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- 2025/01/30 掲載
なぜ建設業は賃金が超安いのか? 全産業比「15%安」で深刻化「業界離れ」の打開策
連載:現場の声から読み解く建築業界のリアル
【徹底解説】お金が行き渡らない特大理由「重層下請け構造」
当たり前のお話になりますが、元請け業者が適切な金額で仕事を請け負って、下請け業者に適切な報酬を支払い、その下請け業者が従業員に対して適切な賃金を支払えば、何も問題は発生しません。しかし、この当たり前のことが行われていないのが実態です。ではなぜ、下請け業者の従業員にまで適切な賃金が行き渡らない構図になるのでしょうか。これには、いくつかの理由が考えられます。
大きな理由の1つに「重層下請け構造」が挙げられます。建設業界では、元請け業者が仕事を受けた後に、工事の一部を多くの下請け業者に外注する風潮があります。そして下請け業者も、さらにその下請け業者に対して外注を行うことから、数次の下請け業者ができることになります。
こうなると、元請け業者から下請け業者へ、下請け業者からさらにその下請け業者へと報酬が支払われることになります。各々が適切な金額で工事を受注できていれば良いのですが、これがうまく機能していないというのが実情です。
この重層下請け構造が起こる理由は、建設業特有の事情によります。建設業は、天候や受注状況(工期や数)に大きく左右される業種ですので、毎月の売上の変動が激しいことから、固定費である人件費を過度に負担しないように、外注に頼る必要があるのです。
さらに詳しく説明しましょう。まず元請け業者に依頼する発注者の立場で考えると、同じものができるのであれば(実際には、施工能力は企業ごとに大きく異なるため、同じものを発注しても同じものができる、というわけではありません)、安く施工してくれる企業に発注したいと思います。ここで、すでに適正な金額で工事を受注できているのか、という問題が生じます。
そして、元請け業者が適切な金額で工事を受注できていなければ、そのツケは当然、下請け業者にも波及します。私は、社会保険労務士・行政書士として色々な企業のお金周りを見ておりますが、やはり企業ごとで、従業員に支払う賃金にかなりの格差があるように感じます。
これには、工事を受注する際の見積もりとして、労務費の内容を適切に理解していないケースが考えられます。当然、労務費には、単純に従業員の給与だけではなく、社会保険や労働保険等も加味する必要があります。たとえば、社会保険は労使折半となっていることから、給与以外で企業からも出ていく出費があるわけです。ですので、これを理解せずに労務費を計算した上で、工事を受注してしまうと、とんでもないことになるのは言うまでもありません。
賃金が低い「建設業特有の理由」
また、下請け業者に適切な料金が支払われないほかの理由として、建設工事自体が1点物になることが挙げられます。1点物のため、建設業者は次々と別の工事を受注しなければなりません。各工事で施工内容が変わるので、もちろん工事ごとの見積もりが必要です。特に材料費等の変動が激しくなると、もともと出していた見積もりでは、適正な料金を収受できなくなるケースも考えられます。また日給月給という給与形態も原因として考えられます。よく建設業では、日給月給という言葉が使用されますが、多くは「1カ月のうちに働いた日数分(日数×1日の単価)の給与をまとめて月給として支払う」の意味で使われます(厳密に言うと日給月給ではないのですが)。
この考え方ですと、たとえば雨天休工などがあった際、企業側の都合であったとしても、従業員にお金が支払われないケースはよくあるのです。そうなりますと、休工が多い月とそうでない月の1カ月当たりのもらえる給与は大きく異なってしまいます。
こうした実態を受け、業界全体で魅力的な職場づくりに取り組むため、建設業法の改正をはじめとした各種施策が進められています。では具体的にどのような取り組みがあるでしょうか。 【次ページ】賃金は「建設業法の改正」でどう変わる?
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