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テクノロジーによるイノベーション創出が叫ばれ、多くの企業がビジネス変革に取り組んでいる。テクノロジーをシステムとして実装するSIerも、従来のような「人月ビジネス」からの脱却が急務だ。こうした中、2017年に発足したのがNTTテクノクロスだ。旧NTTアイティと旧NTTソフトウェアが合併、NTTアドバンステクノロジからメディア系技術の事業を譲受して誕生した。「NTT研究所の世界に誇る最先端技術をビジネスに活用できるよう、ソリューション化することが使命」と語る同社代表取締役 串間 和彦氏に、これからのデジタルビジネス戦略を聞いた。
NTT研究所の先端技術を活用して人月ビジネスから脱却
──NTTテクノクロス発足の経緯についてお聞かせください。
串間氏:ビジネスにおけるITの重要性はますます高まり、これまでIT化されてこなかった領域にまでIT化が進んでいます。こうした状況を受けて、我々はNTT研究所の世界トップレベルの先端技術を用いて、お客さまのさまざまな課題を解決するお手伝いしたいとの思いを強く持っています。
これまで以上にビジネスにスピードが求められる中で、グループ内で分かれてきた事業体を統合し、意思決定や製品化のスピードを高めていかなければ、せっかくのNTT研究所の技術も持ち腐れです。2020年に向けて、国内で新たな価値を生み出していくために生まれたのがNTTテクノクロスです。
──事業の柱として第一に「研究所技術の活用」を掲げてらっしゃいます。しかし、NTT研究所の技術を活用する立場の会社はグループ内で他にもあると思います。
串間氏:弊社の強みは、研究の初期段階からNTT研究所の要請を受け企画に参画、検討、施策発注を受けて納品までを手がける点です。そして、完成したサービスをNTTデータやドコモといったグループ会社が、強力な営業チャネルを使ってお客さまに届けていきます。
NTT研究所に近い立ち位置で、技術に対して弊社独自のノウハウを発揮できる点を活かさない手はありません。たとえば、お客さまが望んでいるものは何もハイテク領域ばかりではありません。NTT研究所が持つ最先端技術のドメインと、それ以外の領域の技術を組み合わせ、製品に仕立て上げられるのが弊社独自の価値だと考えます。
──NTTグループ外に新たなサービスを提供していくときは、どのようなチャネル戦略をとるのですか?
串間氏:弊社は技術者集団で、残念ながら強い営業チャネルを持ってきませんでした。そこで、直販チャネルについては、NTTデータやNTTコミュニケーションズ、NTTドコモなどの法人チャネルを活用することが欠かせません。
事業会社側からも、弊社がNTT研究所の技術を用いて製品化、販売につなげることを期待されています。グループ全体でお互いにWin-Win関係を築いていくことが肝要です。
──NTT研究所の技術の活用について詳しくお聞かせください。
串間氏:NTT研究所との依存関係は強く、その先端技術をコアに据えながら、お客さまの要望に応じて、他社の技術を組み合わせていくことも大事です。
それが、弊社発足時に発表した事業の第2の柱である「アライアンス」です。NTT研究所の先端技術の独自性は保ちつつ、お客さまが望むものを提供するために、他社の技術も積極的に活用していきたい。その先に、SIerとしてのさらなる付加価値を高めるビジネスモデルへの変革があると信じています。
──ハードウェアはコモディティで調達する流れが加速し、クラウドではAWSが強みを発揮しています。SIerの存在意義も再定義される段階に来ています。
串間氏:システム開発を受注して、1回限りのシステムを特定企業に納めるビジネスモデルは崩壊しつつあると考えます。我々はそれを「人月ビジネス」と呼んでいますが、それを繰り返す世界はこの先淘汰されていくでしょう。
今後は、優れた製品、パッケージ、OSSなどを、クラウド上で自在に組み合わせてサービスを作り、提供していく時代。我々も数年かけて、ソリューションビジネスに軸足を移しつつあります。その流れをさらに加速させ、他社の追随を許さない領域を狙っていきたいです。
世界トップの音声認識技術はどう使われているのか
──では、コアとなるNTT研究所の強みについて改めてお聞かせください。
串間氏:NTT研究所は、ネットワーク、セキュリティ、クラウド、AI、音声認識など、さまざまな領域における先端技術の研究がなされていて、世界水準の技術をワンストップで提供できる強みがあります。
また個別の要素技術でも、たとえば音声認識領域ではさまざまな世界のコンテストで世界トップを達成しており、公共エリア雑音下でのモバイル音声認識の国際技術評価「CHiME-3」(The 3rd CHiME Speech Separation and Recognition Challenge)において、参加25機関中トップの精度を達成しました。
これは、NTT研究所が独自開発した、ひずみなし音声強調技術とディープラーニング(深層学習)に基づく音声認識の技術を用いたもので、これらの技術を活用したコールセンター向けのソリューションが「ForeSight Voice Mining」です。
──世界的に高い評価を得た技術ですが、それほど知名度がありません。現在はどのような形で利用されているのでしょうか?
串間氏:確かに、多くの人の目に触れるようなコンシューマー向けの派手な技術ではありませんが、たとえばNTTドコモの「しゃべってコンシェル」もNTT研究所の音声認識に関わる技術を活用しています。この技術をベースとした音声認識エンジンを弊社も活用しています。
「ForeSight Voice Mining」は、その音声認識の精度の高さから、金融系のお客さまを中心に、高い評価をいただいています。たとえばコールセンターのオペレーターがお客さまと会話したときに、会話の内容を「ForeSight Voice Mining」が認識、会話の内容と関連する資料やFAQを自動的にオペレーターの画面に表示します。
また、お客さまとのやり取りが終わった後には、オペレーターはその内容をレポートにまとめる必要があるのですが、その要約作業も「ForeSight Voice Mining」が自動化してくれるので、オペレーターの業務効率化に寄与します。
これらの要素技術は、NTT研究所の技術をもとに、弊社が改良を加えてカスタマイズ、お客さまに最適な状態にチューニングしてお届けしています。
──なるほど。お客さまごとにカスタマイズは必須で、そこに御社の独自性が発揮されると。一方で、テクノロジーの進化には「データ」をいかに蓄積するかがカギを握ってきます。
串間氏:音声認識のための学習データは、特に、金融機関の場合は守秘性が高いので、共有、オープン化することはできません。そこで、それぞれの金融機関向けに個別に学習データを作り、最適化を繰り返していくのです。
コールセンター支援、効率化以外にも、さまざまな領域で、あらゆる企業活動をAIで支援できる素地が整ってきました。たとえば、セキュリティ分野では、ネットワークにどういうアクセスがあったかというログ分析をAIで自動化、不正アクセスを検知し、これまでアナリストが人力で行っていた分析、判断の支援をAIで自動化し、効率化を図っていくことなどです。
あるいは企業内の総務、経理業務をはじめとするビジネスプロセス最適化(BPR)にも、AIが活用されていくでしょう。我々はそうした企業活動の効率化支援に特化していきたいと考えています。
【次ページ】SIerも「バリュー志向」への転換が必要だ
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