- 2025/03/06 掲載
焦点:セブン、株主還元で株価浮上狙う 本質的な価値向上急がれる局面
[東京 6日 ロイター] - 9年ぶりに社長交代を決めたセブン&アイ・ホールディングスは、カナダの小売大手アリマンタシォン・クシュタールからの買収提案をにらみながら企業価値の浮上を狙い、大規模な株主還元を打ち出した。株価は瞬間的に反応したものの、本質的な価値向上が急がれる局面に入っている。スーパーや百貨店などの整理が一段落し、新たな体制の下でコンビニエンス事業を中心とした再成長に挑むことになる。
2016年からかじ取りをしてきた井阪隆一社長は退任し、22年から社外取締役を務めるスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長が社長に就任する。買収したものの業績が好転しなかったそごう・西武に続き、課題だったイトーヨーカ堂などの統括会社ヨーク・ホールディングスの売却契約が終わったことで、コンビニの成長がそのまま企業価値向上につながる体制がようやく構築できたことになる。
ウォルマート傘下にあった西友の最高経営責任者(CEO)などを歴任したデイカス氏は6日の会見で、米国に日本流の食品を持ち込むこと、デジタルやデリバリーに強みがあることなどを挙げ、「米国はもっと成長の機会がある」と強調した。
調査会社ジャパンコンシューミングの共同創業者マイケル・カウストン氏は、「経験豊富な企業戦略の専門家がCEOの役割を引き継ぐことは理にかなっている」とみる。「グローバルレベルで構造戦略を考えるCEOがいれば、オペレーションが上手くいき、企業の安定性を確保することに役立つ」と語る。
しかし、肝心のコンビニ事業は世界的な物価上昇による消費の低迷で国内外とも減速している。次期社長の口から具体的な反転策は聞こえず、今回発表した北米事業会社の上場とヨーカ堂などの統括会社売却で得る資金は株主還元に充てる。モーニングスターのアジア株式調査部ディレクター、ロレイン・タン氏は、セブンが30年度までに2兆円の自社株買いを実施する方針を決めたことについて、「株価を上げてクシュタールからの買収を防ぐための試みのようにみえる」と指摘する。
国内のコンビニ事業については、市場が飽和する中ですでに成長の余地が限られている。流通アナリストの中井彰人氏は「スーパーマーケットの市場を取りに行くしかない。道はそこしかない」と指摘する。ヨーク・ホールディングスの株式35%をセブンが保有し続けることから、プライベートブランドの開発やスーパーとコンビニを融合した店舗開発の面で協業していくことはできそうだ。中井氏は「北米コンビニを上場の形で一部手放すなら、さらに国内コンビニの成長が必要な局面になってくる」と話す。
コンビニ事業の業績がさえない中でセブンの株価は低迷している。創業家がMBO(経営陣が参加する自社買収)を提案したことが明らかになった昨年11月から12月にかけて2600円台まで上昇したが、2月下旬に同案が頓挫すると急落。3月に入って2000円を割る場面もあった。クシュタールは1株18.19米ドル(約2700円)で買収提案している。
セブンは現時点でクシュタールの提案も検討の俎上から降ろしてはいないが、当初から社内では拒否感が強い。デイカス氏は会見で、「クシュタールが(セブンの)企業価値を高めるかどうか、私にも分からない。建設的、定期的な話を進めているが、特に米国で(独禁法の)規制のハードルは高い」と語った。
株式市場の取引時間中に大規模な自社株買いの報道が出たことで、6日のセブンの株価は前日比6%高で取引を終えた。一部報道でクシュタールの買収提案を拒否すると伝わった4日に株価は急落したことでもわかるように、同社の株価は1株2700円のTOB期待に支えられている部分が大きい。本当の意味で市場からの評価を得るには、結果を出すことが求められる。
(清水律子、Rocky Swift、David Dolan 編集:久保信博)
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