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人事給与システムは、会計や販売などとともに多くの中堅・中小企業が導入している業務システムの一つだ。しかし、その導入理由は「法制度に対応するため」が多く、「人材の育成に役立てている」といったケースは少ない。ただし、昨今ではこうした状況にも変化が見え始めている。そこで、本稿ではユーザー企業を対象としたアンケート調査結果を元に、中堅・中小企業が今後検討すべき人事給与システムの活用方法について考えていくことにする。
新しい法制度への対応は「機能」だけでなく「情報提供」が重要
まず始めに、人事給与システムについてユーザー企業がどのような課題を抱えているかを見てみよう。以下のグラフは人事給与システムを導入済みの年商50億円未満の企業に対し、「人事給与システムで抱えている最も重要な課題」を尋ねた結果のうち、回答割合が比較的高かった項目をプロットしたものだ。
「導入時の初期費用が高価である」「導入後の保守/サポート費用が高価である」「バージョンアップ時の費用負担が高価である」といったように、費用関連の項目が多く挙げられていることがわかる。売上分析などを行う販売管理システムなどと違い、人事給与システムは企業収益に直結する業務システムではない。
そのため、ユーザー企業としては導入/運用の費用をできるだけ抑えたいと考えるのが当然だろう。その裏返しとして、費用関連の課題が多く挙げられているわけだ。
費用関連に次いで多く挙げられているのが「各種の法制度変更に迅速に対応できていない」や「人材の育成や管理がうまく行えていない」といった項目だ。
多くの人事給与システム製品/サービスは新しい法制度の施行前にバージョンアップなどの手段で機能面の対応を行っている。
それにも関わらず、「各種の法制度変更に迅速に対応できていない」という課題が多く挙げられている理由は何だろうか?
新しい法制度に対応する際はシステムの機能追加だけでなく、ユーザー企業による業務面の変更も必要となる。例えば、マイナンバー制度の場合であれば、人事給与システムにマイナンバーを安全に管理/保管する機能を加えるだけでなく、マイナンバー管理を担う組織体制の整備や従業員からマイナンバーを収集する手順を取り決めておく必要がある。
こうした業務面の変更に必要な情報提供もユーザー企業が人事給与システムに求める役割の一つだ。
つまり、「新しい法制度に対する機能面への対応だけでなく、十分な情報提供を行っているか?」はユーザー企業が人事給与システムを選定/評価する際の重要な判断基準の一つといえる。
また、法制度変更への対応と同じくらいの割合で挙げられているのが「人材の育成や管理がうまく行えていない」という課題だ。費用関連の課題が多く挙げられているとはいえ、より安価な人事給与システムに変更したとしても移行の費用や手間がかかる。そのため、導入/運用に要する費用を現状からさらに引き下げることは難しいのが実情だろう。
となれば、人事給与システムの活用を通じて業績にプラスとなる取り組みを見出すしかない。有能な人材を育て、能力を発揮できる職場環境を整えることが理想だが、法制度対応を主な目的とした従来の人事給与システムにはそうした機能が備わっていないことも多い。その結果、「人材の育成や管理がうまく行えていない」という点を課題と考えるユーザー企業が少なくないわけだ。
タレントマネジメントやワークシェアリングも見方を変えると重要な取り組み
こうした課題を踏まえた上で、ユーザー企業は人事給与システムを今後どのように活用していけば良いのだろうか。それを知るための手がかりとなるのが以下のデータである。人事給与システムを導入済みの年商50億円未満の企業に対して、「現状で満足している機能や特徴」(グラフの青帯)と「今後必要と考える機能や特徴」(グラフのオレンジ色の帯)を尋ねた結果のうち、両者の差が比較的大きい項目をプロットしたものだ。
青い帯のほうがオレンジ帯よりも長い機能/特徴は、それについて満足しているユーザー企業のほうが新たに必要と考えるユーザー企業より多いことを表している。つまり、不満度は低く、今後のニーズがさらに高まる可能性も低い機能/特徴といえる。逆に、オレンジ帯のほうが青い帯よりも長い機能/特徴は現状では不満があり、今後もユーザー企業のニーズが高まっていく可能性が高いということになる。
グラフ中に挙げた7つの項目のうち、最初の3つは先に述べた現状の課題における費用面の3つの課題に対応している。4つ目の「マイナンバーに求められる業務に対応できる」は「各種の法制度変更に迅速に対応できていない」という課題に対応する項目だ。残る3つの項目は「人材の育成や管理がうまく行えていない」という課題に対応する項目と見なすことができる。
費用面に関する項目を見てみると、「導入時の初期費用が安価である」と「導入後の保守/サポート費用が安価である」は青帯のほうが長く、オレンジ帯のほうが長いのは「バージョンアップ時の費用負担が安価である」のみだ。
前者の2つについては現状の課題として挙げられているものの、多くのユーザー企業がそれほど著しい不満を感じているわけではないといえる。一方、残る3つ目のバージョンアップ費用については「現状よりも安価に済ませたい」と考えるユーザー企業のほうが多いことがわかる。
人事給与システムを賢く活用するためには、まずは「バージョンアップ費用が他の製品/サービスと比べて高すぎないか?」をチェックすることが大切だ。
「マイナンバーに求められる業務に対応できる」については青帯とオレンジ帯の差はごく僅かであり、ユーザー企業が著しい不満を感じている状態ではないことがわかる。この結果から、昨今で最も重要な法制度対応といえるマイナンバー対応については、多くの人事給与システムがユーザー企業の求める情報を十分に提供できていると見て良いだろう。
ユーザー企業が留意すべきなのは、「人材の育成や管理がうまく行えていない」という課題に対応する3つの項目だ。いずれも青帯よりもオレンジ帯のほうが長くなっており、今後のニーズが高まることが予想される。つまり、「人材の育成や管理がうまく行えていない」という課題に対して、具体的な取り組みを進めたいと考えるユーザー企業が多いということになる。各項目を順に見ていこう。
【次ページ】「人材の育成や管理がうまく行えていない」にどう対応すべきか
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