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- 2009/12/04 掲載
IT業界では、なぜ他業界の経営手法が機能しないのか
IT企業を見る視点
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** IT専門調査会社IDC Japanは、「国内ITサービス市場の2008~2013年の年間平均成長率は1.7%」との予測を発表している。(出典:IDC Japanプレスリリース「国内産業分野別ITサービス市場規模予測を発表」2009年9月)
IT企業を見る視点
レストラン、工務店、美容院、経営コンサルティング会社、「経営管理」という観点から見るとこれら業態には共通点がある。共通点とは、
1. 組織の成功や成長が顧客と接する社員(腕の良いコック、大工、美容師、目から鱗のソリューションを提供してくれる経営コンサルタント)の力量に負う部分が大きい
2. 基本的には受注産業であり、中期的な戦略を組み立てるより、短期的かつ個別案件への対応に万全を期すことの方が重要
3. コストのかなりの部分を固定費である人件費が占め、受注産業であることと相まって、ヒトの管理が重要
筆者は、IT企業にも同じ特徴が当てはまると考えている。IT企業においては、社員の過半をシステムエンジニア (以下”SE”) が占める。そのパフォーマンス(正確には、SEを取り仕切るプロマネのパフォーマンス)を最大化し、コスト面も含めたヒトの管理を適切に行うことが組織の成功のカギを握っている。
通常の経営手法が機能しない原因
IT企業の社員、特に、SEたちは総じて優秀だと思う。あえて一般化すれば、癖はあるが、実は素直で、論理的な思考力を備え、話せばわかる社員が多いというイメージである。そうだとすれば、他業界で取り入れられている経営管理手法がより良く機能しそうなものだが、筆者の経験では、笛吹けど踊らずという状況に陥りがちで、「スピードが出ない」「スケールしない」という実感をIT企業の経営に携わっていた当時持っていた。その原因はどこにあるのか? 経営管理の観点で、IT企業が他業態と比べてユニークなのは、たとえば、一般企業では「組織」を単位としてオペレーションが回っていくのに対し、IT企業では「プロジェクト」を単位として、会社のオペレーションが組み立てられている感がある。具体的には、社内の損益管理が「プロジェクト損益」のデータは存在しても、顧客別、本部別の損益データは管理していないことが散見される。プロジェクトの採算は気にするが、全社の採算は気にならない、正確には、「需要も価格も顧客次第なのだから、経営計画や予算を作ってみても、意味がない」「経営がコントロールできる変数は少ない」という暗黙の共通認識(諦め)があるのではないか?
プロジェクトを取り仕切るプロマネが、組織内では優秀な部課長かというと、必ずしもそうではない。それには以下のような背景がある。IT企業では、指揮命令系統が有効に機能しないことがある。一般企業では当たり前の「上司の命令や指示に部下は従う」(もちろん、不当、違法な指示は除く)という「就業規則」に書かれていることが機能しないことが起こりうるのである。
職場で上司の指示に部下が抵抗し、それでも、最終的には指示に従うのは、上司が部下の「生殺与奪」(人事権)という切り札を握っているからである。ところが、この業界では、人事権が切り札として機能せず、以下のようなやり取りが珍しくない。
(ケース1)
優秀な部下:「その仕事はやりたくありません」「どうしてもやれと言うなら、会社を辞めます」
上司:「そこまで言うなら仕方がない。僕が代わりにやるよ」あるいは「その役割の分、来年の年俸を上げるから我慢してくれ」
(ケース2)
上司:「君への評価はとても高い。来年からは、マネジャーに昇進し、チームを引っ張ってほしい」
優秀な部下:「ヒトの管理なんて興味ありません。好きな仕事だけやらせてください」
「嫌な仕事はやらない」「ヒトの管理は嫌だ」という主張がまかり通るとすれば、いかに経営管理が困難か、容易に想像いただけると思う。会社のオペレーションを円滑に回すためには、誰かが嫌な仕事、損な役回りを果たさなければならない。また、部課長を担える人材が増えなければ、組織は大きくならないし、スピードも持ちえない。
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