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社会的なインフラや仕組みを大きく転換させる可能性を秘めている「ブロックチェーン」。企業のシェアリングエコノミーを支える技術としても注目を浴びており、今後のサービスを進化させる原動力になりそうだ。7月23日に開催されたセミナー「ブロックチェーンの今とこれから」では、日本ブロックチェーン協会(JBA) 事務局長の樋田桂一氏らにより、いま話題の農業、不動産、SNSなどに適用する国内事例などが紹介された。
ブロックチェーンは全取引を記録する台帳
まず講演に立ったガイアックス RND 開発マネージャー 峯 荒夢(ミネアラム)氏が、ブロックチェーンの基礎技術について解説した。
同氏は「ブロックチェーンはすべての取引を記録する台帳」と端的に表現。ブロックとは台帳における1ページであり、一定期間内のお金や権利の移動などの情報が書かれているもので、チェーンとはそのブロックが数珠のようにつながっている様子を指すという。
「ブロックチェーンは、みんなで支えあう台帳です。P2PネットワークのすべてのPCで分散して台帳を持ち合い、各PCからの計算パワーで台帳の管理を支えます。どこかのノードが壊れても、ネットワーク全体で見れば、安定して動きます。またブロックチェーン(パブリックチェーン)は、複数の企業や見知らぬ人同士で情報を追記したり、閲覧できる点も大きな特徴の1つです」(峯氏)
ブロックチェーンは、全員で支えあう台帳であると同時に、「全員で見張る(信頼がおける)台帳」でもある。ブロックを確定する際は、必ず参加者の合意を得なければならない。たとえばブロックチェーンを利用するビットコインも、合意形成を行うために、参加者がブロックチェーンを管理する「PoW」(Proof of work)を行う仕組みが用意されている。
「ブロックの合格判定には、多くの計算処理が必要です。取引データとブロックに書き込むデータに数字を加え、ハッシュ値(ある法則をもとに数値を変換した乱数)を取り、その値が最初に小さくなった人がブロックを確定し、報酬をもらえる仕組み(マイニングと呼ぶ)です。これにより不特定多数がチェーンで合意形成を取れるのです」(峯氏)
もし改ざんが行われても、ブロック全体を要約したハッシュ値が変わるので、すぐに不正が判明する。すると、そのデータが破棄され、正しいデータになるようにP2Pネットワークの他ノードにつなぎかえられる。またP2Pネットワークで情報共有にズレが生じ、チェーンに分岐が起きると二重支払いにつながる危険もある。そこで分岐を見張り、二重支払いが起きない仕組みを採用している。
スマートコントラクトとトークンで何が変わるのか?
さらにブロックチェーンには「スマートコントラクト」と「トークン」という2つの重要なキーワードがある。
前者のスマートコントラクトは「宣言された契約」を実現するものだ。この宣言とは、契約条件がif文などで明文化された、可読性の高いものを意味している。スマートコントラクトは、ブロックチェーンを拡張するアプリケーションレイヤーとして使え、お金の台帳と連動し、契約の締結と履行をワンストップで自動実行する。
一方のトークンは、簡単にいうと「デジタル化した権利」のこと。たとえば、お金の権利では、仮想通貨が挙げられる。物の所有権やデジタル資産をトークン化することも可能だ。ブロックチェーンでスマートコントラクトを使ってトークンを受け渡すと、同時に権利の移転もしっかりと扱えるようになる。
「この最も典型的な例が“DAO”(Decentralized Autonomous Organization)です。これは中央集権でなく、一定のルールに則って自律して動き続ける自律分散型組織のことです。DAOの代表的なものがビットコインですが、世界中でDAOの実験が進んでおり、いずれ現在のシェアリングエコノミーもすべて自動化されるといわれています」(峯氏)。
別の使用例としては「ライドシェア」が挙げられる。ライドシェアは、クルマの空きスペースを共有や遊休の資産と捉え、相乗りをマッチングさせるビジネスだ。日本では燃料代と高速代の実費を折半する形で、Win-Winの関係を構築し、経済活性化につなげられると主張する。
海外では、UberやLyftのようなモデルでなく、ドライバー自らが料金を決める「
arcade.city 」が登場したり、IoTとブロックチェーンを組み合わせ、鍵のアクセスコントロールを扱う「
Slock.it 」といったサービスも出ている。
「シェアリングエコノミーでは、個人間の契約、評価、決済、本人確認が重要なポイントになりますが、すべてをブロックチェーンで管理できます。特に本人確認は相手を特定し、追跡が可能なので、犯罪の抑止になります。そこで我々は、日本唯一の本人確認API“
TRUSTDOCK ”を提供しています。身元確認をオンラインで完結できるサービスです」(峯氏)
シェアリングエコノミーとブロックチェーンの相性は良いのだが、まだまだ課題も多いという。現状ではシェアリングエコノミーをブロックチェーン化しても、すぐには回らない。
サービス業者がシェアリングエコノミーのホストとゲストを必死に集めて、なんとかビジネスが成立するというのが実情だ。Airbnbのような業者でさえ、品質を必死に担保しており、努力の上に成り立っている。
「シェアリングエコノミーは、まだキャズムを超えるレベルではありません。ブロックチェーンや仮想通貨の決済が成立しない限り、未来は来ないでしょう。まず我々がやるべきことは、シェアリングエコノミーにおけるブロックチェーンの認知と拡大と考えています」(峯氏)。
ブロックチェーン市場は67兆円に
続いて、日本ブロックチェーン協会(以下、JBA) 事務局長の樋田桂一氏が、ブロックチェーンの応用例について紹介した。
JBAは、ビットコイン交換所のマウントゴックスの破綻を受け、2014年9月に設立された。日本価値記録事業者協会としてスタートし、マウントゴックスのような事件を起こさないために、仮想通貨交換業の実施被害ガイドを作ることから始まった経緯がある。現在、JBAには150社の法人会員が集まり、仮想通貨とブロックチェーンの部門が、政府に政策提言などを行っている。
樋田氏は、ブロックチェーンの特徴の復習として「分散性」「可用性」「透明性」「完全性」という項目を挙げ、「みんなで管理し、いつでも使えて、誰でも情報が見られ、データの不整合がない」と説明した。またブロックチェーンのユースケースについては、経産省の公開資料を元に紹介した。
「金融系では仮想通貨のほか、送金や決済、証券取引などに使われたり、ポイントサービス、資金調達(ICO)、土地登記の管理なども挙げられます。コミュニケーション系ではSNSやメッセンジャーでも使われています。また商流系ではサプライチェーンやトラッキングの管理、コンテンツ系ではアート作品の所有権や著作権の管理、ブロックチェーンゲームなども出てきています」(樋田氏)
【次ページ】ブロックチェーン導入のニーズが高い海外の新興国を狙え!
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