- 2025/03/06 掲載
〔国際女性デー50年〕共働き増でも「内助の功」優遇=女性の低年収、制度が招く―税と社保、抜本改革手付かず
夫は外で働き、妻は家庭を守る―。いわゆる「内助の功」の意識が根強い日本でも、共働きの世帯数が専業主婦世帯の数を逆転して約30年がたつ。それでも、妻が夫の扶養に入る世帯を優遇する税や社会保険の制度が今もなお残り、妻の就業時間調整による収入抑制を招いている。2025年度税制改正の論議では「年収の壁」の見直しが注目を集めたが、女性の働き方を縛る制度の抜本的な改革は手付かずのままだ。
国税庁の民間給与実態統計調査によると、23年の平均年収は男性の569万円に対し、女性は316万円。女性活躍が叫ばれる時代だが、まだ男女間の年収には大きな格差があるのが実態だ。
総務省の22年の就業構造基本調査では、パート・アルバイトの既婚女性で就業時間を調整している約340万人のうち、年収50万~99万円が約169万人、100万~149万円が約142万人と大半を占めた。この層は住民税の課税が始まる100万円や所得税の103万円、150万円などの「壁」を意識し、働く時間を抑えているとみられる。
税だけでなく、社会保険制度も女性の年収を抑えている要因だ。例えば、サラリーマンの扶養に入る配偶者で「第3号被保険者」に該当する人は保険料を払わなくても老後に基礎年金(国民年金)がもらえる。このためパートの主婦は、保険料負担が生じる106万円や130万円に年収が達しないように就業を控える傾向がある。
リクルート(東京)が昨年末行った調査では、パート・アルバイトの既婚女性(25~54歳)の約81%が「きっかけがあれば労働時間を増やす」と回答。このうち、年収が「壁」を超えても税・社会保険の優遇対象でいられるようになれば、それが「きっかけ」になると答えた人は約51%に上った。働く時間の決定に「壁」が一定の影響を及ぼす状況が浮かぶ。「本来ならもっと働いて、活躍してしかるべきものを抑えてしまっている側面はある」と慶応大の山本勲教授(労働経済学)は指摘する。
昨年の政府税制調査会では、配偶者控除などが正社員、パートといった働き方に左右されない「中立的」な制度なのかという視点から見直すべきだという声が複数上がった。日本総合研究所理事長で政府税調の翁百合会長は「性別役割分担意識に基づく昭和型標準家族モデルを前提に各種制度がつくられたままになっている」と説明する。制度が女性活躍の妨げになっていないか、点検すべき時期にきている。
【編集後記】専業主婦家庭で育った私には、忘れられない母の言葉がある。「働く母親だけが偉いかのような風潮が悲しい」。女性の社会進出が進む端境期にあって、専業主婦に対する風当たりの変化に複雑な思いを抱いたのだろう。
現役世代としては、多くの人に関わる税や社会保険制度に性別役割分担意識が影響している現状から目を背けたくない。ゆがみの是正が女性の分断を招くことのないよう、さまざまな境遇の人がいることを前提にした丁寧な見直しが進んでほしい。(時事通信経済部記者・工藤玲)。
【時事通信社】 〔写真説明〕
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