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- 2016/01/21 掲載
鏡開きの菰樽メーカー「岸本吉二商店」、日本酒人気が落ちても利益が上がるワケ
ウシのフン? と笑わずアイデアを生かす
さるかに合戦は、因果応報がテーマになっている日本の民話の一つ。背景としては強い権力者が弱い農民を武力で押さえつけていた時代、幕府をサルに見立てて風刺した物語だと言われている。物語の中では弱者の代表としてカニやハチが取り上げられ、生き物でないクリやウス、ウシのフンまでもが登場。非力でも力を合わせればサル(権力者)を叩きのめせるというストーリー展開が民衆の支持を集め、長く受け継がれてきた。
1887年には教科書に掲載され、誰もが知り得る昔話として不動の地位を確立している。この物語で注目すべきは親カニが死んでしまうというピンチの中で救いの手を差し伸べる仲間たちのハチ、クリ、ウス、ウシのフンの存在ではないだろうか。
中でも特筆すべきはウシのフン。ハチに刺されて逃げようとするサルが踏んづけて転ぶという予想外の展開だが、このアシストがなければとどめとなるウスの一撃はなし得なかったのは言うまでもない。
ともすると誰もが見過ごしてしまい、役に立ちそうもないウシのフンがビックリするような働きをする。これはビジネスの世界にもあり得ることだ。
例えば明治時代に創業し、老舗と呼ばれ隆盛を極めてきたメーカーにもあてはまる。正月や祝い事でよく見かける鏡開きで登場する菰樽(こもたる)メーカー、岸本吉二商店 三代目 岸本 敏裕社長は過去の窮地を次のように振り返る。
「昭和40年代ごろはギフトと言えばお酒が定番。伊丹や灘といった銘醸地に囲まれた尼崎の菰樽は神社への奉納や祝い事、飲食店のイベントなどに欠かせないものでした。ところが昭和58年頃から日本酒の需要が減少し、菰樽メーカーも今では日本に数社しかないんです」
しかし、祝い事に携わる会社が意気消沈しているわけにはいかないと生き残りを模索。そんな時に異業種交流会で出会ったのが、あるメーカーの経営者だった。「酒が売れないならほかの物を入れればいいのでは?」その言葉をヒントに岸本社長は新商品の開発に動き出す。
鏡開きに特化して未来を拓く
異業種交流会でよく交わされるのは「また、機会がありましたら」ではないだろうか?しかし、そんな関係から、「瓢箪から駒」が出ることもある。岸本社長は考えた、「菰樽に何を入れるべきか?」。流行りのワイン?それともフレッシュジュース? 甘党向けにキャンディーやチョコレートなんかもありじゃない? 従業員ともアイデアを出し合い、煮詰めていった。ここでネックになるのが4斗(72リットル)という菰樽の大きさ。通常、酒を一杯に入れると10万円にもなってしまう。
「だったら小さくしよう、蓋も一度だけでなく何度も使えるように改良しよう」
樽は何とかなるにしても、蓋の仕組みが浮かばない。そんな時に思い出したのが言葉を交わした前出の経営者だ。話を持ち掛けるとマグネット式の鏡蓋を提案してくれた。
こうして生まれたのが、記事冒頭(写真中央)に載せたミニ鏡開きセットだ。三つに分かれるマグネット式のアクション鏡蓋を採用したことで、力を入れなくてもダイナミックに宙を舞う鏡板を再現した。
樽の中にはプラスチック製の容器が入っており、ジュースやワイン、お菓子など好きなものを入れることが出来る。販売価格も5~7000円と抑え、ネット通販を開始すると誕生日やホームパーティーなどの盛り上げ役として人気を博すようになる。
【次ページ】さらに仕掛ける吉本社長の一手とは?
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