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  • 2013/02/14 掲載

IT化で崖っぷちの中堅・中小卸売業、躍進果たした4社の成長戦略とは

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 寺島大介氏に聞く

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国内の卸売業は、GDPの7.5%を占め、製造業、サービス業、不動産業に次ぐ産業を担ってきた。事業者数は33.5万にのぼるが(2007年、経済産業省調べ)、そのうちの99.2%が従業員数99人以下の中小企業が占めている。しかし、この10年間の統計をみると市場は縮小傾向を示しており、さらにデフレ下による支出抑制や、人口減少による消費者の影響が状況の悪化に拍車をかけている。「いま卸売業は存在価値が問われ、まさに淘汰される寸前の崖っぷちに立たされている。」と警鐘を鳴らすのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの寺島大介氏だ。卸売業者の起死回生策はあるのか?寺島氏に話を聞いた。

日本を支える中小の卸売企業は存亡の危機へ

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三菱UFJリサーチ&コンサルティング
コンサルティング事業本部 東京本部
革新支援室
コンサルタント
寺島大介 氏
──いま中堅・中小の卸売業の存在価値が著しく低下しているように見受けられます。その背景には一体どのようなことがあるのでしょうか?

 1つはITにつながるもので、情報流通の仕組みが従来とまったく変ってしまったことが背景にあると思います。もう1つは物流が変化してしまったことでしょう。卸売業の「情報・モノを届ける」という基本機能の価値そのものが低下してしまったことが最大の要因だと思います。

 情報面では、小売業や飲食業などで扱う商品情報を集めて届けるといった卸売ならではの機能が誰でも使える時代になりました。以前は、小売業者が卸売業者に情報収集を頼るという形が基本で、扱うべき商品はどのようなもので、それがどこにあるのかといった商品探索・品揃え・販売に必要な情報収集手段がなかったため、卸売業に頼らざるを得なかったのです。それがインターネットの登場によって、卸売業に頼らなくても自分たちで情報をどんどん取れるようになりました。

 一方、物流面では宅配便などが発達し、誰でも小口商品を安価で届けられる仕組みが確立しました。

 それらに加えて、小売業や飲食業でも厳しいコスト競争にさらされ、自分たちの手でより良い商品を作ってしまおうという動きも出ています。特に価格については、消費者が求める価格で提供しようとすれば、どうしてもバイイング・パワーを求めざるを得ません。結果的に複数企業が集まったり、M&Aを繰り返すことで、川下企業(小売企業)のバイイング・パワーが発揮されるようになり、川上企業(素材企業、メーカー)との間に立つ卸売業の存在意義が問われる状況になったのです。

 そのような状況で、特に中小企業の卸売業はどんどん取り残されてしまいました。彼らは従来どおりのセオリーでやってきましたが、それがゆえに相対的に価値が下がってしまった。そのため、いわゆる「中抜き」(卸売業飛ばし)が加速してしまったのではないかと思います。

成長の方向性を検討する2つの基本的な視点

──大変厳しい状況で、中堅・中小の卸売業が成長するために、どのようなことを考える必要がありますか?

 成長の方向性を検討することが大切です。これには2つの基本的な視点があります。1つ目は「顧客への提供価値の徹底追求」、2つ目は「自社の強みの徹底追求」です。

 卸売業に限らず企業としてはどうしても自社の商品をアピールすることに目が行きがちになります。しかし、商品やサービスを通じて、お客さまの売上をどう上げていくか、お客さまの利益をどう上げていくか、といった視点で、顧客へ提供する「価値」を考えることが重要です。

 卸売業ではお客さまに儲けていただくことが特に重要です。一番単純な方法は良い商品を提供して売上げを増やしてもらうことですが、ほかにもアイデアはたくさんあります。

 たとえば卸売業として物流を担う以上、お客さまにもその負担が見えない形でかかります。実際に毎日2回、小口で届けていた小売業のお客さまに対し、まとめて配送させてもらい、配送料のコスト削減に成功したケースがあります。もともと在庫を持ちたくないというお客さまの要望で2回届けていたのですが、実際の商品が動く現場を見ると商品の設置スペースにも余裕があり、配送を1回にしても大きな支障を来たさないことがわかりました。さらにただお願いするだけでなく、「配送費を削減できたら、その利益については折半で分配します」という約束をすることで、納得いただいたのです。

 ただし、この提案を行うためには、お客さまについて深く知る必要があります。実際の現場を頻繁に見ておく必要もあるでしょう。顧客の要望をそのまま聞くのではなく、相手の売上げや利益につながるようなソリューションが何か、それを突き詰めて考え、提案することが大きなポイントになると思います。

 それでも今はなだらかに減少している中小の卸売業ですが、今後どこかで一気に淘汰されるタイミングが来るとみています。

──なるほど。では2つ目の「自社の強みの徹底追求」で注意すべき点はありますか?

 これは、なぜお客さまが他社ではなく、自分たちと取引してくれるのか?商材やお客さまとの接点などを細かく調べ、他社と異なる強みを見出すということです。中小企業の場合、人間関係で取引しているケースも多々ありますが、その場合であればその担当者が他のお客さまからも同様に高い評価を得ている可能性が考えられます。ならば、営業方法に特徴があるというわけです。

 企業においては、属人的なノウハウが共有されないケースが意外と多いのも事実です。それらを具体的に拾い出し、営業部門で共有するように徹底します。会社全体として情報蓄積の仕組みを構築し、ビジネスプロセスも含めて全社的に取り組むことで、大きな改革が進むでしょう。ただし中小企業の場合は、いきなり大上段に構えても実現できないため、既存事業を下支えする施策を1つずつパッチワーク的に地道に実施しながら、舵取りの方向性を見出すことが多いかと思います。

──「自社の強みを決めるためには絞込みも必要だ」と説かれていますね。具体的にどのように絞込めばよいのでしょうか。

 これはケースバイケースとなります。取扱商品、人的サービスなど、さまざまな強みが出てくる中で、その強みを持つことで、お客さまや自社にどのくらいのメリットを提供できるのか、具体的に売上げや利益をどのくらい増やせるのか、金銭に置き換えて強みの絞込みを行うケースが多いですね。

 もう1つは、設定した強みに対して具体的な目標値を決め、人的リソースを短期的に投入し、様子を見る方法もあります。もし目標値を達成できなければ、元に戻って考え直します。目標値を達成できれば、それを強みとして絞り込むようにお薦めしています。この際に注意すべき点は、人を兼務させるのではなく、専任で投入して欲しいということです。これが成功の前提条件だと考えています。

 さらに手配いただきたいのは、普通の社員ではなく、エース級の社員です。慢性的に人材が不足する中小企業では大きな決断を伴うことだと思いますが、いかに優秀な社員でも環境が厳しければ維持するぐらいが限界です。それならいっそ、そうした社員を新市場に投入するほうがよいのではないでしょうか。

【次ページ】躍進果たした4社の生き残り戦略
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