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- 2012/06/04 掲載
医療ITとクラウドは日本の高齢化社会を救うか?鳥取大学の地域/在宅/災害医療連携システムへの挑戦
鳥取大学 医学部附属病院 医療情報部長 近藤 博史氏
中間サーバを利用したセキュリティ向上の取り組み
近藤氏が所属する鳥取大学では、2003年12月から電子カルテシステムを稼働してきた。同システムは「国立大学として全病棟に100%導入した初めてのケース」(近藤氏)という。現在のシステム構成は、オーダーや経過(写真)などをカバーする電子カルテ、統合画像システム、電子署名やタイムスタンプをサポートするスキャンシステム、レポートシステム、サマリー文書作成システム、部門間システム、2次利用が可能なデータベース、地域医療システムなどから構成されている。
これらのベースとなっているのが「SBC」(Server Based Computing)の考え方だ。近藤氏は、個人情報の電子カルテを扱うにあたり、セキュリティ対策に万全を期すため、このSBCを採用したそうだ。SBCは、電子カルテを集約したデータベースサーバ(電子カルテサーバ)と端末の間に、中間サーバを(SBCサーバ)を介在させる。
従来のシステムのように電子カルテサーバと端末が直接通信せず、SBCサーバが関所のような役目を果たす。SBCサーバは、部門系やOA系アプリケーションを端末環境ごとに集中管理しており、それらのデータもすべてSBC側で処理する形だ。端末はシン・クライアントとして仮想デスクトップを表示するため、データも一切残さない。
このSBCの導入により、セキュリティ面だけでなく、アプリケーションの一元管理、端末管理コストの削減、クライアント故障率の低減といったメリットのほか、作業効率もアップしたという。
「これまでの医療情報システムは、マスターファイルの取得や更新ソフトなどの影響で、2~3年すると起動に大変時間がかかるようになる。そのため端末を早朝に起動させたり、夜間に再起動する必要があった。こうした無駄な処理もなくなった」(近藤氏)。
地域/在宅/災害医療連携に対応できる医療ITシステムを開発
近藤氏が注目されるもうひとつの研究が、地域/在宅/災害医療連携システムの構築である。先のSBCを活用した医療連携として、近藤氏は鳥取大学医学部付属病院と南部町国民健康保険西伯病院を、鳥取県情報ハイウェイ上のVLANで結んだ「おしどりネット」を立ち上げた(おしどりネット2からは、5病院がVLAN上でVPNを、1病院がインターネット上でVPNを使用)。鳥取県は日本で最も人口が少なく、過疎化も進んでいる地域だ。当然、医療関係者は不足しており、地域医療に大きな影響が出ている。そこで、おしどりネットによる電子カルテ相互参照システムによって、拠点病院と地域の病院の診察情報などをすべて共有できるようにした。医師の負担を減らし、より正確な診断と治療の実現を目指したという。拠点病院で専門的な手術を実施し、普段の経過観察などは地元の医師に診てもらえるようになった。
また近藤氏は、2005年から2007年にかけて、人工衛星によるクラウド型在宅医療システムの実証実験も行った。これはJAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)の利用を目指して既存衛星通信サービスを利用し、ブロードバンド上で在宅医療を実現したものだ。
【次ページ】医療クラウドは高齢化社会の医療問題を解決できるか?
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