタのラインアップだけを見渡しても、たとえばクルマは認識して対応するのは当然だが、自転車や歩行者にも対応する、さらには夜間の歩行者も認識するのは高級車の新型車に限られる。
モデルチェンジのサイクルに合わせてこうした安全装備も改善されることが多いため、すべての車種で足並みをそろえるのは難しい。また、搭載するコストを吸収しやすい高級車と、価格抑制圧力が大きいコンパクトカーで同じ装備とするのも困難だ。それでも自動ブレーキの有無は、販売台数を左右する重要な要素だけに、各メーカーとも開発には力を入れている。
だが残念ながら、交差点での出合い頭の衝突事故は、自動ブレーキだけでは防ぎ切れない。そうした事故を防げる路車間通信や車車間通信が普及するまでには、まだ相当な時間が必要だ。
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