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- 2017/06/09 掲載
日本のスタートアップを勝たせるCxO人材とは?ネットジンザイバンク志水雄一郎氏に聞く
聞き手:編集部 時田 信太朗
日本がインターネット業界で勝つために解決すべき人材課題
日本の就労人口は減少傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年に約1億2800万人とピークを迎えた日本の人口は、2030年には約1億1600万人まで減少するといわれる。とりわけ15~64歳の生産年齢人口は、2030年には約6700万人にまで減少し、2030年の日本の国内総生産(GDP)は、世界第4位に転落するという予測もある。
こうした状況を打破すると期待されるのが、テクノロジーによるイノベーション、つまり、新たなテクノロジーによってビジネスモデルや組織のあり方を変える変革の取り組みだ。
特に、インターネット/IoTセクターではイノベーション創出の動きが著しく、従来型の経済圏とは異なる「新たな経済圏」が生まれている。志水氏は、「従来とは異なる成長曲線を描く新しい経済圏で、成長企業を作ることが日本の競争力向上には肝要」と語る。
その一方で課題もある。その一つが、法規制や経済原理など、これまでの社会の枠組みを変えることの難しさだ。
「国内時価総額1位のトヨタは、世界全体では40~50位くらい。国内インターネット/IoTセクタートップのソフトバンクでさえ、国内時価総額は5位(2017年6月8日時点)です。
しかし、海外に目を向けると、グーグルやアマゾン、アップルといった時価総額が100兆円規模に届こうかという企業があり、中国ではアリババやテンセントといったアジア最大規模の時価総額のインターネット企業があります」
こうした差を埋めるための「インターネット/IoTセクターにおける産業育成に、国は本腰を入れて取り組んでいるとは言えないのが現状」だと志水氏は指摘する。
さらに、日本の人材業界が抱える構造的な課題がある。本来は、「経営資源である人的資産を最適化、再配置して、日本のGDPを最大化することが人材会社の役割のはず」なのに、そうした明確な戦略・戦術をとる人材会社は皆無だというのだ。
人材会社にとって、スタートアップ相手のビジネスはうまみが少ない
志水氏は、慶應義塾大(SFC)を卒業後、新卒で入社したインテリジェンスでは、転職情報サイト「DODA」事業の統括部長などを歴任してきた。インテリジェンス創業者である宇野康秀氏の「日本の人的インフラを作る」という言葉に共感して入社したものの、40歳を迎え、自分のこれまでのキャリアとともに、この言葉の意味を改めて考えたところ、見えてきたのは上述したような現状だったという。
「日本の人材会社には、日本のGDPを引き上げ、平均年収を上げ、生活水準を高める『日本の人事部』の役割を果たすという戦略・戦術はなく、メディアの出稿予算が高い企業、大量に人材を採用する企業を相手に単にビジネスを展開しています。これはつまり、自社の営業予算の達成のために仕事をしているということになるのではないか」(志水氏)
もちろん、これにはやむを得ない面もある。スタートアップは、人材会社から見ても「うまみが少ないビジネス相手だからだ」と志水氏は述べる。
大量に採用し、予算も潤沢な大企業に比べ、成長過程にあるスタートアップは、「実際に事業を回したことのあるレベルの人材」が求められ、採用のハードルが非常に高い。そして、人材確保のための予算、資金も潤沢でない。
そこで、こうしたインターネット/IoTセクターに特化したタレントエージェンシーとして、「for Startups」というビジョンを掲げて志水氏が立ち上げたのが、「ネットジンザイバンク」だ。
志水氏は「大事なことは、外貨を大きく獲得できる可能性のある新産業を勝たせることだ」と話す。日本でグーグル、フェイスブックのように世界で勝負できるスタートアップを作るため、人的資源の最適化の面からスタートアップを支援する。
そのため、エージェントに求められるのは、「どの企業が採用されやすいか」という発想ではなく、「世界で勝負できる会社、産業を作って日本の競争力につなげる」というビジョンに基づく行動だ。
実際に、同社のエージェントは、実際にスタートアップや事業会社で自社ビジネスの成長にコミットし、成果をあげてきた人材が集結している。自分たちで事業を回せる人材が、スタートアップの成長に必要な人材の獲得、チーム組成を支援している状況だ。
日本のビジネスパーソンは立ち止まってキャリアを考えているか
ネットジンザイバンクがメインターゲットとする人材は、「いわゆる幹部クラスや幹部候補クラスで、年齢は31歳、平均年収800万円」という層だ。しかし、インターネット/IoTセクターの給与レベルはそれよりも低く、「上場インターネット関連企業で、平均年齢は33歳、平均勤続年数は約5年で、平均年収は530万円」だそうだ。
大卒平均の平均年収730万円といわれる中で、インターネット/IoTセクターは、他産業に比べて年収が低く、また退職金が出る企業も少ない。「非常に厳しい現実であることはあまりメディアでは報じられない」と志水氏は述べる。
そこで大事なことは、こうした現実を正しく認識することと、一つは「資産形成」を軸にキャリアデザインを考えることを考慮することだと志水氏は説明する。たとえば、年間50~150社の企業が上場しており、その多くが、発行株式の10~15%をストックオプションとして一般社員に付与している。
「ですから、上場を視野に入れた成長企業にタイミング良く身を置ければ、上場時に会社の時価総額に応じた株式報酬が得られることがあります。結果的に、上場企業より、成長基調にあるスタートアップに身を置いた方が、資産形成の面で有利ということが起こり得ます。このことを全く考慮せずに転職してしまうケースがあるのです」(志水氏)
新しい経済圏では「成長企業で資産分配を重視すること」が常識
これは極端な例に思えるかもしれない。しかし、上述の通り、インターネット/IoTセクターは「新しい経済圏」だ。すなわち、そこで働く人の「流儀」も異なる。これまでの常識が「給与の高い会社で働くこと」だったとするなら、新しい経済圏では「成長企業で資産分配を重視すること」も常識となる。そこでネットジンザイバンクでは、第1の選択肢として「起業」を、第2の選択肢として「成長企業の幹部として会社の成長にコミットした結果としてキャピタルゲインも得る」キャリアデザインを推奨している。
ネットジンザイバンクを通じて転職、起業した人は、エンジニアなどのテクノロジストも多いとのこと。「インターネット/IoTセクターで起業家の約7割は、自分でサービスを作ることのできるテクノロジスト。ビジネスサイドの人材は、サービスを作った後の、会社を成長させる過程で必要とされる人材」と位置づけられる。
ネットジンザイバンクでは、「これから勝てる成長企業の見立て」に秀でたベンチャーキャピタル(VC)や起業家、投資家の支援を受けながら、彼らが保有するポートフォリオを常に最新に更新していく活動をしている。
また、人材側へのアプローチとしては、DBやソーシャルメディアなどを使って、個別にコンタクトを取るケースと、上述したVC、起業家、投資家などから紹介を受けてコンタクトするケースがある。
こうした独自のスカウティングのスタイルと、データベース、ネットワークを駆使し、ネットジンザイバンクは「採用バーが高い」スタートアップを相手に、ビジネスを成立させている。
ネットジンザイバンクでは、約20人のエージェントが「月間で平均600人から700人の方にお会いしている」そうだ。
「僕たちの目的は、強いスタートアップのチームを組成することです。声をかける人は、今もすばらしいポジションで働く人で、すぐに動く必要性のない人」。そして、そういう人に「さらにいいキャリアを提案する」という仕事の性質上、実際に転職が決まるのは「月間数十名」ほどだという。
【次ページ】優秀なCxOの共通点、CIOやCTOに求められるスキル
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