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国民に負担増を押し付け続ける中で起きた自民党派閥の裏金問題。岸田内閣の支持率は低迷し、先に行われた衆院補選の3選挙は、2つの不戦敗と1つの大敗北と大ピンチに陥っている。しかし、そんな国民の怒りが爆発する中で、岸田政権は「外交」に光明を見出そうとしている。米国のあと、フランス、ブラジル、パラグアイと立て続けに首脳会談を行ったところ、これまでの政権批判とは打って変わって岸田首相の外交手腕が評価され始めている。果たして、その実態はどうなのだろうか。
批判から一転、岸田外交の“評価が甘い”理由
国賓待遇で招かれた米国では、晩餐会でのスピーチが大ウケし、その後のフランス、ブラジル、パラグアイとの個別首脳会談はメディアに好意的に取り上げられた。
日頃は岸田政権の政策に厳しい批判を加える有識者も、マクロン大統領の「戦略・防衛に関して、日本とフランスは、経済・産業分野およびインド太平洋地域での協力を強化します。親愛なる文雄、この協力は日仏両国の相互信頼の証であり、私はあなたに感謝しています」(2024年5月3日・
Xへのポスト)を引用して、「男岸田、GWの外遊でフランスと関係強化の実績を作る」と誇らしげだ。
しかし、本当に岸田外交は誇ってもいいものかは、きちんと検証されなければならない。
まず、日本の言論界の状況であるが、選挙で自民党に圧勝した立憲民主党はリベラルな政策を掲げており、保守系のオピニオンリーダーたちは、立憲民主党に政権が変わるのであれば、岸田政権のままのほうがいいと信じている節がある。
また、自民党内で政権交代(自民党総裁を替えること)をするにしても、国民の人気が高いポスト岸田候補は「小泉進次郎、石破茂、河野太郎」の3氏であるが、これまた保守ウケが非常に良くない。3氏それぞれに悪い部分があるのだが、共通するのはともにパフォーマンス先行で、国民の役に立っていないと印象付けられていることに尽きるだろう。
これらの問題が背景にあるために、「岸田政権は実はいいことをしている」「岸田首相は増税メガネなどではない」というキャンペーンを張らなくてはいけないという使命感に陥ってしまうのだ。
さすがに「岸田首相は増税していない」という認識が間違っているのは「子育て支援金」なる増税で理解できたものと思われるが、
実質賃金は23カ月連続マイナス、
名目GDPは4位に転落、これらの数字を一切無視するのであれば、褒めることもできようが、さすがに内政分野で褒めることは限られている。
そこで出てきたのが、外交で甘い評価をしてみるということだろう。
首脳外交が自国にもたらす「ある効果」とは
安倍晋三政権は「地球儀を俯瞰する外交」を掲げ、戦略的に世界中を回っていた。中国を包囲するような姿勢なのかと思いきや、トランプ大統領との緊密な関係を軸に、最終的には中国とも友好的な関係を作ろうとするしたたかな戦略であった。
小泉純一郎政権は、北朝鮮拉致問題のワンイシューで世界中を駆け巡っていったといっても過言ではないだろう。北朝鮮に関連する国の首脳へ金正日委員長に対話をさせるべく弛まない努力をしていたことは、後に飯島勲氏(当時、首席首相秘書官)が明らかにしている。これが功を奏し、拉致被害者の一部が日本へ帰国できることになった。
では、岸田首相の外交ポリシーとは何か。「新時代リアリズム外交」と岸田首相が自ら名付けているものの、中身は「新しい資本主義」並みにフレーズが先行している。
実態はどうなっているのかというと、
日経新聞(2024年5月4日)によれば「岸田首相は世界全体を見渡す姿勢を継承しつつ、価値観の押し付けではなく相手国の需要に寄り添う傾向」を強めているのだという。つまり、何ら戦略性を持たずに行動しているということになる。相手が望むことを聞き出し、それに「YES」と言っているだけなのであれば、相手国は喜ぶだろう。
たしかに、首脳外交は、それ自体に経済効果がある。「国賓訪問と国際貿易」(フォルカー・ニーチェ)という外交に関する有名な論文によれば、「国家元首の公式訪問は 輸出と正の相関関係があることがわかった。典型的な訪問は、ほかの要因を一定に保ったまま、二国間輸出を8~10%増加させる」可能性があるという。
これは、1948年から2003年までのフランス(大統領)、ドイツ(首相)、米国(大統領)の国家元首の渡航活動を網羅した大規模なデータから導き出された効果だ。両国の友好関係が醸成されれば、自由貿易が促進されるというメカニズムだ。
つまり、日本の首相が世界中を飛び回ること、恐らくそれ自体に価値があることになる。そのため、岸田首相でなくとも立民の泉健太氏や石破氏、小泉氏、河野氏が日本の首相になったところで、同じく積極的に海外へ出れば、同じだけの成果が得られるのである。
詰まるところ、岸田外交の問題は、現在の日本外交における獲得すべき目標が設定されていない点と、目標がないために本質的に有益な行動ができていない点ということだ。
そんな日本外交の喫緊の目標は、中国と北朝鮮問題であろう。
【次ページ】“大きな失敗を犯した”中国・北朝鮮外交
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