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- 2022/07/13 掲載
化学メーカーの世界ランキング2022:化学大国「だった」日本、独欧中にどう対抗するか
石油化学の登場で化学工業は飛躍的に発展
皆さんも、学生時代の理科の授業で、ある物質に熱や電気、触媒などを加えると、別の物質に変化する「化学」の実験を行ったことがあるのではないだろうか。そうした物質のさまざまな特性を利用し、化学反応によって原料から製品を作り出すのが化学工業だ。化学工業の歴史は古く、人類が火を使って鉄、銅などを精錬するようになった時代に始まる。近代の化学工業は18世紀、欧州で起こった産業革命によって勃興する。大量生産された綿織物を効率的に漂白するため、アルカリ性のソーダや塩素が化学工業によって大量に作られるようになったのだ。
19世紀に入ると、天然染料に代わる合成染料が発明され、20世紀には、空気中の窒素の固定法がわかったことで、化学肥料が誕生した。さらに、米国では豊富に採掘される石油を原料として、石油化学工業が盛んになった。第二次世界大戦後、石油化学・高分子化学工業からは、化学繊維、合成ゴム、プラスチックなどが次々と生み出され、世界中に普及していった。それによって、化学工業は飛躍的な発展を遂げることになったのだ。
現在、私たちの生活のありとあらゆるシーンに、化学製品は浸透している。化学製品は、原油精製時にできる液体のナフサを分解するなどして基礎化学品(エチレン・ベンゼン・硫酸・苛性ソーダなど)が作られ、それをもとに中間化学品(有機化学品・無機化学品など)、最終化学品が生成される。最終化学品だけでも、塗料やインキ、タイヤ、接着剤、洗剤、農薬、殺虫剤、医薬品、化粧品、食品添加物、香料など、枚挙にいとまがない。
たとえば、ガラスやセメント、LED(発光ダイオード)なども、広い意味では化学製品に入る。それだけ裾野が広い産業なのだ。日本では、化学工業は、自動車やエレクトロニクスに匹敵するほどの産業規模となっている。
化学メーカーは生産段階によって、大半は基礎化学品・中間化学品の専業メーカー(巨大な生産設備を擁する大企業が多い)、最終化学品の専業メーカーに分かれるが、中には、石油などの原料調達から最終化学品の製造までをフォローする化学メーカーもある。
また、塗料や医薬品、化粧品、香料など数多くの専業メーカーがある一方で、洗剤や医薬品、化粧品といった、さまざまなジャンルの化学製品を手がける総合化学メーカーもある。
石油メジャーは化学メーカーとしても巨大
化学メーカーの売上高についての世界ランキング(下図)を見ると、化学先進国である欧米のメーカーが主流を占めているのがわかる。また、石油メジャーをはじめ、アジアや中東の石油化学メーカーも目立つ。化学工業の発展をリードしてきた石油化学工業は1970年代以降、成熟期に入ったが、化学製品の多くがいまだに原料を石油に依存しているため、現在でも、化学工業の中でボリュームの大きなジャンルとなっているからだ。
世界の化学メーカーのトップ10はどんな企業か?
それでは、世界の化学メーカーのトップ10の顔ぶれを見ていこう。第10位のライオンデルバセル・インダストリーズは、オランダのライオンデルとバセルが、2007年に経営統合して生まれた。石油化学が得意で、ポリプロピレンでは世界トップクラスのシェアを誇る。
第9位のリンデは1879年、ドイツで誕生した老舗メーカー。積極的なM&Aによって、産業ガスでは世界首位に躍り出た。2018年に米国最大の産業ガスメーカーだったプラクスエアと経営統合、英国、米国などでも事業展開する多国籍企業だ。
第7位に入ったLG化学は、1947年に設立された韓国最大の総合化学メーカー。LG(旧ラッキー金星)財閥の中核だ。電気自動車用や太陽光発電用の電池に力を入れるが、バッテリーの欠陥(火災原因とされた)による電気自動車のリコールに巻き込まれるなど、前途には経営課題も抱える。
第6位の台湾プラスチックグループ(フォルモサグループ)は1954年、立志伝中の経営者である故王永慶氏が創業、一代で台湾を代表する企業グループに育てた。石油化学や化学繊維のほか、石油精製、電子製品といった事業も展開している。
第5位のサウジ基礎産業公社(SABIC)は、原油採掘時に発生する天然ガスを有効利用するため、1976年にサウジアラビア政府が70%を出資して設立された国策企業だ。基礎化学品や化学肥料をメーンとしてきたが、2007年にはゼネラルエレクトリックのエンジニアリングプラスチック事業を買収。2020年には、同国のサウジアラムコの傘下に収まった。石油化学事業の再編・経営効率化が目的と見られ、今後の行方が注目される。
第4位のイネオス・グループ・ホールディングスは、英国を本拠とする多国籍企業で、1998年に設立された新興勢力。2005年以降、ブリティッシュペトロリアム(BP)から石油化学部門を買い取るなど、M&A戦略によって急成長しており、シェールガス事業も手がける。最近では、ヨットや自転車競技のスポンサーとしても有名になった。
第3位になったダウも注目される。2015年には米国最大の化学メーカーだったダウ・ケミカルと、同じく米国の名門化学メーカーだったデュポンが経営統合を発表、世界を驚かせた。その後、両社の事業を再編、2019年にアクリル樹脂、シリコンといった素材部門として、生まれ変わったのが同社なのだ(特殊化学品部門はデュポン・ド・ヌムール、農薬・種苗部門はコルテバが担当)。
第2位に浮上したのが中国石油化工、通称「シノペック」。1998年に設立された中国の国有石油メジャーで、油田開発部門や石油精製部門だけでなく、石油精製とシナジーが大きい石油化学部門も持つ。コロナ禍で現在、原油高などの追い風を受けている。
そして、第1位を独走するのはドイツのBASFだ。1865年にバーデン地方で創業した老舗で、合成染料やソーダの製造から出発。社名は、ドイツ語の「バーデン」「アニリン(合成染料の原料)」「ソーダ」「工場」のイニシャルからとったもの。世界90カ国以上に子会社を擁する総合化学メーカーで、無機化学や建材、石油化学、触媒化学などに強い。化学品の研究開発から製造までを一貫して行う巨大生産基地「フェアブント」にも特色がある。
【次ページ】世界有数の化学大国「だった」日本
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