- 2024/06/06 掲載
アングル:コストコ進出で時給3割増、日本の地方経済に「外圧」
[東京 6日 ロイター] - 群馬県南東部にある人口約1万人の明和町は、米会員制量販店「コストコホールセール」が昨年進出したことで雇用情勢が大きく変わった。コストコが高い時給で数百人規模の従業員を雇い入れる中、歩いて10分ほど離れたところにある飲食チェーン「山田うどん食堂」の店舗は、人手を確保するため時給を3割上げざるを得なくなった。
1杯390円からうどんを提供する山田うどんにとって、少しでもコストが上がると経営に影響する。大きな決断だった。
「原材料でも1円、2円上がるというのは本当に厳しくて、その中で時給が10円上がるというのは本当に大変なこと」と、同チェーンを運営する山田食品産業(埼玉県所沢市)の江橋丈広・営業部長は言う。「しかし、それ以上に売り上げを取っていかないといけない」と話す。
同社は明和町店を改装することを決め、新装開店から最初の3カ月間は時給を1300円に引き上げることにした。コストコの時給1500円には及ばないが、求職者を引きつける効果はあった。3カ月後には1050円に引き下げたが、それでもコストコが進出してくる前の970円からは高くなった。
米国の小売大手が明和町にもたらした労働市場の変化は、デフレの中で人気を集めてきた山田食品産業のような企業には厳しいものかもしれない。しかし、日本の地方経済が賃上げと物価上昇の好循環を生み出すために必要な刺激と見る向きもある。
賃金の大幅な上昇は岸田文雄首相が掲げる目標であり、日銀も金融政策正常化の必要要件に挙げている。物価変動を考慮した実質賃金は今年4月まで25カ月連続で減少しており、消費の減退を招き、日本経済に負の影響をもたらしている。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、日本の1人当たり実質賃金は1995年から2021年の間、ほとんど変わっていない。同期間に米国は5割、フランスは3割近く伸びた。
<山田うどんも売り上げ増>
コストコは2年前、日本国内の全店舗で最低時給を1500円に設定し、人手の確保に動いた。東京でも高い水準で、群馬県の最低賃金の6割増に相当した。2023年4月に明和町で新店舗を開くに当たりパートを募集したところ、300人の枠に2000人以上が応募した。
「高い時給で仕事をしてもらうことでスタッフの収入が増え、消費の活性化にもつながると思っている」と、コストコホールセールジャパン群馬明和倉庫店の山本薫店長は言う。
コストコは日本で出店を加速し、沖縄県も含めても2030年までに60店以上に倍増することを計画している。日本での最低時給を1300円としているスウェーデンの家具メーカー「イケア」も、今年に入って群馬県に出店した。
労働市場を調査するIndeed Hiring Labの青木雄介エコノミストは、「地域経済にとって、そうした外資の動きが賃上げのフックとなって全体に波及する可能性がある」と指摘する。
コストコの出店から1年余りが経った明和町では、明るい兆候がすでに表れている。時給は最大300円上昇し、利根川が近くを流れる緑豊かなコメ作りの町には平日でも人口を上回る数の人たちがやって来るようになった。
「地域経済がそうやって賃金を上げるという段階に入ると、経営者はどうするか。一生懸命もうけようとする。 そうするとようやく経済のパイが膨らんで、活性化が生まれてくる」と、富塚基輔町長は語る。
コストコで働く川根龍(25)さんは、大好きなローストビーフを料理するのにより質の良い牛肉を使うようになったという。同僚の島村七海(23)さんは、海外留学に向けて貯金ができるようになったと話す。山田うどんの明和町店も、コストコを訪れる買い物客が急増したおかげで売り上げが4─5割増えたと説明する。
もちろん、すべての町民がコストコの進出を歓迎していたわけではなかった。富塚町長は、人の採用が一段と難しくなるとの懸念が地元企業から出ていたことを思い出す。
厚生労働省群馬労働局の天田久徳・地方労働市場情報官は、「大手チェーンなどは時給を上げる体力があるのかもしれないが、地元の中小はまだまだ厳しい状態」と話す。「中小零細は求人さえも出せない状態のところもある」と語る。
(勝村麻利子 編集:金昌蘭)
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