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  • 2023/04/06 掲載

ビルメンテの負担が激減、 大成建設の「建物OS」は一体何が「スゴい」のか

連載:イノベーションの「リアル」

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大きなスケールで「モノづくり」を行う建設業界。そんな同業界で今、デジタル技術を活用した新しい取り組みを大成建設が進めていることをご存知だろうか。同社は、ビルの“かかりつけ医(主治医)”になるというコンセプトを掲げ、デジタルによるビルマネージメント・プラットフォーム技術「LifeCycleOS」を展開する。「リアルの極み」とも言うべき建設業の同社で、新たな事業はどのように始まったのか。事業を立ち上げた同社ソリューション営業本部 AI・IoTビジネス推進部長の上田俊彦氏と、同推進部プラットフォームデザイン室長の末田隆敏氏にお話を伺った。
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大成建設の建物OSについて、事業立ち上げに携わったお二人に聞く

すべては「有志活動」から始まった

(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──まず上田さんはどんな経緯で本プロジェクトに携わるようになったのですか?

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アクト・コンサルティング 野間彰氏

上田俊彦氏(以下、上田氏):ことの始めは20数年前になります。30代前半にエンジニアリング本部の企画管理部に配属され、将来市場として確立できるものを探したのがスタートです。

 この本部では工場や空港のような高機能な建物を造ります。しかし企画提案、設計、施工、竣工しても、終わりではないのです。さらに何年もかけて工場や空港などが確実に機能しているのかを確認するまで、担当者がフォローし続けます。

 これを従来のサービスでやってきたのですが、当時の上司から竣工後のあれこれを「お客さんからしっかりお金をもらえるようにしていこう」と言われたのがきっかけでした。

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竣工後のビジネス展開。竣工後、サービスの提供・データ取得で、顧客を囲い込み、本業へつなぐ役割を担う

 しばらくその課題を抱えたままでしたが、休暇のときにルフトハンザの機内誌で見かけたIndustries 4.0の特集記事を見て驚いたのです。これまで私が建設にたずさわってきた世界最先端の自動化工場においても、Industries 4.0のように作り方やシステムから変えられてしまうと、日本は太刀打ちできないのではないか?

 それが2014年ぐらいの話で、そこからデジタル技術をどう使えるのか、こんなことができないか……と色々勉強し始めて、2016年ごろからデジタル技術に興味のある人を社内で募り始めました。あの部署にデジタルを使おうとしている人がいるとか、社長室の人はきっと興味があるはず、というように、志を持つ者を集めて「大成建設をこういう風にできたら良いですね」という話を雑談ベースで進めていました。この考えは、のちの中期経営計画(2021-2023)の重要な課題として取り上げられました。

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大成建設 ソリューション営業本部
AI・IoTビジネス推進部長
上田俊彦氏

──当初は有志活動だったのですね。正式な業務に変わったのはいつ頃ですか?

上田氏:2018年4月に社内会議で将来のDX構想を発表する機会があったのですが、そこで「AIやIoTなどのデジタル技術で会社を変えていこう」というテーマを入れたらどうかと勧められ、話をしたところ「すぐにやれ!」ということになりました。7月には副社長を委員長とし役員で構成される『AI・IoTビジネス推進委員会』と言う、正式な業務委員会を立ち上げることができました。

 その後、2019年7月にソリューション営業本部内に、AI・IoTのビジネス展開の推進部門として、AI・IoTビジネス推進部が正式部署として設置されたのです。2020年には『生産プロセス』『経営基盤』『サービスソリューション』の3つのDXを進めるDX業務委員会が設置され、さらなるDXの強化が図られることになりました。そのころ末田さんが技術センターでサイバーフィジカルシステム(CPS)を建設業でどう使うか、といったことを考えており、私が直接電話してメンバーに入ってもらったのです。

末田隆敏氏(以下、末田氏):そうですね。AI・IoTビジネス推進部が新組織として立ち上がり、正式に合流しました。

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大成建設 ソリューション営業本部
AI・IoTビジネス推進部
プラットフォームデザイン室長
末田隆敏氏

「LifeCycleOS」活用で建物の「かかりつけ医(主治医)」に

──本題になりますが、貴社が開発した「LifeCycleOS」とはどんなものなのですか?

上田氏:60年~70年の長期間にわたる建物のライフサイクルの中で、デジタル技術でファシリティの管理と運用を行うプラットフォームとなる建物OS「LifeCycleOS」をマイクロソフトと開発しました。

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デジタルファシリティマネジメントを精緻に行うため、建物インフラ/空間/利用者の3層に分けて把握・管理する。そのコアとして建物OSの「LifeCycleOS」がある

 建物の機能を生かし、維持管理しながらデジタルデータをクラウドに取集します。先ほどお話したように、竣工以降も当社のビジネス領域として建物のライフサイクルにデジタル技術を活用することで、AI・シミュレーションを活用したファシリティの最適制御や、BIMによるデジタルツイン・メタバース構築などの新ビジネスを創造できる基盤にしたわけです。

──そこからライフサイクル管理サービス「LCMC」(LifeCycle Management Console)へ展開していくのですね。

上田氏:LCOSは、スマートフォンやタブレットだけで、設備や清掃の点検、インシデント管理、空調などの建物・設備などの管理を簡単に行えるコンソールです。これによりビル全体の経営をデジタル技術で行う「デジタルファシリティマネジメント」(DFM)を提供しようとしています。

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DFM(デジタルファシリティーマネジメント)の概要。建物に設置した各種センサーや機器、中央監視サーバのデータ、LCOSからのBMデータなどからデジタルツインを構築。遠隔監視などでFMを効率化する

 一般にビル管理業務では、日常点検、法定点検や清掃、警備などが人を中心に行われており、属人的で生産性が高いとは言えません。そこで、LifeCycleOSのようなデジタルプラットフォームを使うことで、デジタルを活用した生産性の向上や情報の一元管理による品質向上を狙ったのです。

──LifeCycleOSやLCMCは建物のオーナーに、どんなメリットがあるのでしょうか?

上田氏:建物の管理業務はたくさんの人や専門企業がかかわります。エレベーターや空調機器などの点検・調整は専門のメンテナンス企業が、日常の施設の点検や清掃・警備は維持管理の専門企業が行うなど、建物オーナーにとっては煩雑な調整や業務依頼が発生します。そこで、大成建設ではファシリティーマネジメント全般をデジタル技術で効率化してワンストップでお受けすることにより、質の高い建物の維持管理を提供するばかりでなく、建物の価値向上や長寿命化など、オーナーメリットを提供していきたいと考えています。

 建物の設計、施工を行っている大成建設だからこそ提供できる価値は多いと考えます。建物のリニューアルや機能向上などの履歴や図面の管理、長期修繕計画の立案やこれに基づく修繕管理、デジタルやデータを活用した予兆管理など、オーナーのニーズに沿ったサービスの拡大を考えています。

──逆に大成建設ではどういう部分にビジネスチャンスがあるとお考えでしょうか?

上田氏:DFMを行うことで、建物の「かかりつけ医」として寄り添い信頼されることにチャンスを見いだしています。しっかり信頼されたら、その建物をリニューアルするときや、次にオーナーが何か建てるときに、大成建設に任していただけます。また、DFMがもたらす建物運用や管理のデジタルデータで新事業の取り組みができるかもしれません。まだあくまで夢想段階ですが、可能性はあると思っています。どういうデータがどのように集まってくるのかは、始めたばかりで分かりませんが、ビルを取り巻くデータをより効率的に活用したビジネスを、誰かと組んで行うことも将来的に視野に入れています。

──もう少しだけ、何か具体的な事例があれば教えてください。

末田氏:たとえばプラットフォームビジネスという形態があります。携帯キャリアでは、モバイル基地局のデータを売っていますよね。我々の場合、プラットフォームからさまざまな建物の設備データが集まります。どれくらいの頻度で設備の交換が必要になるかといったデータは、予兆保全としてメーカーに提案すれば、ビジネスとして成立するかもしれません。あるいは最近、維持管理の人材が高齢化で集まらないという話があります。それも我々が場を提供することで、マッチングビジネスができるかもしれません。 【次ページ】オーナーは人件費を削減できるかもしれない
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