• 2019/12/23 掲載

「業界をまたいだDXを」八子知礼氏に聞く、DX推進の次世代ビジネスモデルへの挑戦

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ここ数年、IoTへの取り組みをはじめ、製造業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)への注目が高まる一方、プロジェクトがなかなかスタートできなかったり、PoCで終わったり、プロジェクトがとん挫したり、あるいはプロジェクトでの成果に疑問を投げかけられることも増えてきた。こうした状況に一手を打とうと立ち上がったのが、ウフル IoTイノベーションセンター長で、このたび「INDUSTRIAL-X(インダストリアル・エックス)」を立ち上げた八子知礼氏だ。八子氏にDXの現在地、そしてこれをどう変えていこうと考えているのか、話を聞いた。
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾 慎司

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾 慎司

画像
INDUSTRIAL-X
代表取締役
八子 知礼 氏

DXにみられる「停滞」がなぜ起きているのか

──企業の「デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)」への取り組みが本格化しています。

八子氏:この2年ほどの間でしょうか。急激に「DX」と言われるようになってきました。たとえばIoTに取り組み、集約したデータをAIで分析するといったことに挑戦する動きもあります。

 一方で、停滞も見られます。IoTでのPoC(概念実証)などに取り組む中で、可視化まではいくものの、そこから分析をして、その結果を現実世界へフィードバックすることにとん挫するケースが後を絶ちません。特に制御するといったことに関しては非常に難易度が高い取り組みとなっています。

 もしくは、今の段階では、コスト削減や省力化、省人化には効果は期待できるものの、売上アップや新規事業にはなかなかつながっていないように見えます。そうなると、やらなければならないのはわかるが、どういう姿を目指せばいいかわからない、昔やったことがあって可視化してもどうなるものでもない、といった「言い訳」が数多く聞かれるようになりました。

── 一方で積極的に事業転換を図っている企業も増えてきました。

八子氏:格差がどんどん広がっているというのが率直なところです。トヨタは2年前のCESで「e-Palette (イーパレット)」を発表し、あれが契機になって従来と違うビジネスモデルに挑戦するようになりました。コマツのLANDLOG(ランドログ)は多くの企業にデータ活用ビジネスプラットフォームのベンチマークとされていますが、非常に優れた取り組みだと思います。

 2年前でというと、ファナックの「FIELD system」の商用版がリリースされましたし、日本の海事業界が共同で取り組んだ「IoS(Internet of Ships)オープンプラットフォーム」(IoS-OP)も始動しました。

 こうした取り組みが出てくる一方で、可視化どころか、PoCをどうすればよいのかといったことを検討している企業もいて、その差は歴然としています。二極分化が進んでいるのです。


経営の意思が強烈に反映されている

──なぜこれほどまで大きな差が付くのでしょうか?

八子氏:もっとも大上段な話からすると、経営者の意思が強烈に反映されているのではないでしょうか。デジタル化に対応しようとする、もしくはこれまでの売り上げとはまったく違ったデジタル時代の稼ぎ方をする、もしくは異業種から参入してくる脅威にしっかり対抗しなければならないという強い危機感を持つ経営者がいると積極的に取り組んでいるのではないでしょうか。

 私が懇意にしていただいている三井物産さんも、もう経営陣が軒並み、デジタル化しない部門は予算を割り当てない、というぐらいまで自分たちを追い込んでいたりします。

 別の側面として、お客さまからのニーズとして、あまり最先端のテクノロジーを必要としない業界も依然としてあります。まだまだ業界全体の危機感が醸成されておらず、取り組みを進める動きが進まないといったことがデジタル化への取り組みを阻害している面があると思います。

なぜ「INDUSTRIAL-X」を立ち上げたのか

──こうした中、ウフルに所属しながら、「INDUSTRIAL-X(インダストリアル・エックス)」という新会社を立ち上げられた狙いはどこにあるのでしょうか?

八子氏:ウフル自体は「enebular(エネブラー)」というデータ連携のプラットフォームを持っており、それによってIoTのビジネスをどんどん拡大していこうとしており、これは引き続きIoTのビジネスを躍進させるために取り組みます。

 一方で、「INDUSTRIAL-X」では、これをさらに中立的な立場で、何らかのプロダクトに強くとらわれることなく、さらに具体的に活動していこうと考えています。もちろん今までも、ウフルのIoTイノベーションセンター自体でそういう活動をしてきたわけですが、それを発展的にデジタルに、さらにITのレイヤーだけにとどまらない事業を想定しています。

 この3年間、さまざまなIoTプロジェクトに取り組んだ際、経営者の方との議論を通じて、「これは儲かるビジネスなのか」「これを積み上げていって何になるんだ」「次世代のビジネスモデルをどう描くべきか」といったことに応えなくてはならないと痛切に感じました。そのためには、かつての自分の経験であった戦略コンサルのようなことも必要になるし、現場に物理的なセンサーなどを設置することも依然として必要だろうと考えたのです。


 その一方で「予算がない」「稼げるかわからない」「推進するリーダーがいない」「時間がない」「目指す姿がない」という“言い訳”も多く聞かれるようになりました。ほかにも「セキュリティが心配」といった声もあります。

 こうした問題に、これまでもパートナーエコシステムを通じて、パートナー同士の組み合わせで対応してきましたが、どちらかというと触媒としての中立的な関与に終始して、自らが直接的に主体的な事業者として関与できる幅には制限を課してきました。マーケットを立ち上げていく上ではそれがパートナーさんとの信頼感にコミットすることになりますし、自らも事例を作りやすかったことが主たる理由です。

 もちろん、それで進むこともありましたが、できる幅がまだ小さい、このままやっていても日本の多様な産業が次のビジネスモデルになるまでどれぐらい時間がかかるだろうかと感じたのです。そのため、今停滞してしまっている理由をすべて解決できる存在になりたく、たとえば予算がないなら投資家を引っ張ってきますし、稼げるモデルもすでに持ち合わせていますし、セキュリティについても具体的な解決策を提示します。

 きちんとした覚悟をお持ちの企業にはそういったことを提案、提言し、包括的に提供するということを誰かがやらないといけないんじゃないか、と考えるようになりました。

【次ページ】薄く広くみんなで成果を分け合う
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