- 2024/10/24 掲載
アングル:最低賃金1500円に広がる戸惑い、各党が公約も具体策なく
[東京 24日 ロイター] - 27日に迫った衆議院選挙で多くの政党が訴える最低賃金1500円への引き上げについて、企業の間に戸惑いが広がっている。これまで物価上昇を上回る賃上げを目指す政府に産業界は足並みを揃えてきたが、2020年代の実現を目指す自民党を含め具体策を示す党はなく、拙速さを批判する声が聞かれる。
最低賃金は毎年10月に改定されており、今年の引き上げ幅は全国平均で過去最大の51円。商品の値上げが相次ぐ中、経済の好循環を目指した岸田文雄政権(当時)の下で今夏に平均時給1055円とすることが決まった。
今年の上げ幅に対しても企業、特に中小の事業者からは厳しさを訴える声が出ていたが、今月1日に就任した石破茂首相が20年代に1500円を目指すと初会見で明らかにすると波紋が広がった。これまで政府が目指していた30年代半ばから、達成時期が前倒しされた。
日本商工会議所の小林健会頭は3日の会見で、「中小企業は払えなくて人(従業員)を手放してしまう。人を手放すとオペレートができないので事業をたたむ、あるいは倒産することが起きかねない」と語り、中小企業の窮状を訴えた。
日本の雇用の7割を占める中小企業の多くは賃上げですでに人件費の負担が増し、光熱費なども上昇、コロナ禍で一時的に手厚くなった公的支援もなくなり倒産件数が高水準で推移している。「今の最低賃金1000円でも厳しいのに、1500円になったら我々のような中小にはさらに厳しい状況になる」と、神奈川県内にあるスーパーマーケットチェーン、ビッグヨーサンで働く男性は話す。
石破首相が掲げた最低賃金1500円への引き上げは、達成時期に違いはあるものの、27日に投開票を迎える衆院選で連立与党の公明党、最大野党の立憲民主党など多くの党が公約に取り入れた。しかし、さらなる負担をどう政府が支援するのか、中小による価格転嫁をどのように実現するかなど詳細は示されておらず、どの党が政権を取っても課題は多い。
日本経済団体連合会の十倉雅和会長は22日の会見で、「2020年代に達成しようと思えば、毎年7.3%、3年間での達成であれば毎年12%程度の引き上げが必要になる。できるだけ上げていこうという取り組みは大事だが、あまり乱暴な議論はすべきでない」と語った。
とはいえ、国際的な比較で見ると日本の最低賃金は主要7カ国(G7)を大きく下回っている。9月現在で米国は2400円(ワシントン州)、オーストラリアは2395円、英国は2214円。日本の1055円は韓国の1108円よりも低い。
日本の最低賃金はあくまで全国の平均値で、47都道府県の中で最低額の秋田県は951円にとどまっている。最高額1163円の東京都など大都市と地方の格差は拡大傾向にある。
労働者側は各党の公約よりも早期の引き上げを求めている。全国労働組合総連合はただちに一律1500円とすることを求め、いずれは1700円への引き上げを主張している。
2000年代の最低賃金の引き上げ額を見ると、年によってゼロ円や1円など10円以下という年が複数回あった。当時は最低賃金が700円超かそれ以下で推移しており、長く続くデフレの要因だった。「まさか1000円を超えて1500円を目指す時が来るなんて思いもしなかった」と、労組の関係者は言う。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は18日の会見で、「最低賃金が今後上がっていくという予見の中で経営ができない企業は退出する。それを払える企業に人が移るほうが、人びとの生活は向上する」と話し、最低賃金1500円の引き上げ方針を支持する考えを示した。
野村総研の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、20年代に1500円を達成するのはペースが速いと指摘する。一方で、「日本の最低賃金は他国と比べると非常に低く、格差縮小の観点からも引き上げていくべきだという議論の余地がある」と述べ、政府が中小企業の生産性向上を支援する必要があると話す。
(梶本哲史 編集:久保信博)
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