『就活の神さま』常見陽平氏×『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』沢田健太氏
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建前の議論は止めて、企業と就職活動生の良いマッチングへ
――震災以降、学生の就活や企業の採用活動にどのような変化が現れていますか?
常見氏■「この先どうなるかわからないから、好きな事をやらなきゃだめだ!」って会社を辞めてしまう人が増えたという報道がありましたが、同時にすごい勢いで保守化する人も増えました。震災後一番増えたのは公務員志望者だっていう調査もあったくらいです。それと学生の話の中に「企業体質」というキーワードをよく聞くようにもなりました。自分の働く企業が21世紀を生き抜けるかということを重要視する人も多いんでしょう。
沢田氏■短期的に見ると、震災の影響で通常の4月採用から延期した企業が多かったので、間延びして意欲を維持できた子とできなかった子に差がついてしまった気がします。夏以降も意外と大きな企業から求人が出たりしたので、例年通りの時期に内定が出ないからといって諦めて欲しくないですね。
常見氏■メディアが今年の就職活動生がかわいそうなんてたびたび報じるのは罪深いですよね。ちゃんとみれば今年も意外と求人はあった。報道を信じて大手に落ちたから就職浪人に切り替えてしまった学生は、来年以降、どうするのか。
沢田氏■来年は就活で失敗する子がだいぶ出そうな気がします。実は、今年の採用期間が後ろに延びてしまっているせいで、新3年生のスケジュールがまだ見えていないんです。今のところ来年も企業の採用が4月、6月、8月、秋採用と分散する見通しなんですが、そうなると落ちてもまだ可能性があると学生はずっと引っ張られ続けてしまう。就活が間延びすると基礎的な時間管理ができない子や、2月、3月に集中的にやろうと思っていた子が耐え切れずにリタイヤしてしまう。一旦フェードアウトして夏求人や秋求人もあるだろうと思って顔出ししても、そういう子は苦労するかもしれません。
常見氏■大学では時間や生活の管理の仕方は教えてくれませんからね。実は震災以前から企業の採用活動は多様化してきていて、採用時期の問題だけじゃなくて、今は既卒者の採用に取り組んでいる企業もありますし、人材育成を謳い文句にした青田買いなんてことが出てきている。そういうところで採用される力のある学生は、そもそも生活をコントロールすることができているんですよ。だからかわいそうなのは普通の学生。私はこういった採用活動の自由化の流れは賛成だけど、それはやっぱり凄い人たちのためのもの。自由化された時にどうすればいいかを大学は教えてくれない。そこにまだ社会とのギャップがある。
――お二人が考える今後の就活や採用活動に対する課題を教えて下さい。
常見氏■建前の議論はやめなきゃいけないです。何度言うように一番かわいそうなのは普通の学生と普通の企業。そこは公的マッチングによる対応が必要なのではないかと考えます。厚生労働省がハローワークを管轄していたり、経済産業省がリクルートと組んでドリームマッチプロジェクトを立ち上げたりしています。でも、まさに縦割りなんですね。そこをどうミックスするか?
沢田氏■いま私が考えていることは大きく分けて3つあります。1つめは排除型の採用活動をどうするのか。インターネットで誰しもが簡単にアクセスできる就活環境になって以降、ものすごい倍率の志望者を選考するために排除型の採用活動になっている。例えばエントリーシートを見て、わずかな誤字脱字で落としたりするのは、その人の本質を見てはいないですよね。そこに表れない可能性だってあるはず。企業側だけの問題じゃなくて、キャリアセンターにきた求人に対して学内選考をして企業に渡す時も、排除型で選んでしまうことがある。減点法をやめて加点法で選ぶ社会じゃないと、若者の未来だけではなく我々の社会の未来を奪うことになりやしないかという危機感があります。
2つめが、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書。企業が各ポジションに関する職務内容を記述したもので、職務分析、職務評価などに活用される)をどうするのかという問題。たくさんの学生から厳選しても希望部署には配属されない例が多い。もし、学生に志望動機や入社後の希望を詳細に問うのなら、採用活動時と採用後の動きをちゃんとリンクしないといけないんじゃないでしょうか。
常見氏■学生が「僕は企画に向いています」って自分で言っても、企業側が営業に向いていると判断することはあるんで仕方のない部分はあります。だから、なぜその部署に配属されたのかをちゃんと説明してあげたり、今後の自分がどうなっていくのかキャリアパスを示してあげたりする必要はありますよね。
沢田氏■3つめは、これ以上大学や大学生を増やしていいのかという問題。全入時代で簡単に大学生になれても大学生向けの求人はもう増えない。そのことを知った上で大学に進学するかを選択させないといけないんです。もちろんそれを大学側から発信するのはリスクが高いですが、最近体力のある大学は正直な就職率の数字を公表し始めてもいます。アカデミックなだけじゃない大学のあり方に、踏み込んで検討してもいいんじゃないかと思います。
(構成・執筆:
大熊信)
●常見陽平(つねみ・ようへい)
人材コンサルタント、大学講師、著述業。『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)、『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)といった就活・キャリア関連の著書多数。現在も多様なメディアにて旺盛な発言を行っている。
●沢田健太(さわだ・けんた)
民間企業で営業職や人事職に従事。その後は、教育分野に転身。複数の大学(キャリアセンター)にて、キャリア支援に携わる。著書に『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)がある。現在の主な関心事は、「就活と若者の不安」「正解を求めようとする就職活動生の意識」「大学におけるキャリア教育の今後」など。
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