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- 2019/10/14 掲載
ドクターX「私、失敗しないので」はなぜ“失敗ばかり”のプロデューサーから生まれたのか
本当に「失敗ばかりなので」だった若手時代
──こんなことを冒頭からお聞きするのは恐縮ですが、内山さんは本当に「失敗」されてきたのでしょうか?内山氏:ドクターXをプロデュースした関係で、「失敗しない方法」について講演で語ってほしいとオファーされるのですが、だいたいが失敗話になって、講演をご依頼いただいた方の期待を裏切ってしまいます(笑)。
実は私自身はたいした失敗じゃない、誰でもやっているだろうと思っていたのですが、「本当に失敗しているんですね」と言われるほどです。
そもそも私は記念受験のような形で運よくテレビ局に入社したこともあり、会社のシステムが分からないまま会社員になってしまいました。
当時はバブル末期、右肩上がりで社会が成長していて、とにかく私の将来も日本国民の将来も、必ず良くなることを大前提にしていました。あまり自分の一生や将来の蓄えとか考えず、楽しく生きることに一生懸命だったと思います。
私もそのうちの一人で、しょっちゅう飲みに行っていましたし、お酒の失敗談は数知れずです。たとえば、六本木の交差点で寝ていたとか、今言うと大変に迷惑な行為ですが、本当に当時はバブルがまだ残っていたので、終電後に帰りたくともタクシーが拾えなかったからというのもあります。
バブルの時はとにかく何をしても日本は沈没しないという社会的な風潮もあって、仕事を少し“なめていた”のかもしれません。
私はいち社会人で、しかも入社1年目でしたが、浮かれた世の中と一緒に浮かれてしまって、何かを買いに行く、遊びに行く、食べに行くといった浪費をしていたことは、いま振り返るとそれが失敗だったかなと思います。
──会社に入ってすぐに秘書課に配属されたそうですが、ここでも失敗を多く経験されたそうですね。
内山氏:失敗だらけです。そもそも秘書課があることすら知りませんでした(笑)。朝寝坊をして慌てて近くにあったジーパンをはいて出社し、遅刻より服装について叱られることもありました。
2年目で社長秘書になった時はあまりに大変で音を上げそうになりました。電話の取り方も、ご祝儀袋や案内状の書き方も、車に乗る時の礼儀もわからなかったので。なんせパンをかじりながら社長の机を拭き掃除して、きれいにするどころか、パンくずで汚してしまうようなありさまでした(笑)。
年配である社長の体力を考えずに、予定を詰めに詰め込んで、「完璧にスケジューリングできた!」と自分をほめていたら、「君は私を殺す気か!」と怒られたこともあります。
今回、本を出したことも、大いなる失敗の1つに数え上げることになるかもしれません(笑)。
「自分よがりに作ってしまった」最初のプロデュース作
──さらに古傷をえぐるようで申し訳ないのですが(笑)、数々のヒット作を世に送り出してきた内山さんも最初のメインプロデュース作「Missダイヤモンド」は失敗だったとか。内山氏:傷はそのときにつけまくったので大丈夫です(笑)。確かに失敗でした。今のようにデータを簡単に取れる時代ではなかったのですが、もう少しマーケティングする、すなわち自局の視聴者さんと向き合う時間もあったのに、それを行わず、自分よがりに作ってしまったことが失敗の一番の原因でした。
お恥ずかしい話ですが、当時の私は他局のドラマばかりを見ていました。それはそれでよかったと思うのですが、テレビ朝日の視聴者さんがどういうことが好きなのかを十分に調べていなかったように思います。
また、軌道修正するにも、たとえば自局のドラマ作りのノウハウがある先輩にきちんと聞けばよかったのですが、たまたま知り合った他局のヒットメーカーに話を聞いてもらったり、相談をする相手も間違えたと思います。
ヒットメーカーというのは、やはりそのときの自分に自信があるから「いいんだよ、何でもやっちゃえば!」と言うだけで、特に大事なデータをくれるわけではありません。
素人の友だちに面白いか面白くないかだけを聞いて回るといったこともそうです。大切な一視聴者であることは確かですが、テレビ朝日という私の所属している組織の強みを見ないようにしていたのかもしれません。
今でも自分が好きなことをやらせてもらっていますが、自分の好きなことをお客さま目線にチューニングしていくのが、当然ながらプロデューサーの仕事です。そのノウハウをまったく持たずに、もちろん最初は誰も持っていないのですが、それでも多少の勉強をしているかしていないかで結果は全然違っていたのだろうと思います。
それに今考えると、意外と先輩からアドバイスいただいていたのかもしれませんが、それをたぶん無視していたのだと思います。
なぜ失敗する人は他人のアドバイスに耳を傾けられないのか
──失敗する本人はアドバイスが耳に入ってこないのですかね?内山氏:自分が思っていることのほうが楽しいと思い込んでしまったのでしょうね。一方で、それはとても大事なことなのですが、経験がないときや自分の中に確証がないときに感覚だけでそう思ってしまうと、仕事では失敗します。
ただ、今もそう思いますが、本の中でも言っているのは失敗しておけという話です。本当に一緒に走ってくださる方に迷惑はかけますが、失敗することもとても大事なことだと思います。
もちろん迷惑をかけてしまったキャストやチームスタッフに対しては、本当に失敗を必ず返そうと今でも思っています。
──このように失敗も多くなさってきたわけですが、そこからのリカバリーはそれ以上に大切になさっています。どういうことを意識なさっていますか?
内山氏:私自身の失敗もそうですし、この立場になってくると後輩や部下の失敗も含めてとなりますが、基本的にはまず「失敗を認識すること」が大切だと思います。
実は「失敗しなかったことにしよう」と思うのが一番簡単な解決策です。でも失敗だと認めること、これはミスしたんだと認めることがリカバリーの第一歩ですよね。
実は意外とこれができないんです。私が下だったときも、「やっちゃった」と思ったときに、なんとか上にバレずに処理しようとしたこともありました。怒られるのが怖かったので。あと部下や後輩の失敗を自分の失敗だと意識できないこともあります。
しかし、失敗が後から露呈するとリカバリーが非常に遅れます。なぜこんなに良い役者さんやスタッフが集まってくれているのに、この企画はダメだったのか、一番入口を組み立てた私の失敗というファーストステップに早く気づいて、早くリカバリーするということが、失敗を克服するときには一番大事です。
実は私は性格的にも失敗を認めるのが嫌なタイプでした。失敗したなと思ったら、なんとかごまかせないかなと思うんです。失敗を積み重ねることで、自分の性格が分かり、そのため余計に意識してごまかさないようにしてきました。
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