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- 2008/04/22 掲載
中島経営法律事務所 弁護士 中島茂 氏インタビュー「記録の不備はコンプライアンスの不備」
【ITキーパーソンインタビュー(14)】
適正経営を担保するインフラ
中島経営法律事務所 代表 弁護士 中島茂氏 |
最近私が訴え続けているのは、「記録の不備はコンプライアンスの不備」ということです。2005年に新会社法が施行され、「業務の適正を確保するための体制」が義務付けられました。ここで着目してもらいたいのは、単に「法令遵守」のみを規定したものではないということです。この「適正」という言葉には、公平性、透明性、社会性という意味が盛り込まれています。では、「業務の適正を確保するための体制」とは何か? 会社法施行規則にはその実施項目がいくつか示されていますが、その最初に挙げられているのが、「情報の保存及び管理に関する体制」なのです。
そうしたことを踏まえて近年の企業不祥事を振り返ってみると、いずれの事件、事故においても「記録の不備」が特にメディアなどで非難されている事実に気付きます。「記録の不備は偶然か?」さらに「 実は隠ぺい工作だったのではないか?」といったことが書き立てられています。不祥事や事故が発生した際に、原因究明や業務の適正さを主張するための情報が保存されていないことは、企業にとっての致命傷になるということがわかります。情報が残っていないので、釈明や弁解の余地がないのです。だから、記録の不備はコンプライアンスの不備そのものなのです。
皆さんもよく耳にする「ドキュメント(document)」という単語を英和辞典で調べてみてください。動詞としての意味は「証拠を提供する、証拠を示して身の潔白を証明する」と記載されているはずです。多くの経営者やビジネスパーソンは業務を適正に行っていると思いますが、後々何か予期し得ない問題が発生した場合も、ドキュメント(身の潔白を証明)するには、まさにドキュメント(記録)が必要になるわけです。けれども、だからといって何十年も紙で書類を保存するのは無理があります。そこでITを活用していくべきなのです。検査や安全管理の記録、新規事業にあたっての事前調査の記録、そういうものがITを活用すれば記録、保存できる時代です。そう考えてみると、情報の記録保存体制、つまりITによる業務管理体制が企業経営の要になるとわかります。
この流れは、2000年頃からコンプライアンスやガバナンスが重要だという理念的なところが広まり、現在では理念はわかってきたが、実務上どうすればよいのだ、という現実的な問題意識に展開されてきたのだという印象があります。そして、その実務とは情報の保存や管理が大きなウエイトを占めます。コンプライアンスやリスクマネジメントが、そのままITの活用に直結する時代に到来したわけです。情報管理体制がコンプライアンスを裏から担保する重要なインフラになったということです。
──その重要性は理解していても、マイナスイメージから抜け出せない経営陣も多いと思います。イメージをプラスに変えるには、どのように発想を転換するべきでしょうか。
「記録の保存」という行為には、2つのポイントがあります。1つは、適正に業務を進めているということの担保になるということです。経営者がもしも会社で不正な行為を行うときは、記録が残らないようにしたいと思うはずです。経営者はそれができる立場にあります。しかし、客観的な正しい記録が残っていることが証明できる体制があらかじめ構築されていれば、それがそのまま「適正な経営を行うこと」の担保になります。
そしてもう1つのポイントは、対外的な信頼性を向上できるということです。いざ何か問題が起きたときに、正規の手続きを踏めばきちんと記録を見られる会社は、外部からも信頼されます。つまり、記録を残すということは、外部からの信頼性を向上させ、さらに自分たちもうっかり不正の道へと迷いこまないための担保となるのです。
こう考えると、記録の保存がマイナスよりも会社の価値を向上させるものだということがわかるでしょう。経営トップにも、そのことを理解していただきたいですね。今は、適正経営を行っていることを明確にアピールできることがそのまま売上アップや株価上昇につながる時代です。記録保存体制とそれを実現するITの管理体制の整備が企業のトップマターだとわかっていただけるのではないでしょうか。
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