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経費の精算業務を効率化させる「経費精算システム」を導入する企業が増えています。新型コロナを契機にテレワークが普及したことや、2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)への対応などが背景にあります。そこで今回は、矢野経済研究所 ICT・金融ユニット研究員の星 裕樹氏監修のもと、経費精算システムの市場動向や基本機能などについて解説するとともに、製品選定のポイント・注意点、製品比較、楽楽清算やConcur Expenseといった代表的なツールの特徴を併せて紹介します。
監修:矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 研究員 星裕樹
監修:矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 研究員 星裕樹
2018年に矢野経済研究所に入社後、主にHCM(Human Capital Management:人材管理)等、人事労務領域に関する市場調査、分析業務を担当。また、スマートシティなどの領域も手がけている。
経費精算システムとは何か
経費精算システムとは、従業員が仕事上で使った各種経費を会社に申請して払い戻しを受ける「経費精算」業務の効率化を支援するシステムです。経費精算の対象となるのは、「旅費・交通費」「消耗品費」「接待飲食費」「通信費」「福利厚生費」などが含まれます。
ご存じの通り、経費精算は経費データの入力から始まり、領収書を添付して提出、上長の承認を経て、経理部で仕分け、承認、領収書原本の保管までと、複数回のフローをたどる必要があります。また、従業員、上長、経理など関係者が多いのも特徴です。
経費精算システムを活用することで、紙やエクセルなど手作業で行われてきた一連の作業の大部分をデジタル化できます。経費精算システムには、領収書をOCR(光学的文字認識)で読み取ったり、勘定科目を自動で仕訳したりなど、経理業務を効率化できる便利な機能が備わっています。うまく活用できれば今までよりずっとスムーズな精算業務が可能となるのです。
経費精算システムが発展した背景
経費精算システムは、1998年に制定された「電子帳簿保存法(電帳法)」とともに発展してきました。電帳法が改正されるたびに、ペーパーレス化できる範囲が広がってきたため、経費精算システムもこの法律改正とともに機能を進化させてきたのです。星氏によると、最近は新型コロナの影響も強く受けていると言います。
「電帳法は2015年と2016年に重ねて改正されてきましたが、電子データを保存するにあたり税務署での手続きに数カ月間を要するなど、手間や時間のかかる厳しい適用要件から、なかなか経費精算システムの導入が広がりませんでした。しかし、2020年、2022年に施行された改正法で抜本的な見直しが行われたこともあり、経費精算システムの導入メリットが年々、拡大してきています。また新型コロナの流行によってテレワーク移行を余儀なくされた結果、これまでデジタル化に二の足を踏んでいた企業も、経費精算システムを導入しようという機運が高まっています」(星氏)
経費精算システム市場
矢野経済研究所によると、経費精算システムの需要は、2016年に改正電帳法が施行されて以来、順調に伸び続けており、2020年度の市場規模は前年度比30%増の154億4,500万円となりました。星氏は新型コロナ感染症による市場への影響力が弱まった2021年度以降も、「さらに需要は伸びる」と言います。
「新型コロナは、市場にプラスとマイナスの両方の影響を与えました。プラスの影響としてはテレワークが普及したことです。デジタル化やペーパーレス化の必要性を認識した企業が積極的に導入を始めました。マイナスの影響は、出張や接待など企業活動を控える動きが出たため、経費精算の業務量が減少したことです。これにより、経費精算システム導入の優先順位が下がり、特にコロナで業績の下がった企業ではシステムの導入を取りやめるケースも生じました。もしもマイナスの影響がなければ、経費精算システムの需要はもっと伸びていたことでしょう」(星氏)
しかし、2021年度から徐々に経済活動が回復したことで、マイナス面の影響は限定的なものにとどまっているとのこと。星氏は「2021年以降は、経費精算システムのニーズが本格化するでしょう。2022年に電帳法改正が施行されたこともあり、2022年度の市場規模は前年度比40%の伸び率を見込んでいます」と解説しています。
経費精算システム導入の「4つのメリット」
経費精算システムを導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。4つのメリットに焦点を当てて解説します。
(1)負担軽減とミス削減
経費精算を申請する際に紙の書類に記入していた場合、経費精算システムを導入することで、申請書の作成が大幅に楽になります。申請者にとって、パソコンやスマホに入力して申請書を作成できるため、大幅に時間短縮につながります。
承認者にとってはハンコを押す作業からボタンでの承認・否認作業となり、経理担当者にとっては勘定科目の仕分け作業が自動化されるなど、多方面で多くの負担軽減につなげることができます。また手書きによる申請をなくすことで書き間違いや誤読によるミスを防ぐことができたり、人力による経費計算をなくすことで計算ミスを防ぐことができたりします。
(2)ペーパーレス化
経費精算システムを導入することで、経費関連の資料をデジタル化することができ、紙管理から解放されます。これにより、紙の資料のファイリングにかかる工数を削減し、後から簡単に資料を検索できるなど利便性が高まります。また膨大な紙ファイルの保管場所が必要なくなり、オフィスの省スペース化を進めることも可能です。
(3)改正電帳法への対応
2022年1月に施行された改正電帳法では、電子データで受け取った書類の出力(紙)保存が原則「不可」となり、電子取引のデータ保存が義務化されました。たとえば領収書をデータで受け取ってしまった場合も、電子取引の扱いとなってしまいます。
電子データでのやり取りが増えている昨今、経費精算システムでデジタル化を進めることで改正電帳法への対応にもつなげることができます。
(4)内部統制の強化
電子データでやり取り・保存することで、帳票類や領収書などの原本紛失といったトラブルを防ぐことができます。また、交通系ICカードなどと連携することで、使用していない電車の運賃を申請するといった不正の防止につながり、コンプライアンスを強化することができます。
経費精算システムの「5つの基本機能」
経費精算システムの機能には具体的にどういったものがあるでしょうか。その機能を大別すると、主に5つの機能からなります。
(1)入力補助機能
かかった経費のデータ入力を助けてくれる機能です。たとえば、領収書をOCRで読みとるだけでデータ入力が不要となる機能や、交通系ICカードや法人クレジットカードの履歴から経費精算を申請できる機能などが主なものとなります。
また、今ではより発展した自動化機能も出てきています。たとえばコンカーの「Concur Expense」は、提携するQRコード決済アプリ「PayPay」の決済データが経費精算システムに自動転送され、人を介さずとも精算を完了させることができます。
(2)申請・承認機能
スムーズな申請や承認を支援する機能です。スマホから簡単に経費精算を申請できるものや、コメントや画像付きで送信できる機能、不明点を相談できるチャット機能などが代表的です。
いちいち経理担当者に問い合わせる必要がなくなるので、デジタル上だけで円滑な精算手続きが可能となります。さらに使った金額が規定の上限を超えているなど、申請内容に違反や誤りがあった場合は、自動的に拒否と差し戻しを通知してくれる便利な機能もあります。
また、経費精算の規定や承認ルートは企業規模や組織形態によっても異なるでしょう。その場合、会社の規定に合わせて、承認ルートの条件設定を細かく設定できる機能も備わっています。
(3)経理機能
現場から経費精算の申請・承認があがってきた後、経理担当者の負担を軽減する機能です。申請時にどの勘定科目に当てはまるか自動で仕訳してくれるほか、ファームバンキングデータの作成や、CSV出力などもあります。
(4)API連携機能
APIを活用することで、会計や請求書管理、勤怠管理などのシステムと連携することができる機能です。たとえば会計ソフトとAPI連携することで、経費精算システムでの作業のみで、会計処理までの全ての工程を完了することができます。
これにより、手作業による入力ミスや目視による確認もれを防ぐことができ、経費精算システムと会計ソフトに同じデータを入力するという重複作業を省くなど大幅な負担軽減につながります。
(5)ペーパーレス機能
紙の領収書・請求書を保管する手間を削減してくれる機能です。領収書をスマホなどで写真撮影やスキャンするだけで、電帳法に準拠したデジタル保存が可能です。ラクスの「楽楽清算」のように2022年の改正電帳法に対応したシステムを導入すれば、紙の原本をスキャンして保存する際に必要だったタイムスタンプも不要となります。
経費精算システムの主要プレイヤー
経費精算システムを提供する主要プレイヤー5社を紹介します。
・コンカー(Concur Expense)
ERP最大手のSAP傘下の企業で、主要プレイヤーの中では最も高機能、かつ高価格なトップベンダーです。グローバルで高いシェアを持ちます。大企業で多く導入されています。
他社に先駆けた先進的な機能を取り入れているところも特徴で、たとえば2021年12月には、IBM、デロイトと不正検知システムの開発で提携したことを発表するなど、経費精算の自動化トレンドなどもリードしている企業です。
・ラクス(楽楽清算)
近年、急速にブランドと地位を確立した企業です。企業規模を問わず広く利用されており、累計導入社数は1万社に達したと発表しています。中小企業でも独立した経理部門があれば、導入メリットが高くなっています。特にカスタマイズ性の高さに定評があり、システム導入の障壁を下げたいというユーザーからの需要を獲得しています。
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