• 2009/03/06 掲載

【連載】戦略フレームワークを理解する「ビジネス生態系戦略(Ecosystem Strategies)」

立教大学経営学部教授 国際経営論 林倬史氏 + 林研究室

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これまで見てきた経営戦略論や競争戦略論は、ポジショニング理論にせよRVB(Resource Based View)の流れにせよ、企業間の競争優位をベースに論じてきたものであった。それに対して、この戦略論は企業の競争優位性の源泉を、いわゆるビジネス生態系全体の中から位置づけていくものである。その中心的理論は、M.イアンシティ & R.レヴィエン(2004)によって書かれた”The Keystone Advantage”といえよう。

個別企業の競争優位戦略からビジネス生態系の競争優位へ

 ビジネス生態系とは、複数の産業の境界線が融合しあい、多種多様な企業が協調と競争を繰り返す混沌とした事業環境のなかで、それぞれが共生しあう関係性をベースにしたビジネス・インフラの体系でもある。いまや、自社単独で実現できるイノベーションは皆無に近く、外部企業との共生関係を通して競争優位性の源泉となるリソースを組み合わせ、イノベーション創出を図らざるをえない。したがって、こうした時代における適合的な戦略は、ビジネス生態系全体の健全性を反映させるものでなければならない。

 既存の戦略論は、産業構造や産業組織を固定的に捉え、それを基盤に外部環境や内部環境を分析するアプローチであった。そのため、こうした従来の戦略論のフレームワークでは、自社の競争優位ないし自社中心のビジネスモデルを提起するに留まらざるを得なくなる。その結果、そこでの競争優位性の源泉は、特定産業内での既存企業間の競争優位を中心に論じられていた。それに対して、ビジネス生態系の戦略論は生態系全体の発展に適合的な戦略を提起する。

ビジネス生態系とプラットフォーム

 この「ビジネス生態系に適合的な戦略論」は、1980年代以降、とりわけ1990年代後半以降のインターネットの普及によって進展した時間的・空間的差異を超えたビジネス・ネットワーク化に大きく起因している。ITを基盤とする企業間ネットワーク化が進展することは、それを可能とする共有財産としてのプラットフォームが構築されてきていることを意味する。

 M.イアンシティ & R.レヴィエン執筆の『キーストーン戦略』においても、紹介されている事例はマイクロソフトのOS、ウォールマートによるサプライヤーとの情報共有ツールであるリーテイルリンク、イーベイ、エンロン、リ&フン(香港拠点のアパレル企業:国際的なサプライチェーン・システムによる競争優位)、TSMC(台湾拠点の半導体ファウンドリーメーカー)などの企業である。そのため、これら企業がハブとなってビジネス・インフラ(共有財産)としてのプラットフォームを提供している。

 従来の経営戦略論による事業環境の捉え方が「産業」をベースとしていたのに対して、ビジネス生態系の戦略は、現代の事業環境を生物学上の「生態系」と類似した概念によって捉えている。特定の種の生存可能性が、自然の生態系の持つ他の種との食物連鎖や共生関係に規定されているように、個別企業の生存可能性や優位性もビジネス生態系の健全性とそこでの位置づけ(ポジショニング)および関係性によって判断されうる。したがって、ビジネス生態系における戦略は、共生的な企業間関係に注意を払いながら自社の戦略行動を描く必要がある。

ビジネス生態系の健全性

  自社が属している、あるいは属する予定のビジネス生態系としての競争優位は、その生態系の健全性に規定される。それでは、その健全性の程度を測るにはどのようにすればいいのだろうか。イアンシティ & レヴィエンは、ビジネス生態系の健全性の指標として生産性、堅牢性(たくましさ)、ニッチ創出の3点を指摘している。



※クリックで拡大
図表1 ビジネス生態系の健全性を測る3つの指標


 図表1に示されているように、健全性を示す上記3つの指標はそれぞれ、投下資本利益率、メンバーの生存率、および新規企業の登場数によって概ね推量されうる。

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