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- 2017/05/12 掲載
飛行機搭乗でトラブル続出、今後さらに「オーバーブッキング」が増える理由
航空ビジネスのカギとなるイールド・マネジメント
航空機の定期便は、乗客の多寡に関係なく運行しなければならず、その際には一定のコスト(固定費)がかかる。航空機の座席数(つまり乗せることができる乗客数の上限)はあらかじめ決まっているので、基本的に航空会社のビジネスは不動産に近い形態にならざるを得ない。つまり、座席が空いたままで飛行機を飛ばしてしまうと、その時の損失は二度と取り返すことができず、仮に安い価格であっても席を埋めた状態で飛んだ方が航空会社の利益は大きくなる。航空会社は収益を最大化するために「イールド・マネジメント」と呼ばれる手法を用いている。これは、需要予測をベースに柔軟な価格設定や販売活動を行い収益を最大化するためのものである。具体的には座席の稼働率を向上させる手法と、平均販売価格を上げる手法の二本柱で構成されている。
だが現実に、この二つを両立させることは難しい。先ほど述べたように、空席で飛ばしてしまえば、その時に失った収益は二度と取り返すことができないため、空席がある場合には理論的には1円まで値下げしても乗客を乗せたほうがよい。
とはいえ、そのようなことを繰り返していると、高い運賃を払って利用する乗客が敬遠するようになり、結果的に平均運賃を下げてしまうリスクもある。このあたりのバランスをどう取るのかが腕の見せ所であり、各社は高度なITシステムを駆使して収益の最大化を試みている。
オーバーブッキングのシステムもこのイールド・マネジメントの延長線上に存在している。各便には一定の確率でキャンセルもしくはノーショウ(キャンセルの連絡はないものの出発までに乗客が現れないこと)が発生するので、事前にキャンセル数を予測し、それに見合った分だけ座席を余分に販売してしまうのだ。
たいていの場合は、キャンセル分と過剰販売分が一致して全員が便に乗ることができるが、希にキャンセル数が予想を下回ると、便に乗れない乗客が出てくる。これがオーバーブッキングである。
日本のオーバーブッキングは増えたり減ったりしている
では実際に航空会社ではどの程度のオーバーブッキングが発生しているのだろうか。日本と米国とでは市場環境が異なっており、米国では10万人あたり90人、日本では10万人あたり15人のオーバーブッキングが発生している(米国は2015年、日本は2015年度)。日本の場合には「フレックストラベラー」と呼ばれるオーバーブッキング発生時の対応(他の便への乗り換えなどを承諾した顧客に協力金などを支払う)を共通化した制度があり、これを採用している航空会社のみがデータに反映されている。この制度に参加せず独自の対応を行っている航空会社もあるので現実のオーバーブッキングの数はもっと多い可能性がある。
米国のオーバーブッキング発生数は日本よりも多いが、年々その数は減少している。米国はかなり以前から空の自由化が進んでおり、収益を最大化しなければならないという経営上のプレッシャーは強い。各社ともギリギリのオペレーションを行っているので、オーバーブッキングの発生数が日本よりも多いと考えられる。
一方、米国はイールド・マネジメントの歴史も古く、最近ではITシステムの高度化によって需要予測の高度が進んでいる。こうしたことが背景となって、オーバーブッキングの数が減少している可能性が高い。
日本は米国と比較すると発生数は少ないものの、上下変動が激しいという特徴が見られる。日本における2007年度のオーバーブッキングは10万人あたり7.6人とかなり低い水準だったが、2013年度には20.1人にまで上昇、その後は再び低下が進んでいる(図1)。
ちなみに航空会社別では、全日空(ANA)のオーバーブッキングの数はJALよりも多い。2015年度についてはJALが10万人あたり7.8人だったのに対してANAは20人と2倍以上の数字となっている。スターフライヤーはさらに高く33.3人、ソラシドエアは13.8人だ(図2)。
【次ページ】日本でも今後はオーバーブッキングが増える?
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