• 2006/09/25 掲載

【世界のビジネス事情】ベトナムにおけるビジネス展開-日本人の誤解(2/2)

【ビジネス】

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日本人の誤解
 前編で述べた(資金調達の問題、産業政策の不透明性など)ような日本のビジネスパーソンの困惑、失望、あるいはベトナムとのすれ違いはどこからくるのだろうか?日本の投資家は口をそろえて、非効率で不透明な行政システム、一方的で頻繁な規則の変更、金融システムと産業インフラの未整備などを指摘する。筆者は、それらの根底に、ドイモイ政策に対する誤解が存在するのではないかとみている。

 日本人ビジネスパーソンは、ベトナムは計画経済体制から、全面的な市場経済体制に移行したと理解しているのではないだろうか。しかしながら、ドイモイ路線の目指す経済体制は、市場経済原理を取り入れてはいるものの、国家が経済を支配・制御できるように、国営セクターを柱とした多セクター(共同組合、民間セクターなどを含む)からなる経済であって、自由主義に基づき民間セクターが中心となる市場経済ではない。

我が国をはじめとする自由主義諸国が、資源の配分を市場メカニズムに任せることで効率化を図ろうとするのに対して、ベトナムは効率至上主義はとらず、国家の意思による資源配分、つまり社会階層や地域間の公平な配分を重視する。すなわち、社会主義志向の市場経済を目指しているのである。そのため、民間セクターの成長は歓迎するものの、最終的には国家が経済をコントロールできるようにするため、国営セクターの優位を譲るつもりはない。ここに、日本人がビジネスを展開する上での難しさがあるのだろう。

 ソ連・東欧の社会主義国家崩壊後は、市場経済制度が世界を席巻し、グローバリゼーションの大波が世界のすみずみに押し寄せている、とわれわれは考えている。全体の認識としては正しいが、やや画一的な発想ではないだろうか?特にアジアにおいては、「冷戦」はまだ完全に終結していない。中国のように、経済面では資本主義を採用したといえる国もあれば、北朝鮮のように、旧態依然とした国も同時に存在する。ベトナムはその中間あたりに位置するだろうか。それぞれのお国柄を、きめ細かくみていく必要がある。

 拙著『ベトナムの対外関係』第4章では、同国のこうした路線が、工業化・近代化のために不可欠となっている外国投資を誘致する上で、今後大きな障害となること、また、国際経済への統合過程で、具体的には、WTO加盟が要求する国内制度改革との矛盾が、遠からず表面化するだろうと指摘している。

【ベトナムビジネス】
対ベトナム日本投資の推移(2991-2003年)
出典:在ベトナム日本国大使館HP



今後のビジネス展開
 では、ベトナムにおいて、どのようなビジネス展開をすべきなのだろうか?まず、「最後の投資の楽園」などという幻想を捨てることである。そして、ベトナムが社会主義国家建設の旗をまだ降ろしていないという現実を、しっかり見据えることから始めるべきだろう。

 もちろん、べトナムが投資対象国としてふさわしくないというわけではない。むしろ最近、ベトナムの位置づけに変化が生じ始めている。まず第一に、2001年の同時多発テロ後は、安定した政治環境と、テロとは無縁の安全性が再認識されている。第二に、ASEAN諸国と中国の中間に位置する地勢上の優位性への注目。第三に、これが重要なのだが、日本の投資が中国に集中するなか、一極集中リスクを避ける必要が生じている。人民元の切り上げ、他国との貿易摩擦、政治体制の揺れ動きなどである。

 特に2003年当初には、新型肺炎が流行し、「中国プラス1」としての「1」をどこにするかが切実な問題となった。シンガポールやマレーシアなどのASEAN先進国は人件費が高く、新規の投資先としては考えにくい。一方、ミャンマーやカンボジア、ラオスは外国投資受け入れの実績も少なく、政治・社会的に不安定で法制度も未整備であるため、中国よりもむしろ多くのリスクを抱えているようにみえる。このような理由により、中国リスクの回避先として、ベトナムを選択する事例が増えてきているのである。『ベトナムの対外関係』第6章(池部亮氏担当)においては、上記の内容を各セクターごとに詳しく紹介している。

 最後に、拙著では触れなかったが、政治の世界とは別に、いま東アジアでは共通の大衆文化が生まれつつあることを指摘しておきたい。NHKテレビドラマ『おしん』が、ベトナムをはじめ東アジアで大ヒットし、日本のアニメはどの国でも子供向け番組の定番になっている。ポピュラー音楽も、欧米の直輸入ものとは違って、われわれの感性に訴える東アジアポップスともいうべきジャンルが生まれている。

また、筆者が現在赴任しているジャカルタでは、インドネシアのテレビで、韓国ドラマ『冬のソナタ』を見ることができ、東アジアが市民レベルで一体化しつつあることを実感する。こうして、東京、ソウル、ジャカルタ、そしてホーチミン、ハノイまで、街ゆく若者の服装、食べ物、好み、さらにはものの考え方が同質化しつつある。こうした流れは、今後、ベトナムの社会主義に影響を及ぼさずにはいられないだろう。

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