• 2006/05/22 掲載

【連載】ITと企業戦略の関係を考える[第3回/全5回]

オーバーシューティングが引き起こす問題

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前回は、「ITは、電話や電力、鉄道などの技術と同じように基盤的技術であり、技術的な成熟にあわせてコモディティ(日用品のように誰でも容易に入手できるもの)になりつつある」というニコラス・G・カー(Nicholas G. Carr)の主張を紹介した。今回は、オーバーシューティングが引き起こすより深刻な問題を考える。
【知識・知財】富士通総研 前川徹氏

1978年 3月、名古屋工業大学情報工学科卒、
同年に通産省に入省、機械情報産業局情報政策企画室長、
JETRO New York センター産業用電子機器部長、
情報処理振興事業協会(IPA)セキュリティセンター所長、
早稲田大学 大学院 国際情報通信研究科客員教授などを経て
2003年9月から株式会社 富士通総研 経済研究所主任研究員。

おもな著書として、『ネットバブルの向こう側 ECビジネスの未来戦略』
『ソフトウェア最前線』(ともに(株)アスペクト)などがある。



オーバーシューティングとは何か

 カーは、ITが抱えるもう一つの問題を指摘している。それが「オーバーシューティング」である。オーバーシューティングとは、目標に向けて何かを調整する場合に目標を超えてしまうことをいう。ここでは、ITの技術進歩が利用者のニーズを超えてしまい、IT製品が利用者の必要とする以上の性能や機能を持つことだと考えればよいだろう。

 実際、我々が日常利用しているPCの情報処理能力は、かつてのスーパーコンピュータを凌ぐものになっている。表計算ソフトで一部のセルの数式を修正した場合、再計算は一瞬にして終了する。複雑な数式の入った巨大な表でない限り、再計算が行われていることに気付かないくらいだ。かつては専用のコンピュータが必要だったグラフィックスの処理も特別なものを除いてPCで処理可能になってしまった。

 毎日2億件以上の検索を0.5秒以内で処理しているGoogleは、2006年春時点で約20万台のサーバーで構成されていると言われているが、これらのサーバーはローエンドのものなのだという。これもオーバーシューティングが起きている証拠の一つである。

 もちろん、PCにより高い性能を求めるユーザは存在する。しかし、ほとんどのユーザは現在のPCの性能で満足しているばかりか、実際には、そのPCのもつ情報処理能力を十分に利用しきれないでいる。ストレージ(外部記憶装置)も同様である。コンピュータワールド誌の推計によれば、典型的なウィンドウズ・ネットワークに接続されたストレージの約70%は無駄に利用されている。

 これはPCだけに見られる現象ではない。IT分野におけるほとんどのハードウェア分野においてオーバーシューティングが起きている。


ソフトウェアにおけるオーバーシューティング

 オーバーシューティング現象はソフトウェアの分野でも見られる。ワープロソフトなどのオフィス用のパッケージ・ソフトウェアには、普通の利用者が生涯にわたって利用することのないだろうと思われる機能が数多く備わっている。

 企業内のほとんどのPCは、ワープロ、表計算、電子メールなどの限られた用途にしか利用されておらず、そのパワーも機能も一部しか利用されていない。そのような状況にもかかわらず、企業は2年から3年程度でPCを更新している。また、ソフトウェア・ベンダーも機能強化した新しいバージョンを2~3年毎に発表し、利用者に新しい製品を購入するように勧める。

 カーは、こうした支出の多くはITベンダーの戦略に起因しており、利用者のニーズに基づいたものではないと指摘し、システムの更新サイクルを少し長くするだけでかなりのコストが節約できると主張している。

 マイクロソフトのCEOであるスティーブ・バルマーは、カーの論文を「くだらない(hogwash!)」と評したそうだが、くだらないと思った理由は、カーのこの主張にあるのかもしれない。

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