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- 2009/04/08 掲載
【連載:世界恐慌を突破するためのツール、経営の「見える化」】(3)崩落する経済とその影響の見える化
経営コンサルタント 山本一博氏
崩落する経済とその影響の「見える化」
企業の業績はマクロ経済の動向によって大きく左右されます。そこで今回はマクロ経済の「見える化」、マクロ経済政策の「見える化」を行い、それが企業業績に与える影響について「見える化」を行ってみたいと思います。まずは、マクロ経済の論点を整理してみましょう。
悪魔のサイクル
現在の日本の景気が急速に悪化している根本原因のひとつは、1973年の変動相場制を初発因とする、恒常的消費不足ならびにそれに起因する恒常的内需不足です。
すなわち、1973年の変動相場制の導入と国内市場をないがしろにした日本の輸出偏重主義は円高をもたらしました。円高のために消費の源泉となる実質賃金率は抑制され、その結果、消費が長期間低迷しています。生産性の上昇=供給の増加は、実質賃金率の上昇=需要の増加として吸収されないため、超過供給が生じ、それが輸出ドライブをもたらし、輸出の増加→円高→実質賃金率抑制→消費低迷→超過供給→輸出ドライブという悪循環、恒常的内需不足の循環に陥ることになり、泥沼状態になってしまっているのです。
中国、東欧などの自由経済圏への参入
また、冷戦の終了による中国、東欧など25億人の自由経済圏への参入は、人件費の圧倒的優位による低価格製品の輸出をもたらし、実質賃金率の抑制に拍車をかけました。
格差社会の到来
実質賃金率の抑制が継続する結果、貧富の差が生じて来る結果となり、ジニ係数(※)は「異常値」をとることになります。富裕者層は消費性向が低く、低所得者層は消費性向が高いので、加重平均値である全体の消費性向は富裕者層に所得が移行すればするほど低くなります。つまり、二重の意味合いで消費が低迷することになるのです。
※ジニ係数: 主として社会における所得分配の不平等さを測る指標。ローレンツ曲線をもとに、1936年、イタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された。
米国における過剰消費が日本の輸出を吸収
格差社会に突入したのは米国の方が先行しています。日本は収斂の法則により、後を追いかけているわけですが、唯一決定的な違いがあります。米国も変動相場制下にあり、実質賃金率は低いわけですが、低い実質賃金率の中で、米国は、低所得者層は過剰な消費を行いました。つまり、低所得者層の過剰な消費性向が決定的ちがいなのです。
サブプライム・ローン問題は米国の富裕者層の強欲と低所得者層の過剰消費がもたらした「最後の晩餐」的結末であり、しかし見方を変えれば、米国のバブルによって日本の輸出が支えられたのですから、日米両国とも綱渡り的景気拡大を行っていたことになるのです。
米国の市場の大停滞、日本の恒常的内需不足によって、輸出依存型企業は、今、絶体絶命の状況に立たされています。
それでは、上記マクロ経済論点1~4を前提にした上で、トヨタ自動車、日産自動車の第3四半期報告書をSPLENDID21で分析してみましょう。トヨタ自動車の連結決算での、第3四半期報告書のグラフは、以下のとおりです。総合評価、営業効率が鋭角的に下落していることに気づくでしょう。
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図1:トヨタ自動車の企業力総合評価(※グラフ2009年は第3四半期) |
悪化成り行き倍率が、危険ゾーンまでの年数を2年と推定計算しています。
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図2:トヨタ自動車の営業効率 |
決算予測は5,000億円の経常損失ということであり、総合評価も営業効率ももっと鋭角的に下落するでしょう。
日産自動車の連結決算での、第3四半期報告書のグラフも同様に、総合評価、営業効率が鋭角的に下落しています。
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図3:日産自動車の企業力総合評価(※グラフ2009年は第3四半期。) |
悪化成り行き倍率が、危険ゾーンまでの年数を3年と推定計算しています。
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図4:日産自動車の営業効率 |
決算予測は1900億円の経常損失ということであり、総合評価も営業効率ももっと鋭角的に下落するでしょう。
これらのグラフを見て、サブプライム・ローン問題による影響でトヨタ自動車、日産自動車が急激に悪化しているように思われる方が多いかもしれません。しかし、原因はサブプライム・ローン問題だけでないのです。なぜなら、トヨタ自動車、日産自動車の第2四半期報告書(連結決算)のグラフがリーマン・ブラザーズ破たんのたった15日後であるにもかかわらず大きく下落傾向にあるからです。
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図5:2008年9月第2四半期 自動車3社総合評価 |
内閣府の景気動向指数は日本の景気の総合評価
内閣府の景気動向指数をみれば、景気変動の屈曲点が明確に理解できますので、これを利用し真因を探ってみましょう。
内閣府の景気動向指数とは、内閣府が発表している景気に関する総合的な指標のことで、先行指標、一致指標、遅行指標があります。内閣府の景気動向指数には、CIとDIがあります。CIは、景気に敏感な指標の量的な動きを合成した指標であり、主として景気変動の大きさや量感を測定することを目的としています。作成方法は内閣府経済社会総合研究所の旧計算方法(標準偏差を用いる手法)に準拠しています。DIと違う点は、ある年度の状態を100とし、それ以後は基準年次と比べた増減数値を計算している点です。
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図6:内閣府のCI一致指数 |
遅行系列は以下6指数を総合評価
(Lg1)第3次産業活動指数(対事業所サービス業) (平成12年=100)
(Lg2)常用雇用指数(製造業) (前年同月比) (%)
(Lg3)実質法人企業設備投資(全産業) (億円)
(Lg4)家計消費支出(全国勤労者世帯、名目) (前年同月比) (%)
(Lg5)法人税収入(億円)
(Lg6)完全失業率(逆サイクル) (%)
一致系列は以下11指数を総合評価
(C1)生産指数(鉱工業) (平成17年=100)
(C2)鉱工業生産財出荷指数(平成17年=100)
(C3)大口電力使用量(百万kwh)
(C4)稼働率指数(製造業) (平成17年=100)
(C5)所定外労働時間指数(製造業) (平成17年=100)
(C6)投資財出荷指数(除輸送機械) (平成17年=100)
(C7)商業販売額(小売業) (前年同月比) (%)
(C8)商業販売額(卸売業) (前年同月比) (%)
(C9)営業利益(全産業) (億円)
(C10)中小企業売上高(製造業)
(C11)有効求人倍率(除学卒) (倍)
先行指標は以下12指数を総合評価
(L1)最終需要財在庫率指数(逆サイクル) (平成17年=100)
(L2)鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル) (平成17年=100)
(L3)新規求人数(除学卒)(人)
(L4)実質機械受注(船舶・電力を除く民需) (百万円)
(L5)新設住宅着工床面積(千㎡)
(L6)耐久消費財出荷指数(前年同月比) (%)
(L7)消費者態度指数
(L8)日経商品指数(42種総合) (前年同月比) (%)
(L9)長短金利差(%ポイント)
(L10)東証株価指数(前年同月比) (%)
(L11)投資環境指数(製造業)
(L12)中小企業売上げ見通しD.I.
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図7:参考 景気判断因果関係図 |
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