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女性活躍がうたわれる中、日本のジェンダーギャップは過去最低の144位。少し前には東京医大の女子受験生への不利な採点が発覚するなど、平成も終わりに近づく中、「女性の社会進出」がまだまだ話題として通用する。こうした状況でダイバーシティは実現するのだろうか? プロノイア・グループ 代表取締役ピョートル・フェリークス・グジバチ氏が、エグゼクティブコーチングや「女性性」が生み出すリーダーシップを専門とする米国のコーチ マリア・ベイリー氏と対談を行った。
聞き手・執筆:編集部 佐藤友理、構成:編集部 松尾慎司
聞き手・執筆:編集部 佐藤友理、構成:編集部 松尾慎司
前編はこちら(この記事は後編です)
「承認」と「感謝」の奴隷になるな
――労働力人口が激減する日本では「女性活躍」が必要だと言われていますが一向に進みません。
ベイリー氏:先日ピョートルさんと登壇したイベントで「女性は承認と感謝の奴隷になるな」と申し上げたのですが、イベント後、日本人の女性の参加者が私に駆け寄って来て「私が感じてるもの見てるものを言葉にしてくれてありがとう」と言ってくれました。
おそらく彼女たちは、自分が長年感じ続けている痛みや苦しみを表現する言葉を持っていなかった。でも、私の言葉の中に、そうした言葉を見つけたのでしょう。
ピョートル氏:女性には感謝されたい、承認されたいと思うところが多い傾向があるかもしれません。私自身、「好かれる」よりも「尊敬されたい」と思います。
ベイリー氏:女性は幼いころから「男性よりも劣っている」という先入観に囲まれて育ちます。だからこそ女性は「男性に認められないと一人前にはなれない」と思いがちです。でもその思考回路では、女性の存在意義は常に男性との関係によって定義されることになります。そのため、女性は「男性からの承認の奴隷」になるのです。
もちろん女性が抱える課題は、男性中心主義的な社会の問題です。しかし、女性の自分自身に対する敬意の問題でもあります。女性の自分自身に対する敬意が足りないからこそ、女性は他人から、特に男性からの承認でそれを埋めようとするわけです。他人からの承認を通して自分を認めようとすることは、自分自身に対する責任を放棄していることにもなります。
女性が職場で上司や同僚に対して承認され、感謝され、「ありがとう」と言われるように行動するのは、女性自身が周りの人間の感情を操作しているという側面もあります。しかし、「男性が私に感謝しなければならない」という女性自身の感情操作は女性に尊厳を与えるものでは決してないのです。
この状況では誰も得をしないのですが、知らない間にさまざまな形で蝕まれています。ここで重要なメッセージは、女性自身が自分を見つめ、自分の信念を見つめ、自分がどれほど承認に飢えているかを見つめ、職場の人間関係の中で自分が何をしたいのかを考えることです。
評価されなくても自分に価値があると自覚することが重要
――承認と感謝を手に入れるために何か行動を起こすということは、たとえば自分の工夫や周りをサポートすることで得られる結果が給料やポジション、待遇という形で評価されなくても満足してしまうということでしょうか?
ベイリー氏:もちろん、承認されたい、感謝されたいと思うことは間違っていません。それはそれでとても大切です。しかし、承認や感謝と引き換えに無料でパフォーマンスを提供することは、女性だけの問題ではなく、男性と女性、そしてそのどちらにも属さない人たちの問題でもあるのです。
特に女性は自尊心を持つこと。男性に評価されなくても自分に価値があると自覚することが重要です。男性に評価されるまで自尊心を持てないなら、女性は男性との関係性の中で奴隷以外になれないのです。
男性も女性もそれ以外の人たちも、このダイナミクスを理解しないとダイバーシティは実現しません。そして組織の中でパワーを握っている男性は「女性社員の価値は男性社員の評価によって定義されるものではない」ということを認識しなければ、男性である役員・経営者・管理職が女性を支配してコントロールする支配構造、ヒエラルキーを脱して本当のダイバーシティ経営などできません。
ダイバーシティ担当者の役割とは?
――しかし、それを経営者や管理職の人たちに伝えるのはとても難しいと思います。橋渡し役となるダイバーシティ担当者は何をするべきなのでしょうか。
ピョートル氏:企業の社長をはじめとする役員は非常に忙しいのが一般的です。だからこそ、役員が聞いてわかる言葉でダイバーシティを語らなければいけません。わかりやすい言葉はダイバーシティを進めるうえで必要不可欠な要素です。
ベイリー氏:しかし、ダイバーシティは感情を伴うものです。したがってダイバーシティ担当者はさまざまなマイノリティの感情を「言葉で説明」しようとします。一方で、経営者が重要視するのは「行動に移すこと」です。
異なる方向性で行動する二者の間で会話が成立しないのはよくある話です。そのため、ダイバーシティ担当者は役員や経営者に対し、多様な社員の尊厳や感情をかみ砕いて説明し、役員や経営者が具体的な行動に移せるようにサポートしなければいけません。
ピョートル氏:さらに企業の中でダイバーシティを担当する人は、ダイバーシティを体現する人でなければなりません。たとえば私がいた頃のグーグルのダイバーシティ責任者はアフリカ系アメリカ人の女性でした。日本であれば女性だったり同性愛者といった人たちがダイバーシティの体現者になり得るでしょう。
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