- 2024/09/27 掲載
アングル:米債券市場、大幅利下げでインフレへの不安再燃
[ニューヨーク 25日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が緩和サイクルを大幅な利下げでスタートしたため、債券市場ではインフレへの不安が再燃している。
物価見通しに最も敏感な長期国債の利回りは9月初め以来の水準まで上昇。一部の投資家が懸念するのは、FRBが政策運営の軸足をインフレ抑制から最大雇用実現に転換し、金融環境が緩むことで、物価圧力がまた高まる事態だ。
ステート・ストリート・グローバル・マーケッツのマクロ・マルチ資産ストラテジスト、カイラ・シーダー氏は「利下げ局面に入り、労働市場が弱くなる前に支援の手を伸ばしたいとFRBが発信している環境ならば、物価上昇率がどれほど素早くFRBの目標に収まることができるか疑問があると思う」と述べた。
シーダー氏は、市場がより強い経済成長と物価上昇を見込む中で、長期国債利回りはさらに上振れると予想している。
FRBのパウエル議長は先週、50ベーシスポイント(bp)の利下げは、物価上昇率が2%の目標に向かって持続的に接近する一方、労働市場がしっかりしている現状を維持するための政策金利の「再調整」だと説明した。
実際FRBが経済の底堅さを強調するので、今後の利下げ経路はゆっくりで、一本調子にはならないとの観測が広がっている。連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが想定している利下げペースも、市場の織り込みより緩やかだ。
それでも物価連動国債(TIPS)を尺度とする向こう10年の市場の予想物価は、18日の大幅利下げ発表後に高まった。期間10年のブレークイーブン・インフレ率は19日が2.16%と8月初め以来の水準に上昇し、23日にはさらに2.167%まで加速した。
19日の10年TIPS入札では、投資家の旺盛な需要も確認された。
BMOキャピタル・マーケッツの金利ストラテジストチームは先週「投資家が再びリフレーションの亡霊を気にしている」と記した。ラッファーのファンドマネジャーを務めるマット・スミス氏は、最近になって運用資産にインフレヘッジを加えたと明かす。
多くの市場参加者の記憶に新しいのは、昨年12月にFRBがハト派転換した後、数カ月にわたって物価と雇用が予想外に上振れて債券売りが広がった展開だ。
ゴールドマン・サックスの算出する米金融環境指数は今年、金利水準が20年余りぶりの高さにあるにもかかわらず、緩和度が高まり続けており、19日には2022年5月以来の緩和的な状況になった。
インサイト・インベストメントで北米債券責任者を務めるブレンダン・マーフィー氏は「インフレは引き続き相対的に落ち着いて推移すると思う。しかしFRBの利下げが前のめりになるほど、そうした見方への疑念は深まらざるを得なくなる」と指摘した。
<FRBプットは早過ぎか>
米消費者物価指数(CPI)は過去2年で急速に鈍化している。22年6月に9.1%と40年来の高い伸びだった前年比上昇率は今年8月に2.5%まで落ち着いた。
FRBのウォラー理事は先週、足元のデータを踏まえるとFRBはより速いペースの利下げが必要だと確信したと発言し、その理由としてこのままでは物価上昇率が目標の2%を下回る恐れがある点を挙げた。
ただ同じ情報に基づいていてもFRBのボウマン理事は、大幅利下げはインフレに対する「拙速な勝利宣言」と受け取られかねないとの心配を表明。先週のFOMCでは50bpの利下げに反対し、25bp幅を主張していた。
この先物価上昇率の減速が続くようなら、最近不安定化している債券市場の先行きも明るさを保つ公算は大きい。
しかしまだ物価上昇率が目標の2%より高く、最近のデータで物価圧力のしつこさが示されている以上、大幅利下げは時期尚早ではないかとの見方はくすぶったままだ。
FRBが金融市場を支えて投資家の損失を限定してくれる動きは「FRBプット」と呼ばれるが、BofA証券のエコノミストチームは先週のノートで、経済の底堅さと株価が最高値圏にある点を考えれば「パウエル・プット」は早過ぎたと分析。「より積極的な緩和サイクルは2%の物価上昇率目標達成を難しくする恐れがある」と述べた。
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