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7月13日の暗殺未遂事件に遭遇したトランプ氏は、間一髪で頭部への直撃を避け、その「不屈さ」により人気が大きく高まっている。一方、11月の米大統領選で対決予定のバイデン大統領は、高齢による職務遂行能力が懸念され、6月27日のトランプ前大統領との討論会でも精彩を欠き、一気に民主党内で「バイデン下ろし」の動きが加速した。その中で起きたトランプ氏銃撃事件で、バイデン氏はより一層不利な状況に陥っている。それでもまだ、現地ではバイデン氏続投の声があるという。ここではバイデン氏が失敗した2020年の「ある決断」など、今の「バイデン下ろし」や民主党危機の萌芽を読み解く。
トランプ人気高まる裏でバイデン氏は…
7月13日の銃撃事件では、トランプ氏の命に別条はなかったが、集会に参加していた消防士のコリー・コンペラトーレさんが死亡したほか、2人が重傷と、痛ましい事件となってしまった。被害に遭った方々にお見舞いを申し上げる。
バイデン大統領の不人気が、民主党全体の勝敗にもたらす影響はさらに高まっている。ルーズベルト大学のデイビッド・ファリス准教授はニュースサイトの米Slateに寄稿した7月12日付の
分析で、「バイデン氏が負ければ、その道連れで、多くの民主党議員も落選し、政権に加えて上下両院も失う可能性がある」と警鐘を鳴らした。
政治学において、ある政党の無名候補者の当選確率がその党の有力指導者の人気によって上がる現象は「威光効果(coattail effect)」として知られる。暗殺未遂を驚異的な強運で命拾いしたトランプ前大統領を中心に団結を固める共和党には、この効果が表れ始めている。
ところが、逆も真なりで、不人気な指導者に率いられる党の候補者は落選することが多い。老いて弱々しい印象を与えるバイデン氏がリーダーの民主党は、まさしくそのリスクに直面している。
ファリス准教授は、「6月の討論会以降の
各種世論調査を見ると、各選挙区における民主党の上院・下院議員候補の不利が目立つ。また、共和党がコントロールする下院でも、民主党が多数派になることは困難に見える」と分析した。
バイデン氏が「大将」のままでは共和党が地滑り的な勝利を収め、民主党が政権だけでなく上下両院を落とすと、多くの民主党関係者が懸念している。政権も議会も失えば、オバマ政権やバイデン政権の下で積み上げてきた環境・テクノロジー・金融・社会正義などの領域における規制強化の成果がひっくり返されてしまう。
つまり、今回の選挙の結果、ひいては米国政治の大きな方向性は、バイデン氏が選挙を戦うか撤退するかで大きく変わり得る。そのため、民主党内でバイデン撤退論が日に日に高まっているわけだ。
候補交代より「バイデンが勝機あり」のワケ
日本でも広く報じられているように、バイデン氏に代わる大統領候補として、カマラ・ハリス副大統領、ギャビン・ニューサム(カリフォルニア)州知事、グレッチェン・ホイットマー(ミシガン)州知事、エイミー・クロブシャー上院議員(ミネソタ州選出)、さらにはバラク・オバマ元大統領の夫人ミシェル氏まで、多彩な有力者の名前が挙がっている。馬を乗り換えることで、勝率を上げようというのだ。
だが、たとえばハリス副大統領が候補者になったとしても、バイデン大統領と比べて選挙人団を獲得する
確率が35%から38%へと3ポイント上昇するに過ぎない。全国的な知名度の低いホイットマー州知事など他候補ではさらに数字が悪くなる。
もちろん選挙は水ものであり、フタを開けてみなければわからない。だが、ファリス准教授が指摘するように、この時点で候補者交代による勝利という効果はあまり望めない。暗殺未遂によるトランプ人気が高まる中、「このままバイデンで戦ったほうがまだ勝機はある」との党内にある根強い声は、こうした現実に基づいたものだ。
しかし、たとえバイデン氏を大統領候補に指名しても、あるいは起死回生を狙ってハリス副大統領など別の人物を立てても、党全体が進むに進めず、退くに退けないジレンマに悩まされることに変わりはない。
なぜこのような絶望的な事態に至ったのか。実は2020年のある選択に失敗したと指摘されている。
【次ページ】絶望を招いた、バイデン氏による「2020年のある決断」
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