- 2024/09/29 掲載
アングル:AIで急増する米国の電力需要、原発活用の高い壁
[ニューヨーク/ワシントン 24日 ロイター] - 米コンステレーション・エナジーと米マイクロソフトは米東部ペンシルベニア州のスリーマイル島原子力発電所の再稼働を計画しており、急拡大する人工知能(AI)用データセンター向けに十分で、気候変動問題にも配慮した電力の供給を期待している。
直近となる2022年終盤の米エネルギー情報局(EIA)のデータの分析によると、2020年代の終わりまでに米国の発電能力は約2.4―2.7%増える可能性がある。データセンターの電気使用量は30年までに現在の2倍を超え、国内電気消費量の約9%になると予想されている。
IT企業は生成AIに必要となるデータセンターのエネルギー需要の急増に対応しようと躍起になっている。
しかし、原発の利用には規制のハードルが存在するほか、サプライチェーン(供給網)の制約に直面する可能性があり、時には地元から反対されたり、貯水池への悪影響を懸念する水道当局に精査されたりすることもある。
スリーマイル島原発を巡っては、1979年3月に起きた2号機の炉心溶融(メルトダウン)が世界を騒然とさせた。再稼働するのは、2019年の閉鎖まで数十年間にわたって安全に運転していた1号機。マイクロソフトのデータセンターの電力消費を賄うために約16億ドルを投じ、28年までに1号機を再稼働させる計画だ。
今年3月には米タレン・エナジーが、ペンシルベニア州の別の場所にあるタレンのデータセンターを米アマゾン・ドット・コムに売却することで合意した。データセンターの隣にはタレンの原発がある。
電力業界筋によると、原発のデータセンター向け電力供給契約はさらに増えているが、IT企業と原発の契約は独特で課題を伴う。
米保険ブローカーのマーシュのグローバル原子力エネルギー部門のリーダー、ケイト・ファウラー氏はスリーマイル島の再稼働について「このようなことは誰もしたことがない。課題は山積みだ」と指摘した。
ファウラー氏は、スリーマイル島原発1号機が19年に停止した以降にサプライチェーンの制約が生じていると話す。一例として挙げられるのが、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁で米政府はロシア産濃縮ウランに規制をかけた事態だ。米原子力規制委員会(NRC)による認可や、1979年のメルトダウンを記憶している地元の反対派との交渉も難しい道のりとなる。
原子力技術者であり、エネルギーリスクのコンサルティング会社ピッツバーグ・テクニカル社長のソラ・タラビ氏は「NRCは現在、本当にいっぱいいっぱいだ」と語った。NRCの認可プロセスを合理化する法案にバイデン米大統領が最近署名したとはいえ、企業が示すスケジュール通りに新規プロジェクトの数々を審査することはNRCの人的・技術的リソースにしわ寄せを与えるとタラビ氏は言及した。
コンステレーションがNRCに認可を求めるスリーマイル島原発1号機の再稼働は、意見募集期間がスケジュールを長引かせる可能性がある。また、スリーマイル島原発を地域の送電網と再接続するために何年もの時間がかかってもおかしくない。
<他の問題>
リスクとエネルギーの専門家は、完全に停止した原発を再稼働させるために規制当局はより長い審査プロセスをたどる可能性があるとの見解を示した。
タレン原発は稼動しているものの、アマゾンのデータセンターに対しては送電コストの増加をもたらし、電気代が上がる恐れがあると予測する規制対象の電力会社2社からの反発に直面している。ただタレン側は、データセンターは米南部ニューメキシコ州の全家庭の消費電力に匹敵するだけの電力を消費する可能性があり、一般市民が電力料金の値上がりや信頼性の問題にさらされるとの見方に反論している。
「憂慮する科学者同盟」の原子力安全専門家、エドウィン・ライマン氏は、5年間稼働が止まっていたスリーマイル島原発の設備やインフラの使用を再開するのは難しいかもしれないとして「コンステレーションは、修理のために費用と時間がかかる問題が生じることを予期しておくべきだ」と述べた。
サスケハナ川流域委員会の広報担当者、ステイシー・ハンラハン氏は「どのような変更要求も徹底的に検証され、プロジェクトの予想される水需要については持続可能性と、環境や他の利用者への潜在的な悪影響について評価されることになる」と言及した。
タラビ氏は、コンステレーションがスリーマイル島原発の技術的課題に対処するためには4年間あれば十分だとみる。
同氏は特に1979年のメルトダウンを踏まえ、原発周辺での環境と地域社会に対する懸念に対処することが重要性だとして「おそらくこの国のどこよりも再稼働に不可欠となるのが、社会的に受け入れられることを確実にするための地域社会の関与だ」と強調した。
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