- 2024/04/03 掲載
アングル:テスラ失速はマスク氏の言動が影響、米消費者の敬遠傾向明らかに
[サンフランシスコ/ロンドン 1日 ロイター] - 米国でテスラ製品の購入希望者が減少しつつあることが市場調査会社キャリバーの調査で判明した。キャリバーでは人気低下の一因として、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の人柄に対する評価が分かれていることを指摘した。
ロイターがキャリバーから独占入手したテスラ製品に関する「検討スコア」は、2月に31%まで低下した。テスラ製品に対する消費者の関心についてキャリバーが追跡を開始したのは2021年11月だが、このとき記録した過去最高値の70%に比べ、半分以下まで低下した。
テスラの「検討スコア」は直前の1月に比べても8ポイント低下した。これに対し、EVだけでなくガソリン車も製造するメルセデス・ベンツ、BMW、アウディに関するスコアは同時期に微増し、44─47%となった。
テスラはコメントを控えるとしている。マスク氏はこれまで、自動車などの高額商品に対する消費者の需要が伸びないのは金利が高すぎるせいだと批判してきた。
キャリバーは「検討スコア」に関して、テスラ製品の評判とマスク氏の評判との間には強い相関があると指摘している。
キャリバーのシャハール・シルバーシャッツCEOはロイターに対し、「マスク氏自身がテスラの評判を落とす原因になっている可能性は非常に高い」として、同社のアンケート調査では、米国民の83%がマスク氏に対する評価をテスラ製品に関連づけていると指摘した。
ロイターが取材したマーケティングや世論調査、自動車業界の専門家5人は、政治や社会問題をめぐって右派色を強めるマスク氏の言動が、テスラのブランドや需要にとって重荷になっていると語る。
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のティム・カルキンス教授(マーケティング論)は、「政治的な発言がなかったとしても、そもそも売り上げを伸ばすの難しい」と語った。
ウォール街のアナリストらは、テスラに対する他のプレッシャー要因として、景気の先行きへの不安、手頃な価格の新モデルの不足、中国EV最大手BYD(比亜迪)のような低価格のライバルとの競争激化を挙げる。
調査会社コックス・オートモーティブの試算では、米国におけるEV販売台数は、今年の第1四半期に全体で15%増加するという。テスラの販売台数は3%増と予想されている。
コックスでアナリストを務めるステファニー・バルデス・ストリーティ氏は3月末の電話会見で、「EVの減速がそのままテスラの減速という形になりつつある」と語った。
テスラにとって米国最大の市場はカリフォルニア州。同州でのEV販売台数は全体として伸びているものの、2023年第4四半期のテスラ車の新規登録台数は、過去3年で初の減少を記録した。
先月は少なくとも5人のアナリストが、テスラの第1四半期の納車実績が期待外れに終わる可能性を指摘し、同社の目標株価を引き下げた。テスラの株価は年初来で30%近く下落している。
マスクCEOの規格外の個性は、これまでテスラにとってプラスに働いていた。同氏は気候変動対策を掲げ、車輪の上に載ったスタイリッシュなコンピューターとして自動車を再定義し、外観や性能、操作性といった面で燃費の悪いガソリン車を上回ることができると訴え続けた。
テスラは10年以上にわたり、飛ぶ鳥を落とす勢いで年間売上を伸ばしてきた。
<自ら招いた物議>
だが近年、大富豪であるマスク氏は、共和党への支持や、X(旧ツィッター) 上での反ユダヤ主義的なコメントへの賛同などの言動で物議を醸してきた。マスク氏は、自身が反ユダヤ主義者であることを否認している。
2023年1月の電話会議で、ある投資家がマスク氏の政治的なコメントがテスラのブランドや業績を傷つけているのではないかと質問した際、マスク氏は、X上で1億2700万人(当時)のフォロワーがいることに触れ、自分が「それなりに人気がある」と答えた。
昨年11月に行われた別のイベントでは、マスク氏は「私に対する好き嫌いや関心の有無ではなく、あなたが最高の車をほしいと思うかどうかだ」と語った。
ブランド評価を専門とするコンサルティング会社ブランド・ファイナンスは、テスラの評価は2023年に米国、オランダ、フランス、英国、豪州で低下したとしている。テスラとマスクCEOに関するニュースへのアクセスが制限されている中国では評価の低下は見られず、ドイツでも同様だった。
ロイターに提供された消費者分析企業シビックサイエンスによるアンケート調査結果によれば、2月の時点で回答者の42%がマスクCEOに対して好ましくない印象を持っていた。同氏によるツィッター株取得が明らかになった2022年4月の34%に比べても増加している。
「イーロン・マスク氏の行動や政治姿勢に反感を抱き、市場でテスラに代わる有力な選択肢を見つけつつあるEV購入者は、増えつつある」と語るのは、カリフォルニア州に拠点をおくコンサルティング会社オートパシフィックのエド・キム社長。
そうしたEV購入者の1人が、ロンドンでコンサルタントとして働くジョニー・ページさん(36)だ。気候変動対策を専門とするスタートアップと仕事をしているページさんはこの夏にEVを購入予定だが、テスラを選ぶつもりはない。
ページさんはその理由について、テスラ製品の安全性についての懸念もあるが、主にマスク氏の「タガの外れた」行動だという。「彼のポケットには1ペニーだって入れたくない」とページ氏は言う。
<「ガソリン車には戻れない」>
とはいえ、テスラを高く評価する人はあいかわらず多い。
市場調査会社S&Pモビリティによると、テスラは主要自動車ブランドの中で顧客ロイヤリティが最も高く、2023年に新車に乗り換えたテスラ車オーナーの68%が、今回もテスラを選んでいる。
テキサス州在住で、右派寄りを自称するクリスチャン・クックさんは、テスラ「モデル3」のオーナーだ。マスク氏の行動は重要ではなく、「軽率な言動には感覚が麻痺しつつある」と語った。
気候問題に関する活動家であるウィスコンシン州在住のカット・ベイヤーさんは、マスク氏が共和党支持であるためテスラを避けたかったが、信頼できる充電インフラが用意されたEVが見当たらず、昨年「モデルY」を買わざるをえなかったと語る。
「マスク氏を連想する車を運転するのは嫌だ」とベイヤーさんは言う。「でも、ガソリン車には戻れない」
(翻訳:エァクレーレン)
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