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  • 2017/11/28 掲載

実店舗小売企業のデータ活用は「2つの罠」に気を付けろ

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消費者にとってECの利用が一般的になる中、リアル店舗を持つ小売業は独自の強みを生かしながら、デジタル化に対応する必要がある。多くの企業では店舗で価格や販売スタッフなどに関わる対策が行われているが、その「有効性の検証」が十分ではないケースも多い。リアル店舗を持つ小売企業がいま実施すべきことは何か。その検証はどうすればよいのか。『エコノミスト』誌の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の調査レポートの解説を交え、「店舗体験を修正するための4つのポイント」「データ活用の2つの罠」の観点から解説する。
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実店舗小売企業がオンライン小売企業と戦うには、データの活用が必要だ
(© zapp2photo – Fotolia)


店舗体験を修正するための「4つのポイント」

 経産省による「平成28年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、平成28年の国内のEC市場規模は15.1兆円にまで拡大している。一方で、すべての商取引金額に対する、EC取引金額の割合を示す「EC化率」は、わずか5.43%と、「実店舗」の売上が依然として高い割合を占めているのが現状だ。

 しかし、ECがこれほどまでに注目されているのには理由がある。オンラインの成長率の高さだ。また、購買行動全体に占めるインターネット利用の割合が高まっていることも見逃せない。購買前にインターネットを駆使して自力で情報収集する層は増えており、購買後も商品のレビューを投稿するなど、インターネットは「購買行動」に欠かせないものになっている。

 小売企業は、「購買チャネルの統合」という「狭義のオムニチャネル」だけでなく、「顧客の価値を基点とした統合的な購買プロセスの再設計」に取り組むことが大きな課題となっている。

 では、具体的にサービスの変革にはどんな課題があるのか。クラウドベースの予測分析ソフトウェアを手掛ける、アプライド・プレディクティブ・テクノロジーズ(APT)が、『エコノミスト』誌の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)を通じて行った、グローバルの小売企業の経営幹部256名を対象にした調査によれば、従来型の小売企業が「店舗体験の修正」を迫られていることがわかる。

 修正の1つ目のポイントは「価格戦略」だ。これは、オンラインの対抗策として「値下げ」を意味することもあれば、リアル店舗で高付加価値商品を提供し、商品の価値を伝える「値上げ」の形をとることもある。

 2つ目は「オンライン投資の増加」だ。これまで培ってきたブランドや顧客をベースに、統合的な顧客体験を提供するために、オンラインチャネルの強化や、リアル店舗を含むオムニチャネルを進展させていく戦略だ。

 3つ目は「顧客セグメント」。具体的には「会員のロイヤルティ・プログラム」である。自社を活用して頻繁に買い物をする「お得意さま」を会員として囲い込み、興味・関心を深掘りして理解し、会員を惹きつける特典を付与する。そのためには、適切で詳細なセグメンテーションが必要となる。

 そして4つ目は、販売スタッフをはじめとする「従業員の能力向上」だ。販売員はオンラインに対する差別化要因になりうる。オンライン競合企業への対抗策として、従業員を教育して知識を増やすことを重要視する企業の割合は、日本では80%、グローバルでも70%を超えている。

リアル店舗が陥りがちな「データ活用の2つの罠」

 リアル店舗を持つ小売企業は、自らが持つ店舗や販売員といった資産とオンラインならではの利便性との相乗効果を出したいと考えている。しかし、その結果、自分たちの思い込みだけを頼りに「顧客の望まないもの」を提供してしまっては元も子もない。

 そうならないためには、施策のテストと検証が欠かせないが、「データを元に、きちんと検証できない実店舗企業が多い」と語るのは、APT シニアバイスプレジデント(日本代表)の及川直彦氏だ。

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APT シニアバイスプレジデント(日本代表) 及川直彦氏

「価格戦略で考えてみましょう。実店舗小売企業が多くのお客さまに来店して欲しいと考え、値段を下げるとします。しかし、お客さまの行動を変えるには、中途半端ではないインパクトのある価格設定が必要です。インパクトある値下げには、利益が下がるリスクもあり、データを元にした検証が必要なのです」(及川氏)

 これまでも、統計解析の分析手法などを用い、過去のデータからシミュレーションする取り組みは行われてきた。しかしそこに「データ活用の罠がある」と及川氏は指摘する。

「外的・内的な環境は変化するため、今とは環境の異なる『過去に値段を下げたケース』をもとに『今、導入を検討している値下げの妥当性』を判断することはできません」(及川氏)

 1つ目の罠は、「リアル店舗はデータのサンプルサイズが小さい」点だ。オンライン店舗には膨大なユーザーのサンプルサイズがあるので、ランダム化によって偏りを取り除きやすいが、リアル店舗は、大規模といわれる店舗チェーンでも数百店舗程度である。

「これでは、オンラインチャネルのように、見ている5万人と見ていない5万人というような規模でのA/Bテストができない難しさがあるのです」(及川氏)

 2つ目は、「ノイズの多さ」だ。施策を実施した店舗とそうでない店舗を比較する際に、天候、近隣の競合状況、あるいは自社のオペレーションの変更など、施策以外の要因(ノイズ)が、絡み合って店舗の売上に与える影響を排除する必要がある。

 従来は、重回帰分析などの手法を使い、ノイズをもたらしていそうな要因を考慮し補正していく。しかし、ノイズをもたらす要因を網羅することができず、また部分的な補正によってあらたな偏りが持ち込まれることもあり、「補正の仕方によっては数%程度の誤差が頻繁に出る」という。この数%の誤差というのは、少ないマージン率で利益を生み出そうとする小売業にとってはクリティカルな数字だ。

 分析者のさじ加減でデータに差が出てしまうようなノイズのあるデータを従来の補正に頼って分析しても、結果が有効かどうかわからないという課題があるのだ。

 データ補正の精度を高めるには、人間の主観が介在しないパターン認識などのアルゴリズムを使ってノイズの補正を行う必要がある。

分析チームが「データを使った意思決定」に貢献するために

 そこで注目されるのがAPTの「Test & Learn」だ。これは、クラウドベースの予測分析ソフトウェア「Test & Learn」を活用し、APTの独自アルゴリズムでノイズを除いて店舗の施策を実施した場合とそうでない場合を比較し、企業の意思決定を支援するツールだ。

「POSデータなど企業のビッグデータの予測分析により、ノイズの中から施策と利益の間の因果関係を特定し、改善機会を発見し、本格展開によるインパクトを予測します。これにより、価格、販売促進、設備投資、業務などの施策が利益にもたらす真のインパクトを特定し、中止すべきものと本格展開すべきものを見極めることができます」(及川氏)

 「Test & Learn」の機能的な特徴は大きく2つある。1つ目は「代表性」の担保だ。たとえば、全国の店舗に施策を導入することによる影響を予測したい場合、分析する店舗(テスト店舗)がたとえば大阪の大型店舗ばかりに偏っていては、全国の動きを理解することはできない。そこで、「Test & Learn」は店舗の規模や立地、売り上げ規模などのいくつかの基準に従い、複数のタイプを代表する店舗をテスト可能な店舗のサンプルの中から選択する。こうして偏りなくテスト店舗を選ぶことができる。

 2つ目は「正確性」の担保だ。「施策を導入した場合」と「導入しなかった場合」の差(シグナル)をそれ以外の要因がもたらすノイズと峻別することで可能になる。そのためには、APTが開発し進化させてきた独自のアルゴリズムにより、テスト店舗に選ばれていない店舗のなかから各テスト店舗に似た変動パターンをもつ店舗を見つけ出し、ノイズを補正する。

 さらに、テストのサンプルとして、どの程度の店舗数が必要かというシミュレーションも可能だ。

 及川氏は「統計学的には、数多くの店舗でテストを実施したほうが良いです。しかし、テスト店舗が増えると分析の負担が大きくなります。『Test & Learn』なら、意思決定に必要な精度の成果を、最小限のテスト数で導くことができるのです」とその効果を語る。

「各社の分析チームの課題に、分析そのものに忙しいというものがあります。テストの設計から分析までの流れをソフトウェアによって最適化・自動化することで、分析担当者にはもっと社内の他部門とのコミュニケーションを取る時間を増やして欲しいと思います」(及川氏)

 分析担当者の限られた時間は、「何を分析すればより大きな利益改善機会が得られるか」「分析の結果にもとづいて何をどのように改善するか」を見つけるためのコミュニケーションに使う必要がある。分析チームの目的は、統計学者を作ることではない。データを使って何を意思決定するか、何を分析すれば意思決定につながるかを考え、成果を導くことが重要なのだ。

すかいらーくやアサヒビール、ゲオなど先進企業への導入実績

 APTが強調するの同社の強みは「コンサルティング」だ。APTは1999年創業、小売だけでなく、外食、金融、航空会社など、数多くの企業への導入実績で培ったノウハウや知見がある。

「当社のコンサルティングチームは、業種ごとの課題を理解しています。実店舗小売企業と一口に言っても、業態やブランドポジショニングによって、築いてきた顧客との関係が異なり、施策の利き方も変わります。何を分析するとインパクトが大きいか、いかに分析結果を現場に伝えるか、という点でAPTのコンサルタントがクライアントと伴走します」(及川氏)

 導入初期の数ヶ月間は、APTのコンサルタントが導入企業のチームと協働して分析を行い、分析の結果が示す意味の解説や、各種改善のためのアクション実践についてをサポート。また、クライアントの幹部とのディスカッションを通じて分析結果を共有し、実際に企業の意思決定に使うプロセスを確立する。

 そしてプロセス確立後も、分析チームおよび経営幹部との定期的なディスカッションを通して「Test & Learn&」による意思決定をサポートをする。ある企業では、分析チームに2人しか担当者がおらず、年間4件しかテスト分析できなかったが、「Test & Learn」を導入した結果、年間約100件のテストを回せるようになった。

 現在、さまざまな業界の150社以上のリーダー企業が、APTを活用して利益の改善を実現している。

 具体的な企業としては、ファミリーレストランを展開するすかいらーくグループ、アサヒビール、DVDレンタルチェーンを全国展開するゲオホールディングスなどがある。これらの企業では、価格の設定やマーケティング、プロモーション、店舗オペレーション、営業の最適化など幅広い領域の施策の分析に「Test & Learn」を活用している。

 及川氏は、「Test & Learn」の効果が出やすい企業として「150店舗以上のネットワークを持つ企業」あるいは「会員数100万人以上の会員プログラムを持っている企業」を挙げる。

 同氏は、将来に向けたトランスフォーメーションを実現するためには、「繰り返し実験」が有効だと述べる。

「最終的には、オンライン対抗施策として思い切った変更を伴う施策を展開するとしても、いきなり最初に考えた施策を本格展開するのではなく、効果を見極めながら改善を重ね、磨きこんでから展開することが大事です。そのためには、施策を実験して効果を検証し、学習したことを生かして次の施策の実験を行う、という繰り返しが必要なのです」(及川氏)

 じっくり数年後を見据えて、今どうなっているか、明日どうあるべきか、データを元に科学的に見極めながら、粘り強く次の一歩を踏み出して欲しいと語る及川氏。リアル店舗を持つ企業、大規模な会員組織を有している企業にとって、データドリブンな変革を実現するツールとしてAPTの「Test & Learn」ソリューションは強力なパートナーとなるに違いない。

 エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の調査レポートのダウンロードはこちらから。

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