- 2006/05/09 掲載
【連載】ITと企業戦略の関係を考える[第2回/全5回](2/3)
ITはコモディティ化しているのか?

ITは基盤的技術なのか
カーは、ITも基盤的技術であると主張している。しかし、ITを鉄道や電力と同じように考えてもよいのだろうか。ITは、鉄道や電力と比べてはるかに複雑で発展性も高い。この点は、ジョン・シーリー・ブラウンやジョン・ヘーゲル 3世などの専門家も指摘している。
鉄道や電力の分野でも技術進歩がまったく止まってしまったわけではないが、その技術が世に生まれた頃から比べれば、ほとんど止まっているに等しい。しかしIT分野においては、現在も技術革新が続いている。その進歩が続く限りITは誰もが共通的に使う技術ではない。常に、先進的なITを利用するイノベーターが存在する。これはITが基盤的でないということを意味しているのではないだろうか。
しかし、カーは、ITが鉄道や電力などの基盤的技術より複雑で発展性が高いことを認めつつも、以下の3つの理由を挙げて、基盤的技術であると主張する。
まず第1に、鉄道が人や物を運び、電力網が電気を送るのと同じように、ITはデジタル化された情報を運ぶ。言い換えれば、ITも鉄道や電力のようにネットワーク化されるものである。ネットワーク化されるものに関する技術は、必然的に相互接続性と相互操作性を高めながら発展していくことになる。具体的に言えば、コンピュータは単独で利用される時代からLANに接続される時代を経て、現在は地球を包み込むインターネットに接続して利用する時代になっている。ネットワーク化の進展は技術の標準化をもたらす。最近は機能の均一化という現象まで引き起こしている。
第2に、ITはきわめて模倣が容易である。特にITの機能の多様性を実現しているソフトウェアはデジタル化されたデータであり、ほとんど費用をかけずに際限なく完全なコピーをつくることが可能である。ワープロや表計算のソフトウェアを独自開発する企業がないのと同じように、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)やCRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)の機能を備えたアプリケーションも安価に入手できるようになっている。仮に新しい機能を備えた革新的なソフトウェアが開発されても、その機能あるいはソフトウェアは短時間でコピーされる運命にある。
第3に、ITの利用方法も標準化されつつある。ビジネス活動で利用されるソフトウェアが独自開発のものから汎用品に置き換わることは、企業のビジネスの仕組みやプロセスまでもが均一化することを意味する。なぜなら、汎用的なアプリケーション・ソフトウェアを購入するということは、汎用的なプロセスを購入することでもあるからである。
カーは、ITがこれからも進歩、発展することを否定しているわけではない。しかし、ビジネスにおけるその利用の現状を見れば、すでにITは広く社会で共有される技術になっているとカーは主張しているのである。
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