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「全国の1%と考えるとわかりやすい」と言われる富山県のGDPは約5兆円。豊かな水資源による水力発電のため、電気料金は日本で最も安いといわれる。そのため、大量の電気を必要とするアルミ産業も活発で、アルミサッシ生産がトップシェアのほか、銅や鉄などの合金加工や、工業機械、電気機器も盛んである。日本海側屈指の工業県、富山県に根を張ってIT化を推進してきたITコーディネーターの吉田誠氏は、同県のIT利用者の意識が、リーマンショック、東日本大震災を経て、大きく変化を遂げていると指摘する。吉田氏に、富山県のIT利活用の現状をレポートしていただいた。
これまで取り上げた県の位置
富山県執筆担当
吉田 誠(よしだ まこと)
よしだまこと事務所 代表取締役
特定非営利活動法人ITコーディネータ富山 会長
地元ITベンダーでSE5年、営業10年を経験後、2001年独立。ITコーディネータとして地元企業の支援に奔走するとともに、ITコーディネータの知名度・ブランド力向上にも努めている。
豊富な電力を活かした製造業、歴史ある製薬業
富山県は、日本列島の中心、本州の中央北部に位置し、北は日本海、東西南は山に囲まれ、富山市を中心に半径50kmとまとまりが良い地形にある。自然に恵まれ、氷見の寒ブリ、ホタルイカ、白エビなどの海の幸や鱒の寿司、蜃気楼のような珍しい現象、立山黒部アルペンルート、黒部峡谷、世界遺産である五箇山の合掌造り、八尾のおわら風の盆などがあり、季節ごとに楽しみもある。
名水の産地とも知られ、名水百選に4ヶ所選ばれている。さらに近年はコンパクトなまちづくりの成功事例として脚光を浴びている。豊かな水を生かした水力発電が盛んで、電気料金は日本で最も安い。
それもあってか、大量の電気を必要とするアルミ産業が活発で、アルミサッシ生産はトップシェア(2008年)のほか、銅や鉄などの合金加工や、工業機械、電気機器も盛んである。また、「富山(越中)の薬売り」に代表される通り、医薬品製造も盛んで配置薬の生産が日本一である(2007年)。近年はジェネリック医薬品の普及を追い風に、医薬品工場の建設も目立っている。
このように富山県は製造業の比率が高く、第二次産業の就業者が全体に占める割合は全国1位の日本海側屈指の工業県である。「富山は全国の1%と考えるとわかりやすい」と言われるように、GDPは約5兆円と日本の約1%を担う。
これを支える県民の人口は110万人。県民性はとても勤勉で真面目と言われる。雪に閉ざされた中で、じっと我慢し耐える風土が生んだ気質なのであろう。“夫婦共に働き、普段はお金をあまり使わずに貯蓄して大きな家を建てる”というのが典型的な富山の生活パターンである。女性の就業率は全国5位(2005年)、世帯収入は第2位(富山市の勤労者世帯 2010年)、持ち家率は第1位(2005年)、住宅延べ面積第1位(1世帯当たり 2005年)という数字がその実態を裏付けている。富山に初めて来た方の多くが、空港を降り立った際に「大きな家が多い」印象を持つのもうなづける。高い高校進学率も真面目さを象徴する数字であろう。
このように保守的でもある一方、新しいもの好きで好奇心旺盛でもある。ビジネスでは、新事業や効率化・収益向上に対して意欲が高いと言われている。
オーダーメイドの意識が高く、利用が長期化
では本題のITに関して述べていこう。まずインフラ、特にケーブルテレビ(以下、CATV)の普及率が高い。1996年にはCATVを活用し、希望する家庭にパソコンを無償で配布した山田村(現在は富山市に合併)など先進的な事例もある。また、普通教室LAN整備率が日本一(2007年時点)でもある。
ソフトウエア開発、情報処理・提供サービス業でみれば、インテック(旧富山計算センター、現ITホールディングスグループ)という大手ISPを輩出しているものの、全体では小粒ながら企業数が多く、それぞれの特徴を出して活躍している。
このような背景からか、企業のIT利活用に対する意識と浸透度は全国の平均以上であるとの調査結果がある。これは県内大手ソフトウエア企業が長年にわたる提案の成果とも言われている。
ただ、ソフトウエアをオーダーメイドする傾向が高く、そのため情報投資額も全国平均よりも高いという結果も出ている。その結果、投資額にシビアである一方、長い期間使用する傾向につながっているようだ。
先日もこんな相談があった。
「現状の業務に合わせるためにソフト開発をお願いしたら多額の見積が出て、どうすればいいか困っている」というのである。
業務の概要を伺うと特殊な業務ではないことがわかったので、以下のような診断とアドバイスを行った。
1.業務を見直しし、一般的な業務フローを前提に組み立て直す
2.その上で、新しいソフトウエアの導入を行う。ただし、それはパッケージソフトで十分である
結果的にはオーダーメイドで開発する予定だった費用の半分で済み、かつ、事務コストの削減と正確な数値による迅速な判断ができるようになった。小規模な企業にもかかわらず、自社は特殊という意識があり、オーダーメイドを前提とした判断に陥ったケースであるが、最近ではこうした状況に変化がみられるようになってきた。
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