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  • 2009/11/26 掲載

【鈴木光司氏連載】「知的思考力」とは何か:(2)世界にはなぜ構造があるのか

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分子生物学や理論物理をテーマとした小説で高名な鈴木光司氏は、仕事や人間関係、人生全般においてまで、物理を理解している者の強みがあると語る。いま、企業マネジメントにおいて求められている「知的思考力」。本連載では、物事の原理をわきまえているとどのような利点があるのか、全5回にわたってお届けし、「知的思考力」の本質に迫る。
執筆:鈴木 光司

知的思考力<2> 世界にはなぜ構造があるのか

鈴木光司氏

鈴木光司氏


 拙著『エッジ』の中で、登場人物のひとりが次のように言うシーンがあります。

「モノがないことより、あることのほうがずっと不思議なんだ」

 この台詞はぼく自身の実感です。モノがあるということ、つまり、宇宙に構造があるということは、実に奇妙なことなのです。

 われわれが認識している宇宙には、「エントロピー増大則」という基本原則があります。自然のままに放っておけば、世界は徐々に無秩序に向かうというものです。にもかかわらず、なぜ秩序=構造が生まれたのか。考えるだに頭を悩ませる問題です。神の存在を仮定したほうがまだしもすっきりするかもしれません。

 疑問はさておき、宇宙には大きくふたつ、マクロの構造があります。天体と生命です。両者とも、でき方としては、どうやら自己組織化(ボトムアップ)によってできたようです。太陽系を例にとれば、今から約46億年前に、水素とヘリウムを主成分とする星間雲が収縮し、回転しながら円板状になり、衝突と合体を繰り返しながら成長して惑星が形成されたとされます。

 そして、太陽系ができてほんの5億年ばかり経過した頃、惑星の中のひとつである地球に自己組織化のメカニズムによって生命が誕生しました。有機化合物をたっぷり含んだ原始スープをかき混ぜているうちに、偶然に原初生命であるDNA(あるいはRNA)ができたというのです。誕生の場所に関しては、深海にある熱水噴出口(ブラックスモーカー)付近という説が有力ですが、ぼくはこの説を信じていません。(理由は『エッジ』に書いたとおりですが、長くなるのでここはでは省きます)

 いずれにせよ、天体(山や渓谷、湖や川など、自然の造形物はここに含む)にしろ、生命にしろ、偶然の作用によってボトムアップ方式でできたのは、どうやら確からしい。自然の構造物が、トップダウン方式でできたと解釈する場合、先に設計図が必要となるため、神の存在が前提となります。言うまでもなく、現在の科学は、創造論、あるいは決定論的解釈を否定する立場にあります。
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