• 2005/10/04 掲載

【中堅中小IT化】攻撃型の多品種受注。生産モデルをITで実現

中堅中小企業 IT戦略の成功事例~業種は違えど、ヒントを得られる~

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自動車、家電、医療器具、観測機器など、あらゆる分野で重要な役割を果たしているのがバネである。東海バネ工業は、70年以上も前から、高品質のバネを受注生産で作り続けてきた。中小企業のIT化が声高に叫ばれる遙か以前、25年前には注文から生産管理、出荷までを管理するシステムをすでに完成している。その同社が、ITによって再び生まれ変わろうとしているのだ。


渡辺良機氏
Yoshiki Watanabe
東海バネ工業株式会社
代表取締役社長



25年前に、オフコンによる
生産管理システムを完成


 バネがどのように作られているかと尋ねられれば、多くの人は自動化された工場で大量生産されていると想像するのではないか。しかし、東海バネ工業は、70年前から多品種受注生産にこだわり続けてきた。現在も、5個以下の製品を年間3万件も受注し生産している。創業者である先代社長は、「価格競争はしない。言い値で買っていただける製品に特化する」をモットーとしていた。
 このビジネスモデルを実現するのは並大抵ではない。注文の多くは技術的な難度が高い。そして、突発的な需要に対応するための材料確保、問い合わせに対応する人員も必要だ。かつては、製作状況を尋ねる電話に対応するため、生産管理の担当者が工場中を駆け回らなくてはならなかった。
 これでは、あまりにも人件費がかかりすぎてしまう。そこで、25年前に、注文から出荷までを通して管理できるシステムを導入した。4度のバージョンアップを重ねたシステムは、現在でもまったく古びていない。

 注文を入力すれば、製造工程が自動的に設定され、作業計画書が作られる。製造部門では、ある工程が完了するとバーコードで入力するようになっており、どの商品がどの工程にあるのかも一目でわかる。
同社が受ける注文の特徴は、「前回品」が多い点にある。「3年前に1度作ってもらったあのバネをもう1個」というように、以前と同じ注文が8割を占めるという。そこで同社のシステムでは、顧客の注文内容を細かな内容まで蓄積し、一度受けた注文はすばやく生産できる態勢を確立した。

「入社して1週間の新入社員でも、お客様に適切な応対ができます。何年も前に作られのと同じ製品をきっちり納期にお届けすると、お客様からわざわざお礼の電話をいただくこともあります。こんな商売はなかなかあるものではありませんね。コンピュータシステムには莫大な投資をしてきましたが、あまり計算的な投資とはいえず、顧客満足度の向上だけを考えてきました。」(代表取締役社長 渡辺良機氏)
25年前には、同社と同じように受注生産のメーカーは多数あったが、今では同社を含めてわずか3、4社になっているという。


東海バネ工業の基幹システム概略図


守りのシステムから、
攻めのシステムへの転換


 早くからコンピュータを導入した東海バネ工業は、大きなアドバンテージを得た。
「何万個という注文ならどこのバネメーカーも手を挙げますが、1個だけの注文を受けられるのはうちくらいのものです。」(渡辺氏)
 完全受注生産のシステムは完成し、業績は順調だった。同社は創業以来一度も赤字決算がないという。
 しかし、渡辺氏は危機感を感じていた。それは、完全受注生産システムはあくまでも「守り」のシステムであるということ。顧客満足度は大きく向上したが、新規顧客からの注文が爆発的に増えるわけではない。ISO9002、9001、最終的には14001まで取得するが、それらが新規顧客の獲得に直接結びつくわけではなかった。
 そんな時、システムベンダーから、大阪産業創造館の西岡IT塾に申し込むことを勧められた。この選考に通ると、情報系・経営系の2人のITコーディネータが派遣されてきた。2002年4月から半年間、2人のITコーディネータは、東海バネ工業の経営をあらゆる側面から分析し、どう改善すべきか渡辺氏に助言した。その内容は、渡辺氏にとって驚くべきものだった。
「在庫は持たない」
「ノウハウは外に出す」

 これまで東海バネ工業は、2つの方針を頑なに守り続けてきた。1つは、豊富な在庫。もう1つは、製造のノウハウを社外に出さないことである。
 前者については、同社で製造している製品は特殊なものが多いから。そして後者は、独自のノウハウこそが命綱と考えていたからだ。
 しかし、2人のITコーディネータは、「材料在庫の削減」「ノウハウの公開」という、まったく逆のことを提言した。
 大量の材料を必要とする同社は、不足を恐れて値切らずに材料を購入していたが、そのためキャッシュフローは良好とはいえなかった。
「材料は全部抱える必要はないのだと。例えば、こういう材料が必要だと世界中に発信することで必要なだけ調達することもできます。要は、鋼材メーカーに対する今までの考え方を転換すればよかったのです。」(渡辺氏)
 3年間で25%の材料在庫を削減する目標を立てていたが、昨年1年だけですでに17%の削減ができたという。


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