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  • 2009/11/18 掲載

EverNoteに見るフリーミアムビジネス成功の3つの条件【○○はビジネスになるか(4)】

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前回ご紹介した「フリーミアム」によるビジネスの実例を探っていくと、まずWebサービスが思い当たる。基本的な機能は、無料で使えるが、ちょっとお金を出せば、煩わしい広告が表示されなくなったり、もっと高度な機能が使えるようになる――というものだ。では、これらのサービスは本当にビジネスになっているのだろうか?Googleは既に巨大資本を手に入れており、一つのサービスでビジネスを見ることが難しい。そこで今回は、最近急速に注目を集めているオンラインメモサービス「EverNote」を取り上げて、フリーミアムがビジネスとして成功する条件を探る。
執筆:行宮 翔太
 Webサービスのそれほど長くない歴史を振り返れば、数年前に無料のWebアプリケーションが与えた衝撃は大きかった。2006年に登場したGoogleのオンラインオフィススイート「Google Docs & Spreadsheets」(現Google Docs)は、基本的なものに限られるとはいえ、Microsoft Officeと同じ機能が無料で利用でき、高価なパッケージ製品を買わなくても済む。“無料”の価格破壊だった。

 このGoogle Docsは、Gmailなどとともに、有料の企業向けサービス「GoogleApps Premier Edition」に発展した。99.9%の稼働保障、25GBのストレージ、電話サポートなどが付属して、年間50ドル(日本ではサービス開始当時6,000円相当)で提供されている。

 とはいえ、Google Docsがビジネス的に採算がとれているのかは外からは分かりにくい。巨大な資金力を持つGoogleは、莫大な赤字を出したとしても事業を継続できるので、他の参考にはなりにくい一面があるからだ。そこでここではフリーミアムを考えるうえで、もっと小規模な、新規事業の例を取り上げたい。ニューヨークタイムズが今年8月、ビジネスの状況と見通しを紹介したオンラインメモサービス「EverNote」だ。これはフリーミアムを実践するスタートアップの台所を知る格好の事例と言える。

“外部脳サービス”EverNote

 EverNote(http://www.evernote.com/)は、メモや画像をワンタッチでオンラインストレージ上に保存・整理・検索できる。いわゆる“外部脳サービス”の一種だ。


Webブラウザに表示させたEverNoteのNotebook。
Webスナップショットをどんどん取り込める


 データ形式は、テキストのほか、Webのスナップショット、音声なども扱える。パソコン(Windows、Mac)だけでなく、携帯デバイスから保存・閲覧できるのも特徴で、iPhoneやBlackBerry、Windows Mobileなどのスマートフォン向けにはアプリケーションも用意されている。

 「Notebook」に登録したデータは、各端末と自動的に同期される。外出先でiPhoneから書き込んだメモの続きをオフィスに戻ってPCから補足するといったこともできる。こうして蓄積したメモは全文検索やタグ付けができる。また、画像内のテキストの認識(現在、英語のみ対応)も可能で、分類・整理に便利だ。メモの数が1,000件を超えたあたりから威力を発揮し始めるといわれている。

 同社はシリコンバレーのベンチャーで、もともとメモ管理や手書き文字認識ソリューションを開発していた。社員数は30人あまり。オンラインメモサービスは、2008年初めにクローズドベータを開始、同6月に公開した。同社は今年9月にNTTドコモ傘下の米DOCOMO Capitalから200万ドルの出資を受けている。

 先ごろ、フィル・リービンCEOが来日し、あちこちのメディアで取り上げられたので、目にした人も多いだろう。ちなみに、トレードマークの象は、「An elephant never forgets」(象は決して忘れない)ということわざからとったのだという。

EverNoteの台所事情

 さて、それではEverNoteの台所事情を探ってみよう。EverNoteには無料と有料のサービスがあり、無料の「Standard」は広告、プロモーションメッセージが表示され、月間アップロード容量が40MBまでに制限される。また、同期可能なファイルタイプが画像、オーディオ、メモ、PDFに限られる。

 これに対し、有料の「Premium」サービスは月額5ドルまたは年額45ドルの料金で、月間のアップロード容量が500MBに拡張されるほか、シンクロできるファイルに制限がなくなる。もちろん広告は入らない。またSSL暗号化も利用できる。

 ニューヨークタイムズの記事(8月29日付)によると、サービス開始から1年半で試用したユーザーは140万人に達し、毎日4500人ずつ流入中という。こうした試用ユーザーの75%は4カ月以内に去ってゆくが、入ってくるユーザーの方が多いため、アクティブユーザーは増え続け、50万人になっている。

 リービン氏は、サービスを長く使う顧客ほど有料を選ぶようになると説明している。最初の月で有料ユーザーになった顧客の率は約0.5%だったが、1年間で4%になった。また、アクティブユーザー1人あたりの売上は、最初の月は3セントだったが、1年で35セントに増加。この結果、7月の有料会員からの売上は7万9,000ドルにのぼったという。

 一方でコストは下落し続けている。アクティブユーザー1人あたりの変動コストは、当初は月約50セントだったが、9セントにまで下落した。リービン氏の計画では、2011年の1月に収支均衡する見込みという。「Freeは客寄せではない。もし、ユーザーのわずかな比率でも支払ってくれれば、もうけることができる」とリービン氏は言う。

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