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海外の有力OTA(オンライン旅行代理店)が、国内の旅行市場に殴り込んできて久しい。オンラインですべてを完結できる便利さや価格のディスカウントもあり、その影響力は日に日に増している。世界最大級のトップOTAであるエクスペディア・ジャパン 代表 石井恵三氏に、日本の旅行業界の現状と問題点を聞いた。OTAの台頭で店舗型の旅行代理店はどうなるのか。高まるインバウンド需要に対して日本企業はどう応えていくべきか。
日本に足りないものは「グローバルスタンダード」
──2020年東京五輪、さらにその先を見据え、インバウンドが注目されています。
石井氏:国土交通省は訪日外国人について2020年で4000万人、2030年で6000万人という目標を出しています。2017年末の時点では2900万人で、現在日本は中国、タイに次ぐアジア3番目の観光大国に育ちました。
中国人観光客が再び増加しており、さらに2020年の東京五輪もあるので、おそらく2020年目標の4000万人は達成するでしょう。もし2030年目標である6000万人も達成することができれば、世界で5位、中国に次ぐアジア2位の観光大国に日本はなります。この2030年目標が、業界全体が今目指しているゴールです。
そのゴールに向けて、国内大手と海外OTAがタッグを組んでさらなるインバウンド観光客の増加を目指している、というのが現在の潮流です。
──国内大手と海外OTAが組む理由を教えてください。
石井氏:まず国内大手と組むことで、小さな旅館などにもリーチでき、訪日外国人のお客さまを送客できます。一方、我々は人工知能(AI)をはじめとするシステム開発では圧倒的に進んでいますし、グローバルなネットワークを持っています。そのため、海外OTAと組むことで、世界中のお客さまに最新のシステムを駆使した効果的なマーケティングを行うことができます。
──AI活用についてはあとで詳しく教えていただきたいのですが、システム面で日本企業を支援することが海外OTAに求められているということでしょうか。
石井氏:そもそも、日本の訪日外国人ビジネスにブレーキをかけているのは「システム」です。海外の旅行会社ではグローバルスタンダードに倣い、交通機関でも宿泊でも同じインターフェースで接続できるようになっています。しかし、日本のシステムは非常にユニークで、共通化されたプラットフォームというものがありません。これが今後も日本の旅行業界の課題になっていくでしょう。
グローバルスタンダードに合わせるためには規制緩和も必要でしょう。日本はセキュリティにしても消費者保護にしても、非常にセンシティブな国です。「おもてなし」の国として、良いこともたくさんあるのですが、経済的な観点ではそれがブレーキになっている場合もあります。
――ほかにグローバルと比較して、日本が遅れているのはどのような点でしょうか?
石井氏:訪日外国人のトップ5はアメリカ以外すべてアジアの国(中国、韓国、台湾、香港)で占められています。
そこで、日本をアジアと比較するといくつか課題があると感じています。たとえば、沖縄の観光産業を成長させるには、バリ島など急成長したリゾート地を比較対象とすべきです。すると沖縄は海外のリゾートと比べて、言語対応がかなり遅れていることがわかります。たとえば、中心街に英語以外のパンフレットを、少なくとも訪日外国人トップ5カ国分くらいは無料配布するべきではないでしょうか。
また、食事への対応も日本は不十分です。たとえばイスラム教徒が来てもハラール対応が明示されているケースが少なく、食べるものがほとんどありません。食事への対応は、旅行業界というよりも、さらに広い範囲でのビジネスの活性化につながる話でしょう。
OTAはいずれリアル店舗を食い尽くすのか
――OTAを始めとするオンラインでの取引は、いずれリアル店舗の旅行代理店を駆逐するのでしょうか?
石井氏:いいえ、確かにオンライン経由の取引は増えていますが、オフラインの需要は絶対的にあります。実際、大口の団体契約や高額のパッケージツアーなどをオンラインで予約するお客さまは圧倒的に少ないです。お客さまと一緒に、ひとつひとつの要件を検討しながら考えていく作業は、オンラインでは難しいと言えます。
こういった中でも、オンラインのビジネスは成長し続けると思われますが、もちろんオンラインも人件費ゼロでできるわけではありません。巨大なシステムであれば、それを管理している人間が膨大になります。そのため、この管理部分をいかに自動化し、社内システムにかかるコストを削減し、その分をオンラインマーケティングなどに充当するかが重要になってきています。それで、AI(人工知能)に注目が集まっているというわけです。
営業活動やカスタマーサポートの部分はどんなにAIが発達しても絶対に人間がやる仕事として残ると思いますが、AIを使える分野は、その活用方法の最適化が求められるようになるでしょう。
【次ページ】なぜエクスペディアは急成長を遂げたか、旅行業界マーケティングの“流れ”
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