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- 2010/10/04 掲載
新製品改良プロジェクトとプロジェクト・ライフサイクル:PMBOKと実例で学ぶプロジェクトマネジメント(3)
監修:東京農工大学 教授 中川正樹氏、編著:三菱総合研究所 飯尾 淳氏
プロジェクト・ライフサイクル
前回に続いて、今回はプロジェクト・ライフサイクルを解説します。プロジェクト・ライフサイクルは次のように定義されています。母体組織が日常的に行う定常業務と適切にかかわりながら、プロジェクトマネージャーまたは組織は、よりよいマネジメント上のコントロールができるようにプロジェクトをいくつかのフェーズに分割する。これらのフェーズの集合を称して、プロジェクト・ライフサイクルと呼ぶ。プロジェクトはいくつかのフェーズに分けられます。それらのフェーズが順番に繰り返して行われることにより、プロジェクトのライフサイクルが形作られます。
後の回で詳しく解説する「PMBOK」では、44のプロセスが定義されています。立ち上げのプロセスから始まり、計画プロセス、実行プロセスへとフェーズが進みます。プロジェクトを実行している間に、当初立てた計画が狂ってくることがあります。その際には再び計画プロセスに戻り、計画を修正したうえで、さらに実行プロセスのフェーズへ移ります。
このように、プロジェクトのフェーズがぐるぐる回りながら、最後にプロジェクト終結フェーズに移行することでプロジェクトが終わるような活動のサイクルを、プロジェクトのライフサイクルと呼んでいます。
プロジェクト・ライフサイクルの検討
プロジェクト・ライフサイクルを具体的に検討していく状況について説明しましょう。プロジェクト・ライフサイクルでは、一般に以下を定めます。- 各フェーズでどのような技術的作業を実施するか
- 各フェーズでいつ要素成果物を生成し、どのように検証・承認するか
- 各フェーズに誰が参加するか
- 各フェーズをどうコントロールし、承認するか
それでは順に見ていくことにしましょう。
1.技術的作業の具体化
まず、各フェーズでどのような技術的作業が必要になるのかを明らかにします。この内容は、プロジェクトの本質的な部分にかかわるものです。ソフトウェア開発であれば、要件定義のフェーズ、概念設計のフェーズ、詳細設計のフェーズ、コーディングのフェーズ、テストのフェーズといった、具体的な作業が並べられるでしょう。
2.要素成果物と検証・承認方法の定義
続いて、各フェーズで要素成果物をいつ生成し、どのように検証・承認されるのかも定義しておかなければなりません。要素成果物とは、それぞれのフェーズで作成され、重要な役割を果たす成果物です。要件定義のフェーズでは要件定義書が、概念設計のフェーズでは概念設計書が作成され、それらがそれぞれのフェーズにおける要素成果物として扱われます。
3.参加する人員の配置
また、各フェーズに参加するのは誰かも明示しておく必要があります。どのフェーズで誰が参加するのかを決めておくことが大切です。各フェーズへの人員配置方法は、人的資源マネジメントにおける重要なポイントの1つです。
4.コントロールと承認の方法
最後の「各フェーズのコントロール方法と承認方法」では、作業の完了したフェーズから次のフェーズへと移行する方法を定めます。そのためには、作業が完了したことを確認する手段を決めておかねばなりません。具体的には、各フェーズでどのように要素成果物が作成され、さらにどうやって承認するのかを決める必要があります。
プロジェクト・ライフサイクルの特性
次にプロジェクト・ライフサイクルに共通してみられる特性をあげてみます。フェーズの逐次的な実行
まず、各フェーズは通常、逐次的に実行されます。フェーズの移行時にはなんらかの形で技術情報が移転し、技術的成果物が引き継がれていきます。技術的成果物とは、なにかを実施した結果としてできあがった成果物のことです。ソフトウェア開発であれば、ソフトウェアの設計書やプログラムのソースコードが技術的成果物に相当します。
コストや要員数の推移
コストや要員数はプロジェクトの初期フェーズでは少なく、中間フェーズで頂点に達します。そして、プロジェクトの終結時には急激に落ち込みます(図1)。
通常のプロジェクトでは、プロジェクトの序盤は穏やかに進んでいきます。つまり、初期フェーズでは人もコストもあまり投入されません。しかしフェーズが進むに従い、人もお金もかかるようになっていきます。中間フェーズで最大になる理由は、プロジェクトが佳境に差し掛かっているからです。やがてプロジェクトが終盤を迎えると投入コストや人員数は急速に抑えられるため、プロジェクトのライフサイクルでみると、投入コストと要員数のグラフは図1に示すカーブを描きます。
失敗するリスクの推移
プロジェクトを開始した当初、目標が達成できないリスクは最大です。それは、プロジェクト開始時には全体像がまだ十分に把握できていないことが多いためです(注1)。しかしプロジェクトの進捗に伴い、成功の確度が高まります。多くのプロジェクトでは、プロジェクトの遂行と共に失敗するリスクが減っていき、プロジェクトを成功裡に終了させた時点で失敗のリスクは消滅します。
ステークホルダーがおよぼす影響
コスト調整など、ステークホルダーがプロジェクトにおよぼす影響力は、プロジェクト開始時が最大です。そして、開始時にはまだ曖昧だったスコープ(注2)が明確になってくるため、プロジェクトが進むにつれてその影響力は徐々に低下します。
一方、スコープの変更やエラーに伴う修正に関するコスト(注3)は、一般にプロジェクトの進捗に伴って増加します。
【次ページ】ケーススタディ:新製品の開発
注1 プロジェクトの特徴である段階的詳細化を思い出してください。
注2 プロジェクトのスコープとは、そのプロジェクトでなにをすべきか、プロジェクトの範囲を定義するものと考えてください。
注3 これらのコストはプロジェクトの進行の影響で発生するものであり、ステークホルダーの意図による影響をあまり受けません。
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