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- 2018/10/30 掲載
神戸製鋼が「経理業務の属人化」を終わらせた4つの工夫
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海外子会社の属人化は、経営に大きな危機をもたらす
同社は2016年度からの中期計画において、素材系・機械系・電力事業を3本柱による成長戦略を推進し、盤石な事業体を確立するという新ビジョン「KOBELCO VISION “G+”」に取り組み、国内外グループ全体での成長を目指している。
その一環として、同グループではグループ運営コストの削減を目的に経理・人事・調達など間接業務の効率化および、その実現のためのシステム化を検討した。
まず着手したのは、経理領域における業務の標準化だ。国内拠点を対象として2014年末からドラフトの作成やシステム構築を始め、2015年4月から適用を開始した。米国や中国、タイなど海外子会社も含め、プロジェクトを実施している。
神戸製鋼所ではグループ各社に「グループ経理業務標準セット」を適用し、ルールやツールの統一化・標準化を実現することで、「誤りの発生リスクの低減」や「業務の可視化」を図る方針を決定。経理業務に関するガバナンス強化、決算精度の向上、業務効率化を目的としてプロジェクトを推進している。その中でも特に、ガバナンス強化が最重要項目だという。
プロジェクトを支援した、コベルコシステム システム事業部 SO本部 第1サービス部 本社・技開システム室の坂元 雄紀氏は「属人化している業務があった場合、業務の実態が見えなくなり、個人作業によるミスの発生、不正を誘発することとなる。このようなリスクは、発生するとグループに対する市場の信頼・信任を失うばかりでなく、上場廃止や課徴金などの制裁が課される可能性もあります」と、属人化のリスクを指摘する。
「経理業務標準セット」と、それを支えるクラウドERP
グループ経理業務の標準セットは「会計基準」「業務プロセス」「標準会計システム」の3つで構成される。「会計基準」には、固定資産の償却方法や業務を行う上での必要最低限の統制ポイントなどを定めたグループ標準経理業務方針や、勘定科目定義書、会計処理基準書などが含まれる。「業務プロセス」では、業務フローやスケジュール、基本的なレポーティング内容や業務サイクルなどグループ会社の標準業務を定義している。
この「会計基準」「業務プロセス」標準化を実現するために構築したのが、日本マイクロソフトのクラウドビジネスアプリケーション「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)をベースとする標準会計システムだ。Dynamics 365は、ERP/CRMの機能を包括的に提供するクラウドサービスである。
このDynamics365は主に8つのアプリケーション群で構成され、その中でERP機能を提供するのが「Dynamics 365 for Finance and Operations」だ。Dynamics 365 for Finance and Operationsでは、会計や販売、売掛、購買、生産、在庫、プロジェクト会計などの機能を利用できる。
「Office 365との連携容易性、特にMicrosoft Excelとのシームレスな連携に強みがあります。また、強固なクラウド基盤である『Microsoft Azure』上で稼働しているためAzureの持つさまざまなサービスやツールを利用できることやパートナーソリューションの活用によって、製造業の競争力を強化することが可能です」(斎藤氏)
「標準セット」の3つ目の項目、「標準会計システム」では、各社の事業規模や業務内容に合わせた製品・サービスの導入が推奨される。本社側では大規模企業向けERPを、中規模以上ではDynamics 365を、より小規模な場合はパッケージ製品を適用する3階層の構造で導入を実施した。
パッケージの選定基準として、「導入実績が多い、信頼性の高いシステムであること」「多言語対応しており、全世界で利用可能であること」「IFRSなどの法制度改正に対応できること」などが重視されたという。
標準会計システムの適用対象会社は、国内外を合わせると152社になる。国内拠点を優先として適用を開始し、すでに国内では8割以上のグループ会社で適用されており、海外も含めても全体の半数を超える状況だ。
標準化対応を円滑に進める4つの工夫
坂元氏は、「グローバル規模での業務標準化では、グループ会社や現場の業務担当者の意図しない業務変更に対する反発を受けたり、業務変更・システム変更と運用までに大きな負荷をかけることになるため、ユーザーサポートが重要となります」と標準化にはいくつもの壁があることを語る。この、標準化対応のネックとなる課題を解決するために4つの工夫を取り入れているという。1つ目が「柔軟なシステムスコープへの対応準備」だ。プロジェクトにさきがけて、まず1社1社ヒアリングを行い、基幹業務を体系的に図示する。その上で、標準化の対応スコープは会計領域を必須とし、その他領域はグループ会社各社で決めてもらい、各グループ会社の要望に応じて柔軟に対応できるようにしたのである。
2つ目が「導入プロセスの簡素化」だ。Dynamics 365の標準機能に加えて、コベルコシステムが製造業向けテンプレートとして提供している「HI-KORT」を取り入れた。
HI-KORTは、コベルコの知見を元に業務プロセスをあらかじめ定義したテンプレートだ。坂元氏は「これまでの導入事例を基に定義した業務プロセスにアドオン群を追加して、ドキュメントまで整備しています。すぐにお客さまに使ってもらえるような状態をプリセットして、微調整しながら進めていけるという特徴があります」と説明する。
コベルコシステムでは、神戸製鋼所が標準で定めている業務プロセスや統制ポイントなどで必要となる機能を追加して「神鋼テンプレート」を構築。また、海外グループへの展開時では、神鋼テンプレートをローカライズし、グループ会社の独自アドオン、各国の標準アドオン機能などを追加した。
さらに各社要望のアドオンをテンプレートに拡充するという形で、ほかのグループ会社でも使用できるように精査した。神鋼テンプレートへアドオンを取り込み、それらの内容を含めた共通ドキュメントを作成して整備している。
こうしたテンプレート/ドキュメントを活用することで、現場におけるタスクを削減し、さらに導入プロセスを簡素化して、グループ会社の負荷やシステム切替時のリスクを最小限としたのだ。
3つ目の工夫が「標準化対応のコストダウン」だ。個社単位で発生するプロジェクト作業を削減するなど「導入期間を短縮化」することで、ベンダー対応の初期コストを抑えた。また、セキュリティ対策やパッチ、バージョンアップ対応、他業務の標準化対応などに伴う改善については全社分を一括で対応することで「ランニングコストの圧縮」を図った。
最後に、4つ目の工夫が「スキーム作り」である。有事の際、海外子会社ではオンサイトでフォローしてほしいというニーズがある。そこで、各エリア単位で現地ベンダーとの協業体制を構築し、現地のサポート体制を構築。コベルコシステムと現地ベンダー間でその内容を共有して、同水準の保守サービスの実現を進めている。
グローバル化時代におけるリスク対策の一手を
標準化対応にはステークホルダーが非常に多く、全員にメリットを出すことは難しいため、事前のコンセンサス、協力体制作りが大切だと坂元氏は説く。また、子会社間の不平等が標準化対応では大きな問題となる点を指摘する。グループ会社との費用負担の考え方は事前に整備し、ルールを作り明確化することが必要だという。「グループ展開を進める中で、“標準化して何が変わるのか?”、とよく聞かれます。標準化対応は、短期的な費用対効果を表すことは難しいからです。しかし、中には標準化されることで初めて表面化される課題もあり、その気付きにより将来構想が膨らみ具現化されます。課題がわからない状態では、業務改善のイメージは難しいともいえると思います。しかし、属人化等の先にあげたリスクは確実に存在します。目的を達成するまで揺るがぬ意思で突き進むことが大切だと思います」(坂元氏)
経理業務の標準化は喫緊の“急務”ではないかもしれないが、将来のリスクを確実に抑えられる。国内企業が次々とグローバルに市場を求めていく時代において、それはいずれ競合との大きな差になるかもしれない。
製造業の事業継続とさらなる拡大を支えるパートナーとして、Dynamics 365をぜひ一度検討してみてほしい。
関連ページ: ビジネスの成長を加速させるERP
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