• 2019/01/29 掲載

キャッシュレスは危険? なぜ暗号通貨と「組み合わせて考えるべき」なのか

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中国のキャッシュレス化の進展が日本でも注目を集めている。現金を持ち歩かなくても、スマートフォンのモバイル決済で大抵の支払いができる点は大きなメリットだろう。一方で、そのキャッシュレス化の危険性を説くのが、『暗号通貨 vs. 国家 ビットコインは終わらない』を上梓する慶應義塾大学 経済学部の坂井 豊貴教授だ。モバイル決済が主流の社会では、アカウントが利用停止になるだけで経済活動から締め出されてしまうからだ。こうした背景から坂井教授は「暗号通貨と組み合わせて考えよ」と説く。その真意はどこにあるのか。
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暗号通貨とキャッシュレスに関係が…?
(© zapp2photo - Fotolia)

危険なキャッシュレス

 中国はキャッシュレス化の進展が著しい。現金を持たずとも、スマートフォンのモバイル決済で大抵の支払いができる。「アリペイ」や「テンセント」はそうした電子マネーサービスの代表格だ。そんな中国を見て、日本はキャッシュレス化が遅れている(だからダメだ)といった論調がある。でも中国のキャッシュレス化、そんなに羨ましいか。

 中国ではクレジットカードが普及していなかった。だからモバイル決済は歓迎された。モバイル決済は、クレジットカードと異なり、手数料が無料だったり格安だったりする。だが人間社会で「タダほど高いものはない」は永久不変の真理だ。別のかたちで支払わされてはいるのだ。サービスの提供者はユーザーの利用情報をタダ同然で得られる。

 中国には国家情報法という、監視や検閲が柔軟にできる法律がある。中国共産党はモバイル決済の利用記録を自由に利用できる。自分たちに批判的な人間がどこで何を買い、どこへ移動しているのか、利用記録から把握できる。

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中国には柔軟に検閲が行える法律がある
(© metamorworks - Fotolia)

 これはイヤなことではないだろうか。慣れたらイヤだと感じなくなるのかもしれないが、飼い馴らされただけではなかろうか。「奴隷は鎖のなかですべてを失ってしまう、そこから逃れたいという欲望までも」とは、ルソーの『社会契約論』にある有名な句だ。意志を失い、隷従に慣れてしまうこと。おそらくは暗号通貨の熱心なファンは、そのような自由の喪失を嫌うものだ。

 モバイル決済が主流の社会では、アカウントが利用停止になると経済活動から締め出される。中国では習近平・国家主席を批判する文章を何度かSNSに書き込むと、アカウントが停止されるという(日本経済新聞2018/7/4 社説)。どれだけ財産をもっていても、それをモノと交換できないならば、全財産没収と同じだ。

 国家は、国内には警察をもち、国外には軍隊をもっている。物理的に最強だから、法律を通用させられる。そんな国家が決済サービスと結び付くと、気に食わない者をお金の利用から締め出せてしまう。所有権の保護は、国家の主な存在理由のひとつのはずなのにだ。

 アリペイもテンセントも民間企業だ。アリペイの創業者ジャック・マーは時価総額50兆円に及ぶ企業を築いたことで英雄視されてもいる。だがジャックが成し遂げたことには、電子マネーのアカウントを通じて、中国共産党に国民管理の新手法を与えたことも含まれる。

 キャッシュレス化で社会は便利になった。おめでとう。だがマネーを通じた管理化も完成した。おめでたい。だがその便利さに、自由と天秤にかけるような価値があるのだろうか。

 集中した権力から独立した通貨がほしい。そうした願望から生まれたのが「暗号通貨」コミュニティだ。それが分からないと暗号通貨はただの新奇な通貨や投機の手段に見えてしまうだろう。

企業は慈善団体ではない

 日本でもキャッシュレス化は進みつつある。たとえば国内屈指のユーザー数を持つLINEは、スマホでの決済アプリとして「LINE Pay」サービスを開始した。店舗への支払いのみならず、割り勘するときをはじめ個人間での送金にも使える。しかも2018年8月から3年間、LINE Payを取り扱う店舗には決済用アプリを無料で提供し、決済手数料もゼロにするという。

 もちろんLINEは慈善団体ではない。これはLINE Payを普及させ、決済手段の第一選択肢となるための手段である。そこまでして決済手段にする理由は、ユーザーの買い物データがほしいからだろう。誰がどこで何を買うかという個人データ。マーケティングの貴重なデータだ。

 今後多くの買い物において、すでにAmazonがしているように、「おすすめ」が提示されるようになる。すでに九州のスーパー「トライアル」の新型店舗では、カートにタッチパネルが付いており、パンを買い物カゴに入れると、サンドイッチ用のハムを勧めてくれる。便利でいい気もするし、便利な商品そしゃく機として扱われている気もする。

 国家の権力を嫌う人は、相対的に、民間企業を信頼しがちである。しかし社会にとって、巨大な民間企業は、ときに国家よりも制御しにくい。いかに「社会的責任」が叫ばれようとも民間企業は、国家ほど説明責任を負うわけではないからだ。

 たとえばだ。アメリカ政府はグーグルに、ロシアがインターネットで選挙を妨害してくることについて対策を問うた。しかしグーグルのトップも、その親会社のトップも、上院の公聴会で証言することは断った。

 企業を悪玉だというつもりはまったくない。ただ企業のトップは選挙で変えられるものではないし、社会的責任の果たし方で選ばれるわけでもない。そういうものではないのだ。そして上場企業の株主は、大抵は株価と配当ばかりを気にするものだ。

【次ページ】暗号通貨をバブルで片付けてはいけない
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