- 2024/09/13 掲載
アングル:中長期海外勢の売り越し拡大、ドル145円割れがトリガー
[東京 13日 ロイター] - 海外の中長期投資家による日本株売りが続いている。9月第1週には売り越し額が拡大、ドルが国内企業の多くが今期の想定とする145円付近を下回ったことで、売りが強まったとの警戒感が浮上している。基調的な円高が落ち着くまでは海外勢から腰の入った買いは入りにくく、指数の上昇力が削がれる可能性がある。
9月第1週(9月2日─9月6日)の海外投資家による日本の現物株の売り越し額は8235億円で、3週連続の売り越しとなった。8月第3週の3900億円、第4週の2300億円から急拡大し、現物の売り越し規模は今年最大となった。
売買主体としては、短期筋中心の先物に対し、現物は中長期投資家が中心とみられている。日本株は海外短期筋の売買で振らされる局面はあっても、中長期投資家の買いが支えになるとの受け止めが多かった。年初からの累計額をみると、7月第2週までの現物の買い越しは4.6兆円と高水準だった。
ところが、日経平均が高値をとり、ドル/円が161円台に上昇した7月の半ば以降、この動きが変調をきたしている。7月第3週から第5週の3週間では一転、海外勢は現物で計1.3兆円を売り越した。
この間には、日銀が追加利上げを決め、米連邦公開市場委員会(FOMC)では早期の利下げ開始が示唆された。「日米金融政策の方向性の違いから円の先高観が強まり、基調の変化を海外の中長期投資家も嫌気し始めたようだ」と、フィリップ証券の増沢丈彦・株式部トレーディング・ヘッドはみている。
8月第1週から第2週は、株価の急落局面を捉えた「バーゲンハント」が観測され、一時的に買い越しに転じたが、それが一巡すると再び、売り越しの週が続いた。いったん買いで流入した中長期の資金は、短期間では流出しないのが一般的で、買いが手控えられているに過ぎないとの見方も多かったが、9月第1週には大幅売り越しとなった。
売りの規模が急速に膨らんだことについてフィリップ証券の増沢氏は「中長期投資家が買い控えにとどまらず、売りに回ったためではないか」と指摘する。
<ドル/円の「節目」割れを嫌気>
市場では、海外勢の現物売りが強まった背景として、ドルが145円を下回ったことがトリガーの一つとの見方は多い。「145円を下回ると、為替による企業業績の上振れ期待が後退しやすい」と、みずほ証券の三浦豊シニアテクニカルアナリストは指摘する。
日銀の6月短観によると、事業計画の前提となる想定為替レート(全規模・全産業)は2024年度通期で1ドル=144.77円と、3月調査の141.42円から3円超、円安方向に振れた。トヨタ自動車の通期の前提レートは145円だ。
米国の利下げ開始が見込まれる上、大統領選が不透明な中でドルが145円を割り込んだ水準で滞留しており「リスクを取りたくない海外投資家は多い」とUBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの小林千紗日本株ストラテジストは話す。
ドル/円は7月半ばの160円付近から、上値を切り下げながら下落してきた。とりわけ9月入り後は、145円以下の水準での滞留時間が長びいている。さらに円高が進んで140円を割り込むような場合、「戻りが鈍ければ、為替による業績押上げ期待は?落しかねない」(みずほ証券の三浦氏)という。130円に接近するようなら、業績予想の下方修正への警戒感も生じ得るという。
足元の株価は為替の動向に過敏に反応している。「今年前半の株高の起点が円安だったことから、為替が株価に影響するという強い印象を投資家に植えつけてしまった」と、りそなアセットマネジメントの戸田浩司ファンドマネージャーは話す。
もっとも、「海外勢に必ずしもネガティブと捉えられているかは一概には言えない」とUBS SuMi TRUST WMの小林氏は話す。円高で日本株の先行きに失望する投資家がいる一方、デフレ脱却という30年来の変化を見据えてチャンスをうかがう投資家もいるという。
機関投資家が保有する株式のポートフォリオに占める比率が、円高で押し上げられたことによる機械的なリバランス売りが膨らんだにすぎないとの見方もある。年金基金などは、株式や債券などの保有比率をリスク管理の観点から一定に保つ必要がある。
ただ、どちらの側面からも、円高が進めば日本株の売り圧力は高まりかねない。来週には日銀の金融政策決定会合とFOMCが控えている。目先は、日米の両会合を通じて「為替が落ち着いてくるかどうかが重要」と、りそなAMの戸田氏は話している。
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