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「クラウド時代」などといわれる昨今だが、ITRが2015年2月に発表した調査報告によると、パブリッククラウドとプライベートクラウドを連携させて使用する予定(ハイブリッドクラウドを導入予定)と答えた企業が全体の9%にとどまっていることがわかった。こうした結果を受け、日本企業のクラウド利用の現在とこれからについて、ITR プリンシパル・アナリストの甲元 宏明氏と、アプリケーションデリバリに関する機能をクラウドサービスで提供するF5ネットワークスジャパンのマーケティング シニアソリューションマーケティングマネジャの帆士 敏博氏に話しを伺った。
日本企業のクラウド利用はまだ少ない
──最近、ハイブリッドクラウドが数多く出てきています。日本の企業はクラウド利用に関してどのあたりのステージにいるのでしょうか。
甲元氏:メディアでは「クラウド時代」などといわれますが、日本でのクラウド利用は進んでいません。ITRが238社のユーザー企業のIT部門に聞いた調査結果では、2割程度の企業しかクラウドを利用していないことがわかりました。しかも約4割の企業は「パブリッククラウドを導入する予定がない」と回答をしているのです。
帆士氏:クラウドに対してネガティブな人が多いのですね。私はほとんどの企業が部分的であれクラウドを使い始めていると感じていたのですが。
甲元氏:ITインフラとして活用している企業が極めて少ないということです。例えばメールでクラウドを使っているという例は多いのですが、戦略的なITインフラとしてパブリッククラウドを使おうとしている企業は極めて少ないのです。
パブリッククラウドの導入効果はコスト削減だけではない
──何がパブリッククラウドの阻害要因になっているのでしょうか。
甲元氏:IT部門もパブリッククラウドをまったく使わないとは考えていませんが、まだコスト削減のツールとしか認識していないのです。しかし実際にはコストが下がらないというケースが多いため、まだ使わない方がいいと考えてしまうのです。
帆士氏:クラウドの導入効果として「コスト削減」が注目されているため、それを求めてクラウドを使うと、結果的にうまくいかないことが多いのです。
甲元氏:しかし、パブリッククラウドのメリットは別のところにあります。いつでもやめることができたり、イノベーティブな試みに低リスクでチャレンジできたりするのです。導入コストを抑えて、素早くビジネスを展開できるし、グローバルでも簡単にデプロイできます。さらにマルチデバイスに対応できるなど、コスト以外のメリットが数多くあるのですが、なかなかそういう理解は進んでいないのです。
──IT部門は守りのことばかり考えているのでしょうか。
甲元氏:そんなことはありません。IT部門としては「ビジネスに貢献しなければ」という考えはあるのですが、「ITインフラでビジネスをドライブしよう」という考えには至っていないのです。
とはいえ、IaaSやPaaSの国内市場での平均成長率は120%くらいの伸びで、それだけ市場が拡大しているのは確かなのです。パブリッククラウドを使っている企業はそのメリットをよく分かっていているのですが、それも1割から2割の企業にすぎません。
──その1割から2割の企業は、どうしてうまくいっているのでしょうか。
甲元氏:クラウドの利用を戦略的に考えているからです。自社にとってのクラウドの位置づけをよく考え、方針を決めて前向きに進めているのです。
実はまだ日本は「クラウド黎明期」
──日本の企業にとって、現在はクラウドの黎明期ということなのでしょうか。
帆士氏:ほとんどのアプリケーションがまだ、レガシーのシステム上で動いています。まだクラウド黎明期のステージにいて、これからクラウドに移行していく段階なのだと思っています。
甲元氏:しかし今後、大企業の場合はおおむねプライベートかパブリックか、どちらかのクラウドに移行していくでしょう。
帆士氏:F5ネットワークスでも調査をしたのですが、150社ぐらいのお客さまに「クラウドを使っていますか」と聞くと、7~8割ぐらいは「使っています」と答えるのです。その一方、「アプリケーションは全面的にクラウドに移行されていますか」と聞くと、これは20%ぐらいしかない。今の段階では部分的にクラウドを少し使っているだけなのです。
甲元氏:大企業では仮想統合サーバーに対する収容率が高いのです。今まで小さいサーバーが数百台あったのが、大きなサーバーに集約されてラックも減り、コストや物理的な削減効果が目に見えて分かりやすいので、すごく成功したと実感しやすい。そういうこともあり、仮想サーバーやプライベートクラウドを否定する動きがないのです。
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