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  • 2009/10/29 掲載

【鈴木光司氏連載】「知的思考力」とは何か:(1)世界の仕組みについて

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分子生物学や理論物理をテーマとした小説で高名な鈴木光司氏は、仕事や人間関係、人生全般においてまで、物理を理解している者の強みがあると語る。いま、企業マネジメントにおいて求められている「知的思考力」。本連載では、物事の原理をわきまえているとどのような利点があるのか、全5回にわたってお届けし、「知的思考力」の本質に迫る。
執筆:鈴木 光司

知的思考力<1> 世界の仕組みについて

鈴木光司氏

鈴木光司氏


 物理学とは、簡単にいえば、世界の仕組みを探求し、ものごとの原理を解明しようとする学問といえます。昨年は日本人研究者3人がノーベル物理学賞を受賞しました。大きな快挙と言えましょう。この事実をもって「日本人は物理が得意」と普遍化できればいいのですが、実際のところ、物理を苦手と感じる日本人はことのほか多いように見受けられます。高校生の物理離れは進み、科学雑誌の発行部数はアメリカに比べて格段に減ってます。友人の女性は、冗談半分に、「物理と聞いただけで身体が拒否反応を起こす」と笑います。そして彼女は、「たとえ物理を知らなくても、これまでの人生で困ったことはなかった」と続けます。

 理論物理を知らないからといって、直接、生活に困るような自体は生じません。では、物理は専門家のみを対象とする学問で、素人には無用の長物なのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。物理を理解している者の強みは、確かにあるのです。世界の仕組みを理解しているか否かによって、物事を判断する基準が変わってくるからです。

 全5回のエッセイでは、科学分野を含め、物事の原理をわきまえていると、仕事や人間関係、人生全般において、どのような利点があるかについて、語ってみたいと思います。これまで物理とあまり縁のなかったみなさんにとって、目から鱗の体験になってもらえたら嬉しいかぎりです。

 『らせん』で分子生物学、『ループ』で人工生命、最新作の『エッジ』では理論物理と数学を中心テーマに据えてきたせいか、理系作家と呼ばれることが多いのですが、ぼくの育ちは完全に文系、文学部フランス文学科の出です。なぜ科学に興味を持つかといえば、常に「世界はどのようにできていて、人間とはいかなる生き物であるか」という問いを発しつつ答えを探求しようとする態度が、小説を執筆する上で重要であると信じているからなのです。

 『エッジ』の執筆にかけた労力は多大でした。まちがいなく、これまででもっとも苦労した作品であると断言できます。しかし、別の側面から見れば、テーマをじっくりと考える機会が与えられて幸運であったともいえます。執筆という目的がなければ、過剰な粘着力をもって思考し、果てもなく妄想することはなかったでしょう。
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