0
会員になると、いいね!でマイページに保存できます。
共有する
ビジネスにおけるクラウド利用は今やすっかり定着した感があるが、大きな成果を上げる企業がいる一方で、なかなか成果を上げられない企業も依然として多い。両者の取り組みを比べてみたときに、クラウド活用に成功している企業に見られるのが「CCoE(Cloud Center of Excellence)」と呼ばれる全社横断型の組織だ。ここでは、大日本印刷やNTTドコモの事例も交えて、CCoEについてその役割や体制、運用方法、事例などを解説する。
解説:大橋 衛、杉村 勇馬、酒井 真弓
大橋 衛 KDDI ソリューション事業本部DX推進本部ソフトウェア技術部 エキスパート
大学卒業後、12年間にわたり金融・通信・ERP・コンシューマといったさまざまなWebシステム開発プロジェクトにおいてプログラミング、設計、マネジメントを経験。その後、軸足をアプリケーション側からインフラ側に移し、2013年にクラウドと運命的な出会いを果たしたことでクラウドアーキテクトとしての道を歩み始める。複数の案件においてAWSをプラットフォームとしたシステム・アーキテクチャの提案、実装、運用を経験し、2016年1月KDDI入社。現在はCCoEリードとして自社におけるパブリッククラウドの活用推進やセキュリティガバナンスの検討、クラウド観点からのアーキテクチャ提案などを行う。またCCoEやコミュニティ活動に関する社外情報発信も積極的に行っている。Jagu'e'rAward 2021 最優秀賞を受賞。
杉村勇馬 G-gen クラウドソリューション部 部長
元・埼玉県警察の警察官で現・IT/クラウドプロフェッショナルという異色のキャリア。2017年にAWSプレミアティアサービスパートナーである株式会社サーバーワークスに入社。100以上のAWS移行案件やコンサル案件でPMを務める。2021年9月、株式会社G-gen設立に伴い現職。AWSの全資格を持ち、Google Cloud認定資格も2022年中に全資格を取得予定。ITインフラやクラウド統制に知見。
酒井真弓 ノンフィクションライター/Jagu'e'r アンバサダー
IT系ニュースサイトを運営するアイティメディア株式会社で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60本ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle Cloud公式エンタープライズユーザー会「Jagu'e'r(ジャガー)」のアンバサダー。著書『ルポ 日本のDX最前線』(集英社インターナショナル新書)『DXを成功に導くクラウド活用推進ガイド CCoEベストプラクティス』(日経BP)『なぜ九州のホームセンターが国内有数のDX企業になれたか』(ダイヤモンド社)
CCoEとは何か?
CCoE(Cloud Center of Excellence)は、「クラウド戦略を遂行するために必要な人材や知見、リソースなどを集約した全社横断型」という特徴を持つ、企業内のクラウド活用推進組織のことである。
そもそも「CoE(Center of Excellence)」とは、企業や組織が重要な戦略を遂行する際、その分野に関して優れた知見や実績を持つ人材や各種の経営リソースを一カ所に集め、組織横断型の部署・拠点として組織したものを指す。CCoEは「クラウドのためのCoE」ということだ。
CCoEの役割とは?
CCoEの役割とはどのようなものだろうか。CCoEのような組織がなくとも、クラウドを活用してビジネス上のメリットを享受することは十分可能だ。事実、チームや部門単位で独自にクラウドを導入して成果を上げている例は枚挙に暇がない。しかし、クラウドが持つポテンシャルを最大限引き出そうとすると、チーム・部門ごとの個別最適の取り組みでは自ずと限界に突き当たる。
たとえば、長期戦略に基づいて全社でクラウドを活用し、企業価値の向上に結び付けようとしても、部門ごとにクラウドの活用方針がバラバラだとその遂行は困難だ。また、クラウドの導入はセキュリティやガバナンス上の新たなリスクを呼び込む危険性もあるが、各部門がバラバラにクラウドを運用していると、全社的なセキュリティポリシーやITガバナンスの維持も難しい。
さらには、部門ごとの独自の活動に任せているだけでは、クラウドに前向きな部門と後ろ向きな部門に分かれてしまい、社内のリテラシー格差がどんどん広がってしまう。
こうした歪みを是正し、全社でクラウドに積極的に取り組むカルチャーを醸成するには、CCoEのような全社横断型の組織による啓蒙や情報発信、人材育成といった施策が欠かせない。
もちろん、クラウドの導入・活用に伴って新たに持ち上がるセキュリティやガバナンス上の課題、懸念点を洗い出し、全社的な対策を行っていく上でも、CCoEは極めて重要な役割を果たす。
このようにCCoEは、クラウド活用を積極的に推進する「アクセル」の役割を果たすとともに、それに伴って発生するリスクを未然に防ぐ「ブレーキ」の役割も同時に求められるのだ。
CCoEが注目される2つの理由
CCoEが近年注目を集めるようになった理由はさまざまだが、以下に代表的な2つを挙げてみよう。
・DX推進のためのクラウド活用
業種・業態や事業規模を問わず、いまやあらゆる企業が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を旗印にビジネスのデジタル化にまい進している。このDXの実現にはクラウドの活用が欠かせない。
これまで多くの日本企業は、レガシーシステムの維持運用に膨大なコストや人手を割いてきた。このため、新たなデジタル施策に割く経営リソースをなかなか捻出できず、結果的に海外企業のDXの取り組みに大きく遅れを取ってきた。そこで、既存のレガシーシステムをクラウド型に転換して維持運用コストを減らし、浮いたリソースをデジタル施策に投入することでDXの取り組みを加速できる。
また、クラウドはITインフラを短期間に構築・廃棄できるため、DXに求められる「機動性やアジリティに優れたIT」も容易に実現可能だ。
こうした考えの元、中期経営計画に「DX推進」「クラウドシフト」を掲げ、トップダウンで全社でクラウド活用を打ち出す企業が増えている。そしてこうした企業では、全社方針を社内にくまなく浸透させ、経営層のバックアップの元にクラウド活用を強力に推し進めていく全社横断型組織として、CCoEを設けているところが少なくない。
・シャドーITのリスク低減
クラウド型アプリケーションが広く普及した今日、企業の事業部門が独自の判断で自分たちのニーズにマッチしたクラウドサービスを導入するケースが増えている。
これにより、現場ニーズに即したサービスを迅速に取り入れて事業スピードを加速できるようになった半面、IT部門の目が行き届かないクラウドサービスが社内のあちこちに散在し、ITガバナンスが効かなくなってしまう「シャドーIT」が深刻化することにもなった。
そこでこうした課題を解決するために、全社横断でクラウドの利用状況を可視化し、セキュリティポリシーやITガバナンスをしっかり管理するための新たな組織が求められるようになった。
このような背景から、IT部門やセキュリティ部門の主導により全社横断型のチームや組織が自然発生的に生まれ、やがてCCoEへ発展していくケースも多く見られる。こちらは先述の「トップダウン型」に対して、「ボトムアップ型」のCCoEだといえよう。
【次ページ】CCoEの立ち上げと運用で必要になる考え方と取り組み
関連タグ