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  • 2023/01/18 掲載

起こるべくして起こった?五輪汚職・談合が広告業界ならではの出来事といえるワケ

大関暁夫のビジネス甘辛時評

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日本のビジネス界における2022年最大の事件と言えば、東京五輪に絡んだ疑獄事件でしょう。元電通専務で東京五輪組織員会理事を務めていた高橋治之元理事を巡る贈収賄事件は、AOKIホールディング、KADKAWA、ADKなどから次々と逮捕者を出し、高橋元理事は計5ルートから総額2億円もの賄賂を受け取っていたとされ、4度にわたって起訴。先月末に8,000万円もの保釈金を支払い保釈されましたが、引き続き事件の真相究明が待たれます。今回は、このような汚職・談合事件が起きた背景について考えてみたいと思います。
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高橋元理事が関与したとされる汚職事件を業界構造から考える
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

個人の問題とは言えない五輪疑獄

 今回の汚職事件だけでも、コロナ禍で開催延期という苦難を経てなんとか成功裏に終えた東京五輪の名誉に泥を塗りかねない一大不祥事と言えます。しかし、問題はさらに深刻なものと捉えることもできるでしょう。なぜなら、東京五輪開催を巡ってはその運営において、高橋元理事の出身母体である電通を中心とした業界内での談合疑惑も浮上しているからです。

 現在、東京地検および公正取引委員会の捜索が進められており、この件においても逮捕者を出すなどして起訴処分となるなら、日本の広告代理店業界が五輪の精神であるフェアなスポーツマンシップにもとる存在として、世界的な大恥をさらすことになってしまう懸念があります。

 さて、こうした企業がらみの不祥事ですが、その原因によって、問題を起こした個人の資質に起因するもの、その属している企業の風土に起因するもの、業界の文化に起因するもの、に分類できると言えます。

 個人に起因するものは、たとえば銀行のシステムを悪用した横領事件などが挙げられます。組織の風土に起因するものは、本連載の前回の記事で取り上げた三菱電機や日野自動車をはじめとした検査不正などの類いがこれに当たります。業界の文化に起因するものとしては、かつて問題となった建設業界や印刷業界での談合事件などが該当するでしょう。

 今回の不祥事は、一見すると高橋元理事個人の資質に起因すると見られるかもしれませんが、電通でエース広告マンとして君臨し専務にまで上り詰めた経歴と影響力を考えれば、単純に個人的な問題で片づけられるものでもなさそうです。

 先にも記したとおり、一連の不祥事では開催前テストマッチを巡る電通を中心とした広告代理店の業界談合にも捜査の手が及んでおり、不祥事は組織風土とその業界の文化が根底にあり、個人の問題で片づけられるものではないと言えるでしょう。

「王様」ペレ来日を実現させた実力者

 高橋元理事の事件に関しては、電通や業界の文化を感じさせる報道があります。「高橋元理事が電通幹部らを呼び出し、贈賄側の大広執行役員・谷口義一元理事を同席させた上で、語学サービス企業とのスポンサー契約業務について『大広仕切りでやる』と指示」(2022年9月29日読売新聞)、「高橋元理事が大会スポンサー募集業務を一手に担った電通に対し、贈賄側のADKを募集業務に参入させるよう指示し、ADKは販売協力代理店に選ばれ駐車場運営会社を担当した」(2022年10月21日読売新聞)。この辺りから、業界最大手電通仕切りによる業界談合の図式があったのではないかとの考えが浮かび上がります。

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東京五輪組織員会の専任代理店を務めた電通
(写真:西村尚己/アフロ)

 高橋元理事は1967年電通に入社し、1977年サッカーブラジル代表で「王様」と呼ばれたペレの引退試合の日本での開催を誘致したことから、急激にスポーツ界でその存在感を増したとされています。

 その後、五輪、サッカーワールドカップ、国際陸上など、スポーツの商業化の波に乗って電通の中核スタッフとして活動しつつ、業務を通じて国内外におけるスポーツビジネス関連の人脈を構築し、Jリーグ創設やワールドカップ日韓大会の開催などにも深く関与。社内での地位を高めつつ、国内ではスポーツイベント誘致・開催における影の第一人者としてのポジションを固めていった、と言われています

 そんな高橋元理事の五輪組織委員就任は、電通が組織委員会より東京オリンピック・パラリンピックマーケティング専任代理店に指名されたのと同じ2014年です。高橋元理事の組織委員就任と電通の専任代理店指名とはあたかもセットで考えられていたようにも見え、さらに言えば今回の汚職の構図から見て高橋元理事の組織委員就任がまずあって、電通の専任代理店指名が就任に欠かせないという話までされていたのでは、とさえ疑いたくなります。

 2014年1月に発足した組織委員会は、同4月にスポンサー集めの専任代理店に電通を指名。スポンサーを目指す企業は電通を契約窓口にするのが原則となって、他の代理店が参入しにくい仕組みを構築しました。その上で、電通や組織委員会が必要と認めた場合には、他の広告代理店も販売協力代理店としてスポンサーの窓口になれるという例外ルールを設け、電通を五輪スポンサービジネスの扇の要に置いて利益を分け合うという、業界談合を誘発しやすい構図ができてしまいました。

 たとえば、ADKは会場周辺の駐車場関係スポンサーの取りまとめを電通から任され、業界No.2企業博報堂の子会社である大広は、語学教室運営会社のスポンサー契約取りまとめを任されていました。

 高橋元理事は片手でAOKIやKADOKAWAといった企業を一本釣りしては電通を介して五輪スポンサーに仕立て上げ、もう一方の手では同業の広告代理店に個別の業界を任せ電通の配下に付けるという手口で恩を売り、企業と同業者の両方から違法で莫大(ばくだい)なリベートを自身の関連企業で吸い上げていたと疑われているわけです。

【次ページ】不祥事の構図は業界体質そのもの?
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